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Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.10 )
日時: 2014/07/08 22:07
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: wkmZWb4j)

 椎名昴は世界の平和を守る為のヒーローをしているのにもかかわらず、月給は月に500円程度でしかないのである。何故なら、彼が壊したビルや川原などは全て自己負担になるのだ。
 億単位で国と契約しているのにもかかわらず、彼は常にワンコインで生活をして行かなくてはならない。
 もうここで国なんてどうでもいいので捨ててやろうかと思ったが、そうはいかない。物心ついた時からこんなヒーローまがいな事をやっているで、困っている人を見ると助けたくなるのが常である。


「……上の説明はいらない気がするんだけどな。俺は」

「俺も思ったな。気に食わないが」


 現在、昴は天敵である東翔と対峙していた。
 今日は新しく雇ってもらったコンビニのアルバイト——もう何軒もコンビニでのアルバイトをやった事あるので慣れたが——なのでレジ番をしていたら、なんとお客として東翔がやってきたのである。
 彼がレジ台に置いたのは大量のコンビニスイーツ——彼は甘いものが大好きなのである。

「……で? 何しに来たの。全部で1863円になります」

 半分喧嘩腰で代金を要求する昴。じろりと翔の顔を睨みつけながら、器用に手だけを動かして形を崩さないようにビニール袋へと入れて行く。
 対して翔は2000円をレジ台の上に叩きつけ、格好よく「釣銭はいらない」とだけ答えた。こちらも声にイライラが含まれているような気がしないでもない。

「質問の答えになってないんだけど。何でお前は俺が働いているバイト先にいつも現れる訳? この前だってコンビニで会って喧嘩になってコンビニを燃やしたのがいけなかったんじゃん。あれを修理したのは俺だよ?」

「焼失した人類を生き返らせたのは俺だぞ」

「元凶が何を言ってやがる」

 釣銭はいらないという台詞を無視して、昴は律儀に小銭137円をレジ台に叩きつけた。おかげでレジ台にビキリとひびが入った。
 スイーツが詰め込まれたレジ袋をひったくると、翔はそそくさとコンビニを後にしようとする。
 しかし、そこで昴の声により足を止めた。

「もう2度とこないでください」

「——それは、客人に向かって対する態度じゃないな? この国では客人は神様だという教えがあると聞いたが、テメェにはそれがないのか?」

 くるりと肩越しに振りかえり、翔は昴を睨みつけた。
 レジ台に2000円を入れ終わった昴はふと顔を上げ、舌打ちをした。

「元から神様のテメェにそんな態度を取っても今更って感じだけど?」

「だったら崇めろよ」

「誰が崇めるかよ誰が。テメェを崇めたところで死期が早まるだけじゃねぇか、死神だし」

 その言葉にカッチーンと来たのか、並んでいたおばさんの客を吹っ飛ばして、昴のレジを占領する翔。ぐっと身を乗り出して、女の子らしい顔つきを懸命にしかめ、昴を睨みつけた。
 睨みつけられた昴も同じように翔を睨み返す。くりっとした大きな瞳を精一杯に細めて、何とも言えない迫力で翔へメンチを切っていた。
 お客がざわつき始めることも知らないで、2人の言葉なき戦は続いた。心なしか、その間にバチバチと火花が散っている。

「……昴、一体何をしている訳?」

 そこへ、バックヤードから帰ってきたのか、石動誓がやってきた。隣のレジ台を解放し、「お次のお客様どうぞ」と声をかける。
 バチバチと喧嘩を展開しつつあるレジを避け、お客は誓が担当するレジへと流れた。
 それでも昴と翔の喧嘩は終わらない。

「……いつまでも睨んでんじゃねぇぞ? 俺のことが好きなのか?」

「ほざけ。何を馬鹿なことを抜かしていやがる。願い下げだ——誰が男なんかを好きになるか」

「ほう? 女みたいな顔をしてよく言ってるねぇ。オカマバーとかに行ったら従業員として働けるよ。何なら紹介しようか?」

「地獄のコンビニにでも雇ってもらったらどうだ? ここより時給は高かったと思うが——ただし商品として扱うのは人間の臓器および魂などだ。スプラッタな仕事がテメェにはできるか?」

「ハッハッハッハ。面白いことを言うね。俺を殺せないくせにそんなこと言っちゃってさ。この少女容姿死神」

「単純馬鹿だからコンビニしかバイト先が見つからないんだな。可哀想に」

「「何だとコラぁぁぁ——!!」」

 昴と翔はレジ台を踏みつけ、それこそキスでもできるんじゃないかと思うぐらいに顔を近づけ絶叫した。互いの唾が飛び合うが、そんなの構っていられない。
 またか、と誓は思った。
 彼らの戦いは罵倒から始まる。こうしてお互いを罵倒し合ったのち「何だとコラ!」で戦闘が開始する。
 ここでのバイト生活も終わりか、などと石動誓は思っていると——


「金を出せぇぇぇえ!」


 いつの間に店内へ侵入したのか、ピストルを持ったコンビニ強盗がやってきた。顔はフードに隠されて見えないが、とりあえず身長は高いので男だと見受けられる。
 お客は悲鳴を上げ、誓も両手を上げてフリーズする。ここで撃たれたら死んでしまう。

「よしよし。店員、殺されたくなければ金を出せ。ありったけのな」

 リュックサックを置き、強盗は余裕の声で言った。
 しかし、彼は過ちを犯したのである。
 そのレジ台は、今まさに地球を滅ぼす勢いのある、2人の戦場である。


「「誰にもの言ってんだ、雑魚が」」


 2本の腕が同時に伸び、強盗の胸倉を掴む。ヒィッ! と強盗は悲鳴を上げてしまった。

「え? 何その玩具。そんなので俺を殺せるとでも思ってんのかテメェ。ヒーロー舐めるなよ」

「そんなちんけな玩具如きで死神の俺を殺せるとでも思うなよ雑魚が。死神を舐めるなよ」

「ひ、ヒィ?! ううううううるさい! お前らなんか相手しなくてもこっちには人質がいるんだ——!!」

 強盗は絶叫すると、拳銃をお客に向けた。悲鳴が店内に響き渡る。
 ————ただし、それは強盗のだったが。

「おい死神。こいつの手ぇ直してやってくれねぇか?」

「奇遇だな。テメェにはここのATMを負担してもらおうかほんの200万円ぐらい」

 昴は強盗の手を握りつぶし。
 翔は強盗が求めていた金(ATM)を炎で溶解させた。
 誰もが悲鳴を上げるのは当たり前である。激痛に恐怖。悲鳴を上げないでいられるとなると、そいつはもう人間ではない。彼らみたいに。

「「もう少し計画を練ってから強盗しやがれ!!!」」

 昴は渾身の力で(第3宇宙速度で)ペイントボールを投げつけ。
 翔は赤い鎌でコンビニ強盗をそれぞれ殴りつけたのである。


 ——警察が来たのは、のち20分後だった。