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Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.109 )
日時: 2014/06/26 22:46
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Qvi/1zTB)

 目の前を歩く銀髪碧眼の少女——ユフィーリア・エイクトベル。
 地獄でも指折りの強さを誇る少女であり、死神の中で最も強いとされている。何でも死神と巨人のハーフだとか。
 巨人と言えば、高い戦闘能力と強靭な肉体と巨大な体を持つ種族であるが、彼女はどうやら死神寄りらしい。小柄ではあるが、その強さは巨人族並みである。
 ちなみにどのぐらい強いかと言えば、進撃してくる巨人の人類最強と同等ぐらいである。

「なーにぶーたれてんのよー。ていうか出雲、隙あらばナイフを投げてくるのはやめてくれる?」

 翔たちを引きつれて石造りの建物内を歩き回るユフィーリア。へらへらとした表情で、3秒前に出雲が投げつけた果物ナイフを揺らす。
 チッと出雲は苦々しげに舌打ちをして、「だからこの子って嫌いなんだよなぁ」なんてぼやいた。
 悠太もさすがに手を出そうとしないのか、うつむいたまま無言を貫いている。玲音は相変わらず「メアリー! メアリーッッ!!」とうるさい。いやほんと。

「何がしたい」

「何度も言ったよね」

 ユフィーリアは出雲の果物ナイフを、翔の喉元に突きつけた。見据えられた碧眼が、ゾッとするほど冷たい色を帯びている。
 その目は、どこかで見たことがあった。
 そう。どこかで。

「上司からの命令って」

 その言葉の端々には、殺意が込められていた。
 これほどの殺意を前にして、何も言えなかった。翔は「クソッ」と小声で悪態をついて、ユフィーリアから視線をそらす。
 わざわざ彼女を使ってまで翔を捕まえるなんて、一体地獄は何がしたいのだろうか。いくら頭のいい翔でも、そこまでは分からない。
 ここで地球を吹っ飛ばすほどの炎を使って彼女を殺してしまうのも手だが————。

(……手錠が面倒くせえな)

 翔の細い手首には、重々しい手枷が嵌められていた。しかも2重に。翔の力では千切ることができない。
 ガシャンガシャンと何度か鳴らしたが、「無駄な足掻きはよしたらー?」とユフィーリアに言われたのでやめておいた。

「まー、こっちも命令以上のことはできないからやらないけど。アタシのお仕事は翔たちを捕まえるだけだったし。捕まえて牢屋にぶち込めば、任務は完了」

「何だと?」

 翔が眉をひそめた。
 ユフィーリアは「ん?」と首を傾げた。

「いや、だって。さすがに処刑までは言い渡されてないし。何の罪状か分からないのに、しょっ引くなんてできないよ?」

 そう。
 ユフィーリア・エイクトベルは処刑人と呼ばれる人物である。
 通常、死神は魂の判決をする。それは人間に限られてくるのである。
 では、死神が罪を犯したら一体誰が裁くのだろうか。上司の王様だろうか——否、死神は処刑人に処刑されるのだ。
 翔は死神でもあるが、死神も殺すことができるので処刑人の役割も担っている。まあ、それは置いといて。
 翔がどんな罪状なのか知らないので、ユフィーリアはその場で処刑をすることができないのだ。殺すことはできるだろうが、そうすればユフィーリアも他の処刑人に殺されてしまう。

「まー、クッソ汚い牢屋で待機していてねってことで。ドンマイ」

「……うへぁ」

 しまった、牢屋って汚かったか。
 翔は顔をしかめるのだった。


***** ***** *****


 メアリーと正座で対面している昴は、とりあえず現状を頭の中で整理しようとフル回転させていた。
 翔が死神に連れて行かれた。
 訳が分からん。
 同業者に連れて行かれたのか。

「……メアリー、よく分からない」

「私もよく分からない」

「そうか」

 いや、そうかじゃなくて。

「他の死神?」

「分からない」

「どんな奴だった?」

「女の人」

「それから?」

「……」

 わー、話が続かない。誰か助けてください。
 ていうかそもそもメアリーとあまり話したことがないので、会話に戸惑う昴。言葉のキャッチボールができないってすごく悲しい。
 早くも心が折れかけている昴へ、メアリーが言う。

「……銀髪碧眼。長い刀を持っていた。空華って名前」

「……ふーん」

 なるほど分からん。
 そもそも昴は地獄に縁がないので、行こうと思っても行けないのだが。どうやって行けっていうのだ。死ねって言うのか。
 うーんうーん、と悩んでいると、「このまま」とメアリーが口を開く。

「このまま、帰ってこなかったら、どうしよう」

「……メアリー」

 メアリーも、一応翔たちのことを心配しているようだ。表情は無だが、しょんぼりとしている。
 なるほど。メアリーも悲しいのか。
 昴は1人で納得し、それからポンと手を叩く。

「こんな時こそ、テリーさんじゃね?」

 あの情報屋から何かを引き出せるかもしれない。
 思い立ったが吉日。昴はサッと立ち上がると、メアリーへ手を差し出した。
 きょとんとした表情を浮かべるメアリーへ、昴は言う。

「一緒に迎えに行くぞ。お前も戦えんだろ」

「……うん」

 メアリーは小さく頷くと、昴の手を取った。