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Re: お前なんか大嫌い!! ( No.111 )
日時: 2014/07/17 23:13
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: wkmZWb4j)

 さて、どうしたものか。
 とりあえず情報屋であるテリーへ聞きに行こうと外へと出たのはいいが、テリーがどこへ住んでいるのか分からない。
 メアリーの手を引きながら、昴は自分がバイトしている喫茶店へ行こうかと思ったが、やめた。今は閉店しているし、テリーを追い出したばかりだ。
 携帯を確認してみれば、ディスプレイが示す時間は11時——どこの喫茶店も閉まっていることだろう。

「困った。迷宮入りだ」

「使えない」

 ジャキ、とメアリーはどこからともなく取り出した刀を構えた。街灯に照らされて、刃が鈍く輝く。

「切ろうとするな。危ないだろ」

 攻撃態勢に入ったメアリーと距離を取る昴。この少女の近くにいては、自分が殺されてしまう。まだ翔を殺していないというのに。
 だが、今はメアリーを相手にしている場合ではない。一刻も早くテリーを見つけて、地獄への行き方を聞かねばならない。
 さもないと、翔が殺されるかもしれない。冗談ではない、殺すのはこの自分だ。

「……つってもな、テリーさんがいるところなんて見当もつかないし」

「ワシがどうしたって?」

「いやだからテリーさんがね、見つからないどころかどこに住んでいるのかも分からないから行動のしようがないなって——」

 反射的に拳を振り抜いた。本気で殴りかかったのか、ビュウッ!! と空気が引き裂かれ、風圧で髪が揺れる。
 殴りかかられた相手——テリーは、ケタケタと楽しそうに笑っていた。殴られたらひとたまりもないのにこの余裕、さすがである。

「いやいや、相も変わらずいい拳だ。んん? 可愛い女の子と駆け落ちかい? ヒーローがそんなただれていいのかい?」

「本気で殴られて宇宙旅行したくなければ俺の質問に黙って答えろ」

 いまだうるさい心臓を落ち着かせ、昴は話を切り出した。

「東翔が銀髪碧眼の女に連れて行かれた。地獄への行き方を教えてもらいたい、知っているか?」

「行ってどうする? 顔を突き合わせればいつも喧嘩をしていただろう。まさか、助けるとでも?」

 テリーの黒い瞳が、スッと細められる。
 彼の言う通りだ。常日頃、喧嘩をしている相手である。この際助けなくても、どこかで勝手にくたばってくれる。
 だが、昴は納得できなかった。
 彼はいつか、自分の手でぶっ飛ばしてやりたかったのだ。誰かに獲物をかっさらわれるなどごめんである。

「……なるほどねぇ。やっぱり似た者同士っていうか……君たちは仲よくなれそうだけどねぇ」

「ハァ?」

「いや、こっちの話だ。君の瞳を見て確信したよ。いいだろう、地獄への行き方を教えようか」

 ついておいで、とテリーが先陣を切って歩き始める。地獄への行き方を知っているようだ。てっきり「死ねばいい」という答えが返ってくるかと思った。
 メアリーが心配そうな目で昴を見上げてきたので、「大丈夫だよ……多分」と言っておく。多分、という言葉をつけておかないといけない気がした。
 人気のない道を突き進み、さらに人気のない裏路地へと入り込んでいく。すでに街灯の光はなく、うっすらと見えるテリーのワインレッドのシャツだけが頼りだった。星明りすらもないので、わずかな光源だけで進む。

「さあ、ここだ」

「……井戸?」

 テリーに案内された場所は、なんと井戸だった。
 入り組んだ裏路地に、ひっそりと存在する古びた井戸。周りはマンションや小さなビルに囲まれているのに、ここだけぽっかりと穴が開いたように存在している。

「この井戸は、地獄に通じているらしい。ほら、小野篁が井戸へ落ちて地獄へ行った話は知っているだろう? あれと似たようなものさ」

「……保証は?」

「ない。けれど」

 テリーはにやりと笑って見せた。全てを見透かしたような笑みだった。


「君が東翔を助けたいというのなら、飛び込めるだろう?」



 ——なあ、ヒーロー、とテリー。
 井戸を覗けば、底など見えない。完全なる闇だ。地獄につながっているという話も納得できる。
 噂が嘘なら、井戸の底に叩きつけられて昴は死ぬだろう。いや、簡単には死なない。翔の炎で攻撃されても燃えないほどだ、足の骨折ぐらいで済むだろう。

「……クッソがぁぁぁ!!」

 井戸の底に向かって、叫ぶ。
 まるで地獄全体へ響けと言わんばかりに。

「東翔ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 井戸を乗り越え、お決まりの台詞を絶叫した。


「お前なんか大嫌いだぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああッ————————」


 プツッと。昴の声が途切れた。
 メアリーとテリーが井戸の底を覗いてみるが、茶色い髪の少年の姿はなかった。

「いなくなった?」

「あぁそうだね」

「私も行った方がいい?」

「行かない方がいい。この井戸はお1人様なんだ」

 テリーは「そういう風になっているのさ」なんて訳の分からないことを言いながら、夜空を見上げた。
 さて、地獄へと旅立ったヒーローは、最大の敵である死神を救えるだろうか。