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Re: お前なんか大嫌い!! ( No.133 )
日時: 2014/12/21 17:23
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)

 さて、あんな1件があった翌日のことである。
 ユフィーリアの機転により翔を救い出すことができた昴は、さっさと彼をつれて現代へと帰ってきた。そして突然の帰還で呆けた部下たちへ翔を放り投げ、「あとは自分たちでやれ」と命令してさっさと帰ってきた。
 もう地獄には行くまい。昴は心の中でそう誓ったのである。

「……で、そんなことがあった翌日にお前は堂々とコンビニにくる訳だなこの野郎」

「お客様は神様じゃないのか。ここの店員は躾がなっていないな。最初から躾け直してやろう、ほらそこに座れ。奥歯を蹴り飛ばす」

「お前はどこの人類最強だ。そもそもお前は人類でもなければ壁の中に住んでいる訳でもない。実際お前がその世界に行ったらその日のうちに巨人と人類両方を滅亡させるだろうな」

 レジ台にばらまかれたお菓子の山を見て、粛々と作業に取りかかる昴。ピッピッとバーコードに光をかざしていく。
 一方の翔は、加算されていく金額をただただじっと見つめているだけだった。
 ちなみにこの2人の空気は、半端なく悪い。他の客がビビッて違うレジに並ぶほど。もう1つのレジを担当している店長は、「あらあら〜?」なんてのんきにレジをやっていたが。

「……まあ、その、なんだ。あの場に貴様が現れて、正直助かったがな」

「一体どういう風の吹き回し? ついに頭が狂っちゃった? 大丈夫?」

 怪訝そうな顔で翔を見上げれば、何やらものすごく不機嫌そうな顔で舌打ちをされた。解せぬ。
 翔からしてみれば素直に礼を言ったのだが、それをあっさりと冗談か何かで片づけられて不本意という訳だろう。無理もない。翔自体が天敵である昴に礼を言うこと自体が珍しいのだから。
 全てのお菓子に光をかざして、合計金額を告げる。

「2,310円になります。さっさと現金置いてけ。ちなみにカードを使うのは許さない」

「カードとは何だ。トレーディングカードか? 遊○王みたいな感じか? あれが使えるのか?」

「使える訳ねえだろ何言ってんだお前!?」

 そうだ、これだ。東翔という死神はこれでこそだ。
 非常識で、俺様で、いつも自分につっかかってくる阿呆だ。だからこそ、昴も本気で喧嘩ができる訳で。
 地獄にて、処刑を甘んじて受け入れようとしていた奴とは大違いだ。相手に掴みかかってこそだろう。
 翔は「違うのか……」なんて言いながら、財布から札と硬貨で代金を清算した。やはり俗世の常識に疎いことは変わっていない。あの時の処刑に間に合っていなかったら、一体どうなっていたのだろうか。
 ちょうどの金額を受け取って、レシートを「あ、ごめん手が滑ったぁ」とわざとらしく言って、翔の顔面にお札よろしく叩きつける。
 数秒固まっていた翔だが、レシートを素手で掴み、わざわざご丁寧にも鎌を出して地獄の業火で灰にしてから昴の胸倉を掴んだ。

「貴様何をする? 店員という存在が、お客様にレシートを叩きつけるとはどういう了見だ」

「手が滑ったって言ったじゃん。それにわざわざ鎌を出してレシートを燃やすってどういうことなの。便利だね、ついでにそこのレシートの山も燃やしておいてよ」

「断る。死神を顎でコキ使う野郎は、貴様が初めてだぞ。責任とれ」

「どういう責任? 俺、お前と責任とって結婚するの嫌だよ?」

「……貴様、やはりそういう趣味か。女の影がないと思ったら……」

「何言っちゃってんのこいつ!? 違うからー、違いますからー!!」

 何故か引き気味の翔に全力で否定して、昴はお菓子をレジ袋に放り込んで翔に投げつけるようにして渡した。
 翔はちらちらとこちらを不審そうに見ながら、大人しく出て行った。やはりあれはからかっている、絶対にだ。
 去っていく背中を見て舌打ちをして、次にレジ台へやってきた客の商品を受け取った。——エロ本だった。しかもなんかかなりきわどい感じでマニアックな。
 あー、こういうもの買う奴いるんだなー、なんて思いながらちらりと客を見やれば。

「あ、袋いいや。それだけだし」

「お前かよ!?」

 銀髪碧眼。白いシャツにぴったりと足全体を覆う黒いパンツ、それから軍用ブーツというラフな格好に、長い刀を脇に抱えている。
 青い双眸が昴を怪訝そうな顔で見上げ、それから「おお」と言ったような表情を浮かべる。

「何だ、ヒーロー君か。いやー、ここでバイトをしているとは思わなかったわ」

「いや、お前女だろ? 何でエロ本を買おうとしてんだよ。馬鹿じゃないの?」

「馬鹿じゃないよ。だって読みたくなっちゃうもん。美人さんが乱れる姿が見たい」

「変態か!! ていうか何歳だよ、18歳以下は見ちゃいけないようになってんだぞ!!」

「1500歳」

 ケロリ、とユフィーリアは言った。しかも満面の笑顔付きで。
 そうだ、こいつも地獄で処刑人をしていた奴だった。昴は自分の日常に現れた新たな人物に頭を抱えるのだった。