コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.120 )
日時: 2014/08/14 21:54
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: wkmZWb4j)

 バイトが終わって店を出たら、死神が降臨しなさった。
 ただし鎌はなくて、拉致したのは部下の悪魔と死神だけど。助けても叫べない世の中になったものだ。
 米俵のように担がれて人に見られながら連れてこられた場所は、廃ビルの屋上だった。正直顔を覆いたくなるほどに恥ずかしかった。

「……バイト先で待ち伏せするのはいいよ。100歩譲って。でも人が見ている中で拉致はしてほしくなかった、すげー恥ずかしかった」

「ごめん、時は一刻も争うから」

 しょんぼりした様子で謝られれば、怒る気など起きなかった。
 ため息をついた昴は、「で、何?」と悠太に用件を促す。しょうもない用件だったら帰ってやろうと思いながら。己を担いできた悪魔は、自分のナイフを弄って遊んでいるので簡単にぶっ飛ばせるだろう。

「実は、翔様がいなくなっちゃったんだ……帰ってこなくなっちゃって……」

「事故ったんじゃね?」

 死神でも交通事故とかあるのか、とか軽い調子で考えながら昴は適当にあしらった。
 しかし、悠太は首を振る。
 そりゃそうか。ヒーローに殴られても死なないような奴が、交通事故に遭って病院送りとかないだろう。刺されても死なないような奴だし。
 だとしたら、翔は——あの俺様女顔死神はどこへ消えたというのか。

「……それが分かれば苦労はしねえよ」

「出雲、お前は探せないのかよ。悪魔だろ」

「できることとできないことがありますー。人探しなんて死神じゃないとできませんー」

 出雲の発言により、視線が集まったのは悠太だった。

「お、俺できねえよ!! いつも魂を狩ってたのは翔様だぞ!?」

「いや、お前も死神じゃん。お前の能力で探せよ。ハイ、解散」

「待って!! お願いだから待って!!」

 帰ろうとした昴だが、悠太が必死に止める。出雲は止めない、両手にナイフを持っている。
 しかし怪力の昴に敵う相手ではなかった。そのままずるずると引きずられて、屋上の出入り口に2人して向かう。悠太の抵抗もむなしく終わった。

「お願いだから!! 翔様を助けて!!」

 悠太の必死の訴えに、さすがに昴も止まった。
 そして考える。
 ——このままあの死神に恩を売っておけば、何かいいことあんじゃね!?
 常日頃から突っかかってきては地球の危機に陥って何とか危機回避しているのだが、ここで恩を売っておけば1日は平和に過ごせなくもなくもなくない!?

「……よし、いっちょあの死神に恩を売りますか」

「助けてくれるのか!?」

「聞こえていなかったのか? 俺は、恩を売るって言ったんだぜ☆」

 清々しいほどの笑顔で昴は言ってのけた。
 あいつに恩を売れば、平和に過ごせるー♪ なんて鼻歌を歌っていた。これがヒーローなんて世も末である。


***** ***** *****


 ユフィーリア・エイクトベルは思案する。
 どうして死神の東翔を捕まえる必要があったのか。彼にどんな罪があるのか。
 地下牢にぶち込んだはいいけれど、あいつに一体何の罪があるのかユフィーリアには理解できなかった。

『ユフィーリア、どうしたの? さっきからそんな悩んでいる感じだけど』

「……あいつって一体何をしたのかなって思っただけ」

 幼い頃から翔のことを知っているユフィーリアだから言えること。
 何故あいつは捕まらなきゃいけなかったのか。

「あいつって、案外ルールに厳しいじゃん。それなのに、どうして捕まえる必要があったのかなって」

 遠くでユフィーリアの名が呼ばれ、ユフィーリアはそちらに足を向ける。
 謎は深まるばかりである。