コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.127 )
- 日時: 2014/11/02 23:21
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: vfLh5g7F)
ユフィーリア・エイクトベル。
地獄では罪人に罰を与える存在である『処刑人』の1人である。また、彼女はこう呼ばれていた。
——曰く、最強と。
彼女は独特な技を使う。彼女自身は切断術と呼んでいるのだが、その魔法じみた攻撃方法がまた厄介なのだ。
ユフィーリア・エイクトベルの刃は空間を超えることができる。
彼女が「切る」と思って相棒である空華を振り抜けば、その相手を必ず切り殺すことが可能なのである。たとえその敵が遠くに離れていこうとも、彼女は確実に切り飛ばす。
その切断術を切り抜けた者は、今まで誰1人としていなかった。だから彼女は最強と呼ばれていたのだ。
だと言うのに。
(強い……)
目の前の少年の拳を受け止める。
だが、その力があまりにも強すぎて、ユフィーリアの体は数歩下がった。数歩下がった分の足跡ができる。
最強たるユフィーリアは、純粋に少年へ強さを感じていた。拳を受け止めた手が痛みを伝える。
「……ハハッ」
面白い。
ユフィーリアはニヤリと不敵に笑んで、空華の柄を握ったのだった。
***** ***** *****
強い。尋常ではないぐらいに、彼女は強い。
ユフィーリア・エイクトベルと名乗ったか。攻撃の出が早すぎる上に、その攻撃の軌道が読めない。刃なら振られる軌道が見えるのに、だ。
まして彼女の持っている『空華』という名の長大な刀は、刀身が青い。青い軌跡が昴の目に映ってもいいのだが。刀身が青い軌道を描いて振られたとしても、別の場所が切れるのだ。
「うらぁ!!」
考えてはならない。昴は右拳を突き出した。
ドッパァァン!! という轟音と共にユフィーリアへ拳を受け止められてしまう。舌打ちをして拳を戻し、今度はハイキックをお見舞いした。
これもまた彼女の腕で捌かれてしまう。伊達に最強を名乗っている訳ではなさそうだ、一筋縄ではいかない。
「——シッ!」
「ふぬぁ!? 危ねっ今見たあれ! すげぇ俺今イナバウアーした!!」
もはや緊張しすぎていて、テンションがハイになっているようだ。昴は背を仰け反らせてユフィーリアの斬撃をかわしたことを、両手を叩いて喜んだ。
だが、斬撃はかわしたはずなのに、昴の背後にあるスタジアムの客席に刺傷が作られた。彼女からは、距離があるというのに。
「……ハイ、質問いいですかー」
「何でしょうかね。答えられる質問ならいいよ。アタシ馬鹿だから加減してね。アタシでも分からないものだったら——そうだな」
斬撃を繰り出しながら、クイッと刀を握っていない左手の親指を突き立てた。
その先にいたのは、処刑(転生)を待ち構えている翔だった。きょとんとしたような表情を浮かべて、ユフィーリアに指さされたことを不思議そうに眺めている。
「あいつが説明してくれるさ」
なすりつけた。
「じゃあ質問!! どうして斬撃をかわしたはずなのに、後ろのスタジアムがバンバン切られていくんでしょうね!! 攻撃をかわしたらかわしっぱなしじゃないんですかね!!」
お構いなしに質問をした昴。
パァン!! と鋭い音がして、昴とユフィーリアの間の距離が開いた。両者共に肩で息をし、消耗しきっているようだった。
すると、ユフィーリアは笑った。からりと笑った。
「アタシの斬撃は、距離を飛ぶ。たとえアンタが攻撃をよけようとも、その先に何かがあれば距離を飛び越えて『それ』を叩き斬る!!」
「嫌な攻撃だなオイ!!」
昴は叫ぶ。非常に厄介だ、この野郎。翔よりも厄介な奴ではないか。
どうやってブッ飛ばそうかと身構えて考えているところで、周りからの野次が飛んでくる。
「何を戸惑ってやがるユフィーリア!!」「人間相手だぞ!!」「殺せ」「殺せよ」「今すぐ処刑を」「歯向かう人間に断罪を」「罰を」「殺せ」「殺せ!!」
こぞって昴を「殺せ」と叫ぶスタジアムの死神たち。それが嫌なコーラスとなって、辺りを漂う。
昴は聞かないようにしていたが、フラストレーションがたまっていったのか、スタジアムに向かって怒声を叩きつけた。
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
拡声器も使っていないのに、昴の声はよく響き渡った。
「うるせぇ!! 今俺はこいつと戦ってんだろうがよ。邪魔するならこいつブッ飛ばしたあとまとめてブッ飛ばして——」
「戦いの最中に」
昴が気づいた時には、すでに青い軌道は昴の上を走っていた。
より正確に表すなら、昴の耳の上を。ヘアバンド変わりに使っていた、ヘッドフォンを切断していた。
バラリ、とヘッドフォンが地面にカツンと音を立てて落ちる。昴の漆黒の瞳が見開かれた。
「よそ見をしちゃいけないよ」
ユフィーリアが不敵に笑む。それから彼女の手にした空華が大上段に振り上げられる。
——だが。
——誰も気づいてはいなかった。
——いや、少なくとも、翔は気づいていた。
ころせ。
「——ぁ?」
ユフィーリアの鳩尾に、拳が突き刺さっていた。貫通はしていない。いつの間にかめり込まれていた。
ふわっと彼女の体が浮かび上がり、ズドンッ!! と大砲の如き轟音を立ててスタジアムの方へと吹っ飛ばされる。数人の死神を巻き込んで、彼女は止まった。
「いてぇ……一体——」
なんなの、という言葉は声にならなかった。それよりも先に、昴の蹴りが飛んできた。
腕を使って攻撃を受け流そうとしたユフィーリアだが、威力に耐えられずに再び宙を舞う。何度か硬い地面に叩きつけられて、ようやくユフィーリアは立つことができた。
「……アンタ、ちょっと」
ユフィーリアは見た。
昴の瞳に、光はなかった。
翔があの合宿で見た瞳と、同じものだった。