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Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.102 )
日時: 2014/04/24 22:32
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Qvi/1zTB)

 背後になんかいた。何かいた。
 いや、もう何かって言うか真っ黒焦げの人間なんだけど、めちゃくちゃ怖かった。こっちにガッポリ口を開けていたものだから。
 そして昴が目を覚ませば、見慣れた天井が飛び込んできた。薄汚れた天井——昴が住むアパートの天井だ。汚れ模様も同じなので、ここは昴が住んでいる部屋だと認識する。
 じゃあ、一体どうやって帰ってきたというのか。

「……すげーな。ついにワープ機能まで備えたか」

「な訳ないだろ、アホ」

 ぼんやり天井を見上げていた昴の顔面に、真っ白い紙の束が落とされた。パァン、というかドスッという音がした。
 思わず「ふぐぅ」という情けない声を上げて跳ね起きると、いつもはエロニートの理人やロリっ子毒殺仕事人の小豆がいるはずの部屋が、今は翔と雫の2人だけしかいない。

「あぁ、この部屋にいた奴らは全員隣に移ってもらった」

「あ、なーるほど。だから3人しかいねえのな……つーか、この紙束は一体何」

 跳ね起きた反動で床に落ちた紙束を拾い上げれば、何かの経歴書だった。
 顔写真が載っていて、名前が記入されていて、住所とか年齢とか生年月日とか死亡予定時刻とか書かれてて————

「おいいいい!? これって、これって!」

「あぁ、死神が魂の回収で使うリストだ。ちなみにその紙束は一昨日のものだ」

「ちょ、待て! これ一昨日!?」

 この分厚さは広辞苑まで行かなくとも、大辞泉は軽く超すぞ? ていうか同じぐらいだぞ?
 分厚い真っ白な死亡者リストを鷲掴みにして、昴は目を丸くした。そして何ともない表情でパラパラと白い紙をめくっていく翔を見やる。
 その視線に気づいたのか、紙面から顔を上げた翔が眉をひそめた。

「何だ、一体」

「いや……こんな分厚いものを狩ったんだなぁ、と」

「そんなものだぞ。死神の仕事は、下手をすればブラック企業よりもブラックだからな。いや、もう人を殺している時点でブラックなのだが」

 いいから火事で死んだ人間を探せ、と翔に命令されて、渋々昴は紙をめくり始める。
 こんな仕事量をこなしている翔は、ある意味すごいと思う。よくワーカーホリックにならないものだ。死神の仕事をしたことないので分からないのだが。
 しかもこれ、外人の魂まで混じっている。これ外国まで狩りにでも行ったのか。

「なあ」

「何だ」

「外人の魂はどうするんだ? わざわざ外国まで取りに行くのか?」

「日本に住んでいる奴だけだ。俺の管轄は日本だ。日本全体の魂を狩るのを仕事としている」

「日本人これだけ死んでいるんだな……」

「事故や殺人、病死、老衰……その他色々あるんだが、俺はその中でも自殺の項目をなくそうとしている。まだ終わらぬ命を自らの手で絶つ愚行——俺は絶対に許さん」

 その手に握られている白い紙が、ぐしゃりと歪んだ。
 翔には翔の思いがあって、人類を支配しようと思っているようだ。昴が「自殺ダメ絶対」なんて注意喚起したところで聞く人間などいるだろうか。そうなると、支配した方がよほどいいかもしれない。
 特に、翔は命に関する仕事に携わっているのだ。
 そっと紙の束を見下ろせば、1番上の真っ白な紙に記載された男の死因が『自殺』とあった。大人しそうな顔をした男だった。

「テメェのリストが配られれば真っ先に狩ってやるのだがな」

「畜生。少しだけジーンときた俺の感動を返せ」

 こいつは最後の最後で雰囲気を壊す馬鹿野郎だった。
 昴はチッと盛大に舌打ちをして、パラパラと紙をめくっていく。相手の死因は『殺人』『事故』『自殺』の3つに絞られる。
 死んだ経歴に目を走らせて、火事で死んだ奴をピックアップしていく。おいおい、一昨日の死亡者リストで6人も火事で死んでやがるぜ。

「火事で死んだ人ってこのぐらい?」

「1週間分のリストで何人いるんだよ……本ができるぜ」

 こんもりと山を作った火事で死んだ死亡者リストを呆然と眺める昴と雫。
 唯一平気なのは翔だけで、ポンポンと1番上のリストを叩きながら「まあ、200人前後だな」とポツリとつぶやく。何で人数を瞬時に把握できる。

「わぁ、いつも死神ってこんなにたくさんの人を殺してたの? もうスイーパーじゃん。掃除屋じゃん」

「殺すと言うな。狩ると言え。——まあ、あとはこうするだけだが」

 翔は山となった書類を、ポンと鎌で叩いた。
 すると、真っ白な紙から真っ白な光があふれ出して、ふわふわと空中に浮かび上がる。翔の周りを囲うように浮かぶ書類1枚1枚に目を通し、翔の手が1枚の紙を取った。
 男の写真と、名前。死因は『自殺』で、焼身自殺。

「あ」

「まさに」

「こいつだな」

 顔が一致した。