コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.13 )
日時: 2012/11/15 23:19
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

「——チッ。気分悪い気分悪い。何であいつはこの世に存在しているのだろうかもう死んでくれねぇかな」

 昴はそんな事をぶつくさ言いながら、暗い夜道を歩いていた。
 彼はバイト帰りである。今日のコンビニでのバイトはもう終了したので、スーパーで総菜を買ってから家に帰る事にした。
 ちなみに何度でも言うが、昴の月給はバイトの金額を覗くと500円である。ワンコインである。
 命がけで人類を守っているのにもかかわらず、億単位の契約金のおよそ9割は修繕費で消えてしまう為である。だから、昴は安いぼろアパートで日々生活をしているのである。

「だるい。今日はヒーローの仕事をやりたくねぇ」

 ガシガシと明るめの茶色い髪の毛を掻きながら、ボロボロのアパートの階段を上る。風雨にさらされて赤茶けたそれは、今にも壊れそうだった。
 カンカン、と足音を立てながら上って行くと、

「あ、」「ん」

 目の前に、東翔の姿が見えた。
 ボロボロの木製のドアに手をかけて、こちらをじっと見つめて静止している東翔は、一時はぽかんとしたような表情を浮かべていたが、次の瞬間に血相を変えて怒鳴ってきた。

「どうしてテメェがここにいる!」

「そりゃお隣さんだからだろうが!! 何でお前がこんな時間に帰って来てんだよ、どこぞで夜遊びでもしていたのか?!」

「うるせぇ仕事だ仕事! 今日だけで9件も自殺者がいたんだよ! 胸糞悪いったらありゃしねぇ!!」

「だったらどうにかしろよ、死神だろ!」

「それをテメェが阻止しているのがいけねぇんだろ!!」

 何だとコラーッ!! と喧嘩になりそうになったところで、下層からゲフンと声がした。
 ひょいと目を下にやると、パンチパーマのおばあさんが竹ぼうきを片手にこちらを睨んでいた。
 昴と翔は2人して苦笑いを浮かべて、「こ、こんばんはー」などと言う。が、また台詞がかぶった事で喧嘩になろうという時に、再びおばあさんが咳払いをした。
 互いに顔を見合わせて、盛大に舌打ちをする。

「テメェ騒いだら殺すからな」

「そりゃこっちの台詞だ」

 ベーッ! と舌を出して、2人は同時にドアを開ける。
 錆ついた音を立て、思い切り開け放たれたドアから飛び出してきたのは——

「すー! おっかえりーッ!!」

「ゲブン!」

 みぞおちに盛大に黒い髪の少女がヒットする。黒い髪をツインテールにしているところがまた可愛らしい。将来に期待が持てそうな美少女である。
 昴は少女を引き剥がし、ため息をついた。ズキズキと痛むみぞおちをさすりながら、少女の頭に手を置く。

「なぁ、小豆。もう少しソフトに抱きつくとかできn「できない!」あぁそう。もういいや……」

 速攻で否定されて、昴はもう完全に諦めモードへ移行した。
 ぐちゃぐちゃになっている玄関にいつも履いているスニーカーを脱ぎ捨て、畳の上へ上がる。ちゃぶ台に台所、そして開け放たれた押入れの上段には可愛らしい布団と(何か変な)猫がいた。ちなみに下の段にはパソコンなどがたくさん。
 部屋の隅にもデスクトップ型のパソコンがあるのだが、まぁそれは別として。
 昴はそのデスクトップパソコンの前に鎮座する男へ声をかけた。

「お前は部屋の主が帰ってきたら、声くらいかけろよ」

 しかし、男は振り向く気配を見せない。よろよろのTシャツにスウェット、そして頭にはヘッドフォンという風貌である。髪の毛はしばらく切っていないのか肩甲骨辺りまで伸びた赤髪、ディスプレイを睨みつける切れ長の目は鳶色をしている。
 男はディスプレイに映った全裸の男女が『ピ————————』をしているシーンを、食い入るように見ていた。

「女の子の前でなんちゅーものを見ているんだ、お前は!」

「ゲブンッ!」

 昴は総菜をちゃぶ台の上に置き、パソコンの男へチョップを入れた。力を押さえている為、第3宇宙速度を叩き出すような力ではなかったが。
 彼は昴の存在に気づき、ヘッドフォンを外してへらりと笑う。

「お帰り、昴。今日は一段と遅かったね?」

「あの馬鹿死神と少し喧嘩してきた。小豆ー、お前は先に食べちゃって。飴ちゃんは?」

「お風呂ー」

「あぁハイハイ。じゃあポチと一緒に先に食べてて。俺はこの馬鹿とお話がある」

 うん、と少女は頷いて押入れから翔学生が書いたような猫を抱きかかえてちゃぶ台の上にある袋を漁る。そこからポテトサラダとてんぷらのパックを取り出して、カラフルなお箸でそれをつつき始める。
 彼女は同居人とでも言うべきであろうか。名前は結城小豆。実年齢は16歳なのだが、見た目が6歳の為高校には行っていない。というか行かなくても頭いい。彼女が抱えている猫はポチという名前の地底人である。猫でも地底人である。
 小豆とポチは昴が拾った同居人である。路頭に迷っていたところを助けてあげたのだ。

「で? 何でいたいけな少女の前でエロ動画を見ていたのかな?」

「健全な男子高校生の証です」

「うるせぇコミュ障童貞引きこもりのダメ要素を持つ男め! 少しは外に出ろ、だから白いんだよモヤシ!」

「コミュ障じゃないし童貞でもないよ。きちんとヤる事はヤってるんだからね! ——ディスプレイの中の彼女と」

「お前のダメ要素の中にオタクも混じったわ、ごめんな」

 昴は殴りたい衝動に駆られたが理性で抑えた。
 彼とは生まれてからの知り合いである。名前は橘理人(タチバナ/リト)。職業は先ほど言ったように引きこもり(ry)なのだが、本職はハッカーである。それと同時に心理学もかじっているのでカウンセリングなんかもできるのだが。
 カウンセリングが必要なのはこいつの方ではないかと昴は思っている。

「殺されたいの?」

「昴じゃなくて女の子に殺してもらいたいな」

「小豆ちゃんに毒殺されてくる?」

「小豆ちゃんの場合は殺すんじゃなくてトイレにこもらせるだね。この前オリジナルの毒薬を味わって、トイレと3日間ぐらい友達になったよ」

 ペロリと舌を出すところ、相当気持ち悪い男だと思う。
 昴はこんな奴が同居人である事を深く後悔した。

***** ***** *****

 翔が家の扉を開けたら、真っ先に迎えてくれたのはおっぱいだった。

「ふむぐッ!」

 何が起きたのか分からない翔は、とりあえず悲鳴を上げておく事にする。もがもがともがいた後で誰が抱きついてきたのか確かめると、赤髪の美少女だった。
 年齢は18歳ぐらいだろう。ぐりぐりと女性の象徴である豊満なおっぱいをこれでもかと翔に押し付けているその美少女は、まぎれもなく翔の部下である。
 黒羽暁(クロウ/アカツキ)。翔と同じく、炎の力を使う死神である。

「やーん、翔君今日も可愛いー」

「はな、離れっ! ぶぐぐぐ」

 窒息をしそうになるが、それでも死神は死なない。何かもう暑苦しいから、暁を突き飛ばして部屋へと上がる。

「お帰りー、仕事はどうだった?」

 瀬戸悠太はフライ返しとお玉を装備して首を傾げた。主夫が身についている。
 翔はその姿に苦笑いを返すと、「自殺者9人」とだけ告げた。総合計では17人だが、そのうち9人が自殺とは困ったものである。

「大変ね、いっそ人類を燃やしちゃったらどうかな?」

「たわけが。そんな事をしたら地球が機能しなくなっちまうわ。そもそも、俺の炎は神さえも殺す炎だ。テメェらまでも燃やすかもしれねーぞ?」

「へぇ。1人の少年は殺せないくせに」

 部屋の隅でガジガジと煎餅を頬張っていた黒いみつあみの少女が言う。彼女は柊遊莉果と言うが、みんなはメアリーと呼んでいる。だってそっちも本名だし。
 翔はメアリーを睨みつけてから、ため息をついた。

「あいつだけは別格だ。確実にこの手で殺してやる——いっそ鎌でぶった切ってしまったらいいだろうか」

「それだと確実に死ぬよねそれってね。死神のルールを知らないのかな?」

 悠太が苦笑いで問いかけて来たところで、翔は鼻を鳴らした。
 知っているも何も、自分は死神である。当然だ。
 死期が近づいていない人間は、むやみに殺す事はできない。人類とは死亡予定時刻が生まれてから設定されていて、それに従って生きている。あの少年——椎名昴も同様である。
 ところが、昴には一切の力が効かないのである。神すらも焼く業火で襲いかかっても、昴はひょいとよけて終わり。ムカつく野郎である。

「だが殺したりない、絶対にk「やーんそんな翔君も可愛いー」むぐむぐ」

 再び豊満な胸に顔を押しつけられた翔は、ただうめくしかできなかった。