コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

[2] ( No.12 )
日時: 2012/11/23 20:01
名前: 成瀬 緋由 (ID: G0MTleJU)

 ステンレスで造られた低い校門の前まで辿り着くと、悠人は荒くなった呼吸を軽く整えた。奥の校舎が、生い茂る青葉で見え隠れしている広場は、さながら公園のようだ。木製の長椅子が、何脚か太い根の前に設置されている。湿っているのか、どれも黒ずんで見える。。
 右斜め向こうの、別の校舎に掛けられている少し黄ばんだ時計の針が八時十五分を指しているのを見て、悠人は目を瞠った。

「おぉ……やれば出来るじゃないか」

 普段はSHRが始まる間際、つまり八時三十分前後に、ゆっくりと教室の仕切りを跨ぐ悠人の、自己新記録を大幅に更新していたからに他ならない。
 
 そういえば、と連れの少女のことを思い出しかけた悠人の右横を、今にもはち切れんばかりの学生鞄を白銀のカゴに無理やり押し込んだ、シャンパンゴールドの自転車に乗った少女が、ふらふらと、傾斜のある校門へとペダルを漕いでいく。焦げ茶色のたっぷりとしたポニーテールがそっと宙を舞い、歯磨き粉の香りが悠人の鼻を掠めた。
 
 ……置き勉が盛んに行われているこの高校で、鈍器にもなりかねない鞄を持ち歩く女の子を、悠人は一人しか知らない。
 柚木遥。
 クラスメイトだが、一言二言しか話したことがないため、殆ど赤の他人に近い。
 しかしながら、観察を趣味とする悠人は、世間話で盛り上がる教室をそそくさと後にする遥を、いつも目で追っていた。
 そして今日も、また。

 駐輪場に留めるため、遥が自転車から降りようとした、まさにその時、

 見るからに重そうなカゴが、勢いよく手前に傾いた。
 

「あ」


 ——直後、大きな物音が響き渡った。