コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.135 )
日時: 2015/01/11 18:28
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)

第8話



 問題
 マザーグースの歌の中で、『スパイスと素敵なものでできている』と表現されているのは何でしょう。


 模範解答
 女の子



 椎名昴の答え
 今夜はカレーライスにしよう


 採点者のコメント
 晩飯の献立を聞きたくなかったな


 山本雫の答え
 人生


 採点者のコメント
 マザーグースってそんな壮大なものを『スパイスと素敵なもの』で表現するかな


 ユフィーリア・エイクトベルの答え
 ていうかマザーグースって誰ですか


 採点者のコメント
 辞書を引け


 東翔の答え
 女の子


 採点者のコメント
 まさかの正解……だと!?



第8話 恋愛の定義

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.136 )
日時: 2015/01/17 23:30
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)

「畜生……こんなに長引くとは思わなんだ……」

 深夜の人気のない道を、翔はブチブチと文句を言いながら歩いていた。
 彼は死神である。前回の話で少し事情があって処刑されかけたが、まあなんとか現世に帰ってこられた訳である。
 そんなこんなで仕事である魂の狩猟を再開させたら、いきなりたちの悪い魂に引っかかってしまった。いわゆる悪霊である。しかもかなりガラの悪い。
 目の前まで詰め寄られたと思ったら、罵声を浴びせる始末である。そりゃあ誰だって死にたくはなかった。罵声を浴びせてきた当本人(というより悪霊)は、突然の交通事故で亡くなったのだ。
 だが、そんなことを翔が知る由もない。いや、実際は死因は分かっていたのだが、同情する余地もない。そんなことは死神ではなくて、八百万の神様にでも言ってほしいものだ。

「……ああクソ、気分が悪い。それもこれもあの悪霊のせいだ。クソッたれ」

 ドスドスともはや地面を穿たん勢いで歩き続ける翔。
 実は奴の罵倒が、何よりも気に食わなかったのだ。
 あの悪霊は、こともあろうに翔のことを、「女顔!! 女のような顔して、恥ずかしくねえのか!! 気持ち悪い!!」と叫んだのである。
 好きでこの顔に生まれた訳ではない。翔はすでに地獄へ送ったあのクソ野郎に対して舌打ちを送る。
 この顔は、父親に似たと言われている。出雲も悠太も口をそろえて「父親に似ている」と言ったのだ。翔は父親など知らないのだが。煉獄に閉じ込められている時も、奴は1度も顔を出しにこなかったのだから。
 そもそも、翔はこの顔を気にしたことは1度もない。確かにあの憎きクソヒーローには「女顔死神」とか言われるのだが、別に大した問題ではないと思ったのだ。この顔でも、声は低いし喉仏もある。身長も日本人男子の平均身長だ。あと態度もでかいので女には見られないだろう。

「……コンビニでも行こう。イライラしている時は甘いものが1番だと聞く」

 ふむ、そうだな、そうしよう。翔は1人で頷いて、コンビニに向かうことを決めた。
 その時である。
 遠くの方から、話し声が聞こえてきた。


「や、やめてください……放してください」

「うるせえな。こんなぬいぐるみに話しかけてるなんて気持ち悪い!! 大体、顔も女々しいしよぉ。女なんじゃねえの? ちょっと脱げよ。確かめてやる」

「や、やだ!! やめ、たすけて……!」


(……ああ、何だ。強姦か)

 鬱陶しいものだ。こちらは今まさに「女顔」と悪霊相手に罵られて、現在その言葉には非常に敏感なのである。
 敏感だからこそ、翔は切れた。ブチ切れた。

「おい、貴様。そんなところで何をしている」

 道路をすぐ曲がったところ——路地裏にて、2人の少年がやり取りをしていた。
 1人は金髪のガタイのいい少年である。耳にだけでなく、顔中にピアスをして服装もだらしがない。補導経験があると言われても納得できよう。
 もう1人は、濃紺のショートヘアが特徴の少年だった。眠たげな双眸には涙を浮かべ、小さな体を震わせている。彼が胸の前で抱いているのは、巨大なウサギのぬいぐるみだった。可愛らしくリボンが結ばれ、ワンピースの洋服も着せられている。
 だが、その濃紺の髪を持つ少年が、あまりにも小さかった。翔は身長173センチなのだが、遥かに小さい。いうなれば、そう——小学生。

「あ? 誰だテメェ」

 金髪の男がすぐに反応を示した。
 翔は金髪の男と濃紺の髪の少年を見比べて、それから侮蔑と可哀想なものを見るかのような目を金髪の男へ向けた。

「……貴様、えーと……成田ハジメとやら。夜中に小学生へたかり行為か。感心せんな」

「う、うるせえ!? ていうかたかりじゃねえよ、馬鹿じゃねえの!?」

「……………………………ああ」

 しばし黙考したあと、翔は何かに思い至った。ポンと手を叩き、己が導き出した答えを述べる。

「やめておけ。そんなところで行為を致すのは不衛生すぎる。きちんと室内で行った方が双方の為にも——」

「何の話をしてんだテメェは!?」

「ナニの話だ、阿呆」

「そういうんじゃねえよ、この野郎!! テメェも女みたいな顔をしやがって、生意気な!!」

 金髪の男は地雷を踏み抜いた。もう地雷のあとを知っているのに、平気で踏み抜いたかの如く。
 普段は身の丈を超す大鎌を振り回している翔だが、貧弱ではない。種明かしをすると、あの鎌は結構な重量があるのだ。その為、翔は腕力が強いのである。ちなみに昴ほどでもないが、握力もかなりのものだ。
 では、どうして握力や腕力の話になったのか。
 翔はスタスタと金髪の男にまで歩み寄ると、がっしりと彼の大きな顔を掴んでコンクリート壁へ叩きつけた。

「ぐがぁ!?」

 顔面を叩きつけられて、悲鳴を上げる男。
 しかし、2度も女顔と言われた翔は完全にブチ切れていた。それはもう大層ご立腹である。彼を怒らせることができるのはこの世で、あのポンコツヒーロー(椎名昴)だけかと思ったが、案外違うようだ。
 そのまま翔はガツンガツンと男の顔面をコンクリート壁へ叩きつける。顔の原型が分からなくなるまで叩きつけたあと、持ち前の腕力を使って男を放り投げた。ゴロゴロと地面を転がる男は、なんとか立ち上がって、這うようにして逃げた。
 その背中を見送り、翔は残った濃紺の髪の少年へ目を向けた。
 怯えたような目で見上げていた少年の名前が、ふと翔の視界に映る。
 桜瀬聡里。年齢は——16歳。解せぬ。

「……無事か」

「あ、ハイ。あ、あの……」

「驚かせたようだな。だが、気にするな。あの程度で人間は死なん。あと、小学生と間違えてしまったことを謝罪する」

「い、いえ。気にしていません。いつものことでしゅ……いつものことですから」

 おどおどとした口調で話す少年。
 翔はそんな少年の顎を手に取って、無理やり己へと向けた。怯えたような、そして困惑した少年の目が翔の赤茶色の目とかち合う。
 その目を見た翔は、一言。

「貴様の目は、紺色をしているのだな。きれいだ」

「え——」

「俺様はもう行く。さらばだ」

 颯爽と去ろうと翔は少年へ背を向けた。
 だが、少年は翔を引き止めた。

「あの!!」

「なんだ」

 引き止められ、翔は素直に応じた。くるりと振り返れば、そこには何やら必死な顔をした少年が。

「お、おにゃ、お名前はなんて!?」

「東翔だ」

 覚えておけ、と翔は言い残して今度こそ去った。
 人助けもいいものだ、とひっそりと死神の少年が思ったのは秘密だ。



 ちなみに、先ほどの少年が取り残されたその場で「翔さん……」と恍惚とした表情でつぶやいていたのは言うまでもない。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.137 )
日時: 2015/02/08 18:22
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)

 朝である。どう考えても朝である。
 蒼穹には輝く太陽が昇り、人間は活動をし始める。
 白鷺市のヒーローである椎名昴もまた、活動を始めていた。朝は新聞配達のバイトから始まるのである。人間の範疇を軽々と通り越して、もはや化け物じみた脚力を駆使して白鷺市を爆走していく。ひそかに小学生からは『人間新幹線』として七不思議的な存在として崇められている。本人は全く知らないのだが。
 そして本日も無事に新聞配達を終えた昴は、メインのバイトである喫茶店へ出勤する為に身支度をしていた。

「おーい、理人。俺はもう————」

 行くぞ、という言葉は昴の口の中に消えた。
 振り向いた先にいるのは、1人の少年と1人の少女。どちらもパソコンへと熱心に視線を注いでいるようだが、実質は違う。
 パソコンのディスプレイに映し出されていたのは、男と女が『バッキューン』して『ドゥルルルル』している場面だった。なんかデジャヴ。

「2人してなんつーものを見てるんだこの野郎ども!!」

「「うぎゃん!?」」

 音もなく2人の背後に立った昴は、迷いなく彼らの脳天にチョップを叩き込んだ。だが、それほど力は入っていないようだった。
 いくらビルを吹き飛ばし、河原を吹き飛ばし、クレーターを作るほどの脚力を発揮したとしても昴は人間(じゃないかもしれないけど、でも人間)である。たとえチョップした瞬間、相手の脳漿を炸裂させて狂ったように踊らせることができたとしても、昴はやらない。
 殴られた脳天を擦りながら、2人——橘理人と結城小豆は振り向いた。

「何するんだよ、昴」

 異議を唱えたのは理人の方だった。
 しかし、全年齢が対象でありしかも健全な小説サイトに不釣り合いで不快な映像を見せた彼を叱らなければならなかった。というか叱れ。

「何するんだよ、じゃないよこのお馬鹿!? 何なのまた変態チックなものを見て。ご近所さんになんて言われてるか知ってる?」

「変態」

「そうだよその通りだよ。小豆ちゃんもこの馬鹿と一緒になって見なくていいからね。ていうか18歳未満は見ちゃダメな奴だからね」

「攻め方がぬるい」

「もうやだこの6歳児!!」

 キリッとしたかっこいい表情で、何とも言えないような台詞を言う小豆。
 昴は頭を抱えた。どこで教育を間違えた。

「とにかく、俺はバイトに行くからね。理人、今度小豆ちゃんの前で不埒なものを見たら————もぐからな」

「え、どこを」

「そのふわふわした頭で考えろ。じゃーな」

 建てつけの悪い木の扉を開き、しっかりと施錠する昴。いくら家主のヒーローが留守だと言っても、彼らも腕の立つ同居人だ。特に小豆は毒に匹敵する劇薬を昴の食事に紛れ込ませて、彼を3日間ほどトイレとお友達にさせた経緯を持つ。
 あの時はマズメシだったなー、とかふわふわと考えながら錆びついた階段を降りようとした時だ。
 カンカン、と誰かが上がってきた。ボロアパートの2階に住んでいるのは、昴の他に1部屋だけだ。その1部屋は、昴が最も忌み嫌う奴である。

「……げ」

「げ、とはなんだ。こっちがげ、だ。げ」

 黒髪を左下で結んだ女——の顔をしているけど実際は男である。真っ黒なロングコートをなびかせて階段を上ってきたのは、隣人であり最大の敵である東翔だった。
 あからさまに顔をしかめた昴を指摘し、翔は舌打ちをする。どうやら彼は仕事帰りのようだ。そんなの昴には関係ないのだが。
 通常ならここで罵り合ったのちに喧嘩のパターンだが、今日は違った。翔は昴の横を通り抜けただけで、何もしてこなかったのだ。

「……何もしてこないのかよ」

「何かしてほしかったのか」

「いや別に。こっちも急いでるし」

「じゃあいいだろう。俺様は疲れているのだ。寝る」

 明らかに顔が疲れているようだったので、昴はそれ以上何も言わなかった。
 部屋の中に入っていく翔を見送って、昴も喫茶店へと向かう。
 階段を降りたところで、昴は気づいた。

 階段のところになんかいる。

 ずいぶん可愛らしい少年である。紺色の髪を持つ、ぬいぐるみを抱えた少年だ。年は——小学生ぐらいだろうか。

「おい、こんなところで何をしてんだ?」
「あ、えっと、翔さんはあそこの家に住んでいるんですか?」
「……何お前、あいつと知り合いなの?」

 知り合いだったら倒さねば。
 昴がひそかに拳を構えたところで、少年は顔を真っ赤にして否定した。

「ち、違いますよ!! えっと、その……し、失礼ひまひゅ!!」
「あ、おい!?」

 盛大に噛んだ少年は、猛スピードで昴の前から走り去った。
 先ほどの赤い顔を鑑みると、昴はなんとなく察した。察したからこそ、笑った。
 これは面白いことになった。
 だがしかし、協力はしない。しばらくはこのまま様子見と行こうか。

「へえ、少年。面白いね」

 あの死神に恋をしたか。
 だが少年、1つ言わせてもらうとお前は決定的なミスを犯している。それはとんでもないミスだ。

「あいつの性別は、男だぞ?」

 声低いの分からないのか?
 ここにはいない、あの紺色の髪を持つ少年に昴はそっとアドバイスをした。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.138 )
日時: 2015/02/08 22:30
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)

「それでワシは思った訳だよ。これは運命だと!! そしてワシと君が出会うのもまた運命なのだと」

「テリーさん1ついいですか。さっきの話と今の台詞が噛み合っていません。10秒前までは猫ふんじゃったの自己解釈をしていたじゃないですか。何がどうして俺とお前が出会うことが運命だと説かれなきゃいけないんですかこの野郎」

「あははははは」

「誰かこいつを殺してくれ頼む300円あげるから」

 椎名昴は頭を抱えていた。紅藤という男は、どうして人をおちょくるような発言をするのだろうか。全く謎だ。
 ちなみに昴と紅藤がいる場所は工事現場——昴は解体工事のバイト中である。今は休憩中で、その時に紅藤とバッタリ出会ったのだ。
 缶コーヒーをすすりながら、紅藤はからからと笑った。

「いやー、ここ最近警察官に追いかけられていてね。おちおち寝ていられないのだよ。何故だろうね。ホームレス扱いでも受けているのかね、ワシは」

「住所不定の無職だからね」

「君も無職だろう?」

「俺はヒーローですけど!?」

 ヒーローがまさかの無職扱いを受けて怒鳴らずにはいられなかった。
 いやしかし、ヒーローが工事現場で解体のバイトをしているのもどうかと思う。それは仕方がないことだ、彼の収入はワンコインなのだから。
 修繕費も自分で負担するなら、壊さないように注意をすればいいと思うのだが、それも結構難しい。あの女顔死神を前にすると、何故だか全力で攻撃をしなければならないという使命感に駆られるのである。
 ヒーローにあるまじき行為である。人々の安全よりもまず最初にライバルというより永遠の敵である死神を攻撃するなど。
 さて、そろそろ休憩時間が終わるころだと昴は飲み終えた缶コーヒーを近くのゴミ箱に投げ入れようとした瞬間だった。

「あ、」

「あ」

 目の前に、何故か女顔死神の姿が。
 白く輝く履歴書のような紙——いわゆる魂のリストを手にした死神、東翔が何故か昴の目の前に立っている。両者ともにポカンとしたような表情だったが、次の瞬間、2人して武器を装備した。
 昴は近くに転がっていた鉄骨をいとも軽々と右腕1本で持ち上げ、翔は身の丈を超す鎌を構える。

「貴様よりにもよって仕事中に現れるとは一体どういうことだ!!」

「こっちが聞きてえわ!! 何でお前って俺がバイトしていると現れるの? 俺をまたクビにしたいの!? そうなんだよな、オイ!!」

「こっちは仕事が伸びる!! さっさと全て狩り終えて寝たいのだ。だというのに貴様は何故俺様の前に現れるのだ。邪魔をするな!!」

「魂を狩るのなら好きにしろよもう!! いちいち俺に喧嘩を売ってくるな!!」

「それは断る。貴様を殺すというのが俺様の使命だからな」

「いらん使命だ!!」

 顔を突き合わせれば即喧嘩。それから乱闘に発展することはもはや日常茶飯事。
 ギャーギャーと言い合っている2人の様子をひやひやしながら見守る工事現場のお兄さんたちと、笑い転げながらはやし立てる紅藤。彼ら2人が犬猿の仲を通り越して殺し合いをしている仲なのはもはや周知のことである。
 その時だ。
 タッタッタッタ、と誰かが駆け寄ってきた。

「あの!!」

「大体貴様は俺様の邪魔をするのだから1回地獄に召されればいいのだ。優しく送ってやるぞ。何なら美女に手痛い処刑をしてやるコースもつけよう」

「やめろ、俺はまだ死ぬ予定はない。だったらお前が天へ召されろ。つうか大気圏突破してそのすぐに回復する体を塵にしてやろうか?」

「あの!!!!」

「「ああ!?」」

 不良も泣いて逃げるほどの柄の悪い声で、昴と翔は同時に声の方へ顔を向けた。
 そこにいたのは、紺色の小学——ゲフンゲフン——少年だった。高校の制服を着ているので、どうやら彼は高校生なのだろう。等身大の熊のぬいぐるみを抱えているので、とても高校生には見えないのだが。よしんば学生に見えたとしても、中学生が限界である。

「翔さん!!」

 少年は勢いよく翔の名前を呼んだ。
 唐突に名を呼ばれて驚いた翔は、「お、おう……?」と反応してしまう。俺様で唯我独尊、傲岸不遜な彼からは考えられない、吃驚の顔は昴も初めて見た。
 びっくりしている彼をよそに、少年はズバッと拳を突き出してきた。殴られるのかと思って、反射的に身構えてしまう。
 しかし、衝撃はこなかった。むしろ、少年はあるものを握っていた。
 遊園地のチケットだった。

「こ、これ!! 無料券をもりゃ、貰ったんでう!! です!! あの、あの、もしよければ……その」

 おずおずと翔の顔を見上げる、可愛らしい顔。緊張と恥ずかしさを瞳に湛えた彼は、震える声でようやっと言葉を紡いだ。


「い、いっちょに、一緒にいきま、行きませんか……?」


 これが桜瀬聡里と東翔とのデートの始まりである。

***** ***** ******


「翔様、翔様!! 人間の男にデートに誘われたんですか。聞きましたよ隣のヒーローさんに!! 男ですよね、男ですよね!?」

「うるさい、騒がしい、喧しい。総じて言えば鬱陶しい。離れろ」

 帰ってきて早々に張りついてきたのは、部下の瀬戸悠太である。人間にデートに誘われた!! と悠太は何故か頭を抱えていた。お前が悩む問題ではない、とツッコミを入れたい。
 翔は張りついてきた悠太を乱暴に引き剥がし、手洗いうがいを行って部屋の隅にどっかりと腰を下ろす。やはり四隅が落ち着く。
 すっかりオフモードになった翔に、昴の次に気に入らない声が降ってきた。

「やあー、翔様。お疲れ様です。人間の女に間違えられてご愁傷様……ブフッ」

「……」

 にやにやした金髪の悪魔——杯出雲には、地獄の炎をお見舞いしてやった。見事に首を逸らして避けられたのだが。
 チッと苦々しげに舌打ちをして、新聞を広げる。やはり昴と翔の喧嘩が一面を飾っていた。ここまで有名になったか。

「で? デートするんですよね? うっかり『YES』なんて答えたからふごっ」

「だ・ま・れ」

 一言一言区切るようにして、翔は出雲を黙らせた。しっかり頬を鷲掴みにし、タコみたいな口にして容易に発言できないようにする。
 翔だって混乱しているのだ。何故人間の男に、女と間違えられているのか。確かに昴からはことあるごとに「女顔」と言われるのだが、そんなに女みたいな顔をしているのだろうか。自分の頬を触って確かめてみても、分かりはしない。
 自覚はしている、自分が女みたいな顔だということを。だが、声と態度を見て女ではないと分かるのだ。それが何故、ここまで間違えられるのか。

「ハスキーな声と間違えられてるんじゃないんですか?」

「黙れと言ったはずだが。今度は燃やすぞ」

 からかう出雲を睨みつけて、翔はこのあとをどうするか考える。
 昴は頼れない。ていうより、頼ったら負けだと考えている。それならば他に誰を。

「悠太、ユフィーリアを呼び寄せろ。あと山本雫だ」

「ハイ、分かりました」

 奴らは女だ。女らしさは皆無でも、女らしい服装ぐらいは分かるだろう。
 こうなったら女を演じきってデートして、最終的に男とばらすしかあるまい。
 気持ち悪い笑みを浮かべて、翔はそう思うのだった。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.139 )
日時: 2015/02/22 22:51
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)

すみませんぬ、あげさせてくだしあ。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.140 )
日時: 2015/03/08 22:47
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: XURzUbRL)

 さて、デート当日である。
 翔が現在まとっている衣装は、白いワンピースの上からカーキ色のカーディガンを羽織り、さらに茶色のダッフルコートという極めて可愛らしい格好をしていた。
 ちなみに髪型も可愛らしくまとめている。艶のある黒髪は高く結い上げられ、風を受けてさらさらと揺れる。道行く男性はみんなして翔に見惚れていたし、女性もまた「可愛い」「美人だね」とひそひそ言い合っていた。全然嬉しくない。
 駅前の広場で待ち合わせだと言われたので待っているのだが、かれこれ待ち合わせから10分ほど経過している。それでもあの少年はやってこない。

「何故だ」

 駅前の広場に鎮座している踊り子の銅像の前で、翔はポツリとつぶやいた。その声はやはり男のもの。
 何故あの少年はやってこない。自分をデートに誘っておいて、遅刻とはいい度胸だ。このまま帰ってしまおうか。
 何度も「帰ろう」と考えたが、自分で引き受けてしまった手前、勝手に帰るのは気が引ける。変なところで翔は真面目なのだった。死神だからだろうか。
 その時である。

「ま、まちまひ、待ちましたか!?」

「……」

 向こうからやってきた紺色の髪を持つ少年は、翔の目の前まで走ってくると、ぜぇはぁと肩で息をした。背中には等身大の兎のぬいぐるみが。
 待ったもなにも、10分の遅刻なのだが。
 だがここで気遣ってやるのが女である。翔も気遣いを——

「遅い。10分の遅刻だ。俺を待たせるとはいい度胸をしているな」

 ——してやることもなかった。気遣いの『き』の字もつかないほどである。女ならにっこり笑顔で「大丈夫だよ。私も今きたところだから」と言うのが当たり前だと思う。
 しかし、皆さんはお気づきだと思う。そう、翔は男だ。男である。いくら女みたいな顔で、椎名昴から「女顔死神!!」と罵られようとも、股には『自主規制』がついている。胸もない。ついでに言うと筋肉もない。ヒョロヒョロである。悲しいかな、筋肉の方は椎名昴の方がついているのだ。
 腕を組んで仁王立ちをし、遅刻した桜瀬聡里へ向かって一言。その風格はまさしく女王様。末恐ろしい。

「ご、ごめんなさい……ね、寝坊しちゃってですね……」

「きちんと睡眠を取れ。体調が悪くなっても知らんぞ」

「きょ、今日がほんとに楽しみだったんです……! だって、だって翔さんとデートですよ!? 緊張しちゃって眠れなくて……」

 ほにゃ、と笑って自身の紺色の髪を掻く聡里。破顔したその時、何故か小学生に見えゲフンゲフン。
 はた目から見たら小学生の弟と姉の図か、と翔は心のどこかで思った。言わないでおいたのは翔なりの気遣いである。

「では行くか。『でんしゃ』とやらに乗るのだろう」

「ハイ!! 翔さん、電車は初めてですか?」

「そうだな。この世に存在して1600年ほどだが、1度も乗ったことはない」

「せんろっぴゃく……?」

 聡里はカクリと首を傾げるが、翔は自分が爆弾発言を落としたことには気づいていない様子だった。

 
 そんな2人の様子を見守る影が4つ。
 翔の従者である瀬戸悠太と杯出雲、それからかぐや姫と名高い宇宙人の山本雫、地獄の最強処刑人のユフィーリア・エイクトベルだった。
 植木の影から2人の様子を最初から見ていたのだが、雫とユフィーリアは開始早々腹を抱えて笑っていた。

「ぶ、くくく……女の演技をする気力すらないねあいつ。女としての振る舞いを教えろって言ったのはアンタだろうに……!!」

「いやもうこれ笑わずにはいられないよ、誰かカメラ!! カメラ持ってきてよ!! もうおかしくって!!」

「お前ら笑うなよ!!」

 地面にひっくり返る雫と、腹を抱えてプルプルと震えているユフィーリアを一喝する悠太。そして流れるような動作で出雲が持つフルハイビジョンのビデオを素手で粉砕した。出雲は悲鳴を上げていた。

「ああ翔様……人間の男なんかとデートなんて……」

「つーか、気づかないあの子もあの子だね。最初から全力で男オーラを振りまいている翔に、どうしてあいつが『男』だって気づかないんだろうね?」

 ユフィーリアは首を傾げた。
 あんな見た目であるが、翔はきちんと喉仏が出ているし、声も低い。態度もでかい。しかも一人称は「俺様」である。二人称に至っては「貴様」だ。
 見た目を除けば完璧に男である翔を、あそこまで女だと勘違いしている桜瀬聡里という少年は一体何なのだろうか。

『自己暗示じゃないの、ユフィーリア』

「それだ」

「やなこと言うなよ、空華!! ユフィーリアも!!」

 空華が発した名案に同意したユフィーリアと、全力で否定した悠太。まさか自己暗示な訳がないと思っているらしい。
 周りの人間は翔が男であることは分かってないようだ。というより、先ほどの黒髪美少女が白鷺市の炎の死神、東翔だと思っている輩の方が少ないだろう。それほど翔の化けようは半端ではない。
 実際、ユフィーリアも女の格好をした翔には萌えたものだ。主に「あいつ泣かせたい」という方面で。

「とにかく、最後まで翔様の様子を見守るのが俺たちの仕事だ。行くぞ!!」

「あー、ところで悠太。聞いてもいいか?」

「何だよぐうたら悪魔。今回ばかりは役に立てよ」

「超どうでもいいことなんだけどな」

 先ほど悠太に握り潰されたビデオカメラの残骸を両手でしっかり抱えながら、翔の従者である(はずの)金髪悪魔は首を傾げた。
 そして言った。さも当然、と言うかのように。


「嬉々として参加してきそうな、あの性悪ヒーロー一派は一体どうしたの?」

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.141 )
日時: 2015/03/29 23:56
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: XURzUbRL)

 辺り一面人、人、人。人の波というより、人の洪水が起きている。
 桜瀬聡里と共に未知なる鉄の箱——電車に揺られて40分ほど。2人は目的の場所まで到着した。
 カラフルに装飾が施された門には、『しらさぎドリームパーク』とあった。キラキラと電光装飾もされていて、目がチカチカする。
 いや、そんなことよりもだ。
 この人の洪水をどうにかしてほしいものだ。死神である翔は人の名前と、どれぐらい生きたかという『生命時間』というものが見えるのだ。つまるところ人混みがあるところは死神にとって『人の生死と生命時間の大洪水』が起きているのである。

「……うぇっぷ」

 1人1人の生命時間と名前が見えてしまっているので、さすがにめまいを起こした翔。入園5分で人混みに酔い、吐き気を催した。

「え、翔さん!? 大丈夫ですか!?」

「き、気にするな……おそらく人混みというものに慣れていない故に起きたことだ。まさかここまで生の時間の大洪水が起きているとは思わなんだ……」

「せ、せい……? とりあえず、何か飲み物を買ってきますねっ!! あ、そこのベンチに座っていてください!!」

 翔の体調不良に慌てた聡里は、バタバタと近くの売店で飲み物を購入する為に走った。
 人混みに消えていく紺色の髪の少年を見送り、翔は彼の言う通りにベンチで座って待つことにした。目頭をぐりぐりと揉み、ため息をつく。
 どうして人間はこんな混んでいるところまでわざわざ行こうと思うのか。全く訳が分からない。行動を疑ってしまう。

「やれやれ、人間とは奇妙な生き物だ」

 翔は肩をすくめた。
 ちなみに白いワンピースだというのに大胆にも足を組み、白くて華奢な足をこれでもかと周囲に見せつけている。男性客はもちろん、女性客も翔の美貌には呆気にとられていた。
 それもそのはず、声が低くて態度がでかいという点を除けば彼は見事な『女』の格好をしている。
 艶のある黒髪は手入れが行き届き、さらさらと手触りがよさそうである。影を落とすほど長い睫毛が縁どるのは、ルビーの如き気高い紅蓮の双眸。顔立ちは人形のように美しく、白い肌は肌理が細かい。翔の身長は173センチあるのだが、体格が華奢なこともあって、モデルと受け取られるだろう。
 そんな可憐な翔を、女と間違えてよからぬことを考える輩はいないはずがない。

「ねえ、彼女♪」

 聡里の帰りを待っていた翔は、ふと己にかけられた軽い口調に顔を上げた。
 いつの間にいたのだろうか。ベンチの背もたれに寄りかかるようにして、男が立っていた。しかも複数人。全員が茶や金に頭髪を脱色し、整髪剤でも用いているのかツンツンと尖らせている。耳には2つも3つもピアスをつけていて、陽光を反射してキラキラと輝いている。格好はダボッとしたズボンに、ダメージ加工されたシャツという緩いものだった。
 誰だコイツ。名前をちらりと見たが、興味がないので目の前の男の顔に戻す。

「君、1人? 俺たちと一緒に遊ばない?」

 なるほどナンパか。
 聡明な翔は男の台詞の冒頭を聞いただけで理解した。

「失せろ」

 しかし聡明であるが相手を傷つけない言動や物腰柔らかな言葉遣いなどできない(もとい、しようとしない)ので、翔はバッサリと切り捨てた。
 可愛らしい顔立ちとは裏腹に傲岸不遜な言葉が出てくるとは思わなかったらしい男たちは、少しの間、思考停止していた。だが、それをどう受け取ったのかまたも笑顔を浮かべる。

「何それ失せろって。超ギャップって奴じゃね? 声も低いし、ハスキーって奴? いいじゃんいいじゃん♪」

「……」

 うるさいので取り合わないことにした。
 ベラベラと隣でうるさい男の台詞を聞き流しているうちに、紺色の髪をした少年がペットボトルを抱えて走ってくるのが見えた。

「悪いが、連れがいる。女を誘いたいのならばその辺りにいる別の奴を誘え」

 一応彼なりに断りを入れたつもりなのだが、男たちはどういう風にとらえたのだろうか。翔の進行方向に現れて、行く手を阻む。
 突如として現れたにやけ面の男を避けようとしたが、翔の動きに合わせて男たちも動いた。

「いいじゃん、ね? その連れの子も一緒でいいからさぁ」

「あのぅ……」

 足元ら辺で、控えめな声がする。
 ペットボトルを抱えて立っている少年、桜瀬聡里は不思議そうに首を傾げた。

「翔さん、その人たちは……?」

「ナンパという奴だ」

 翔はするりと男たちの包囲網をすり抜けて、聡里の前に立つ。彼の手に握られていたお茶のペットボトルを強奪すると、ごきゅごきゅと飲んだ。半分ぐらい豪快に飲んだのち、「残りは貴様が飲め」と丁寧に飲み口を拭いてから突き返す。
 翔の反応に気に食わなかったのか、はたまた聡里という男がいたからか。男たちが明らかに喧嘩腰で突っかかってくる。

「おいちょっと、男連れか? そんな頼りなさそうな男とデートか? だっせぇ」

「俺たちといる方が楽しいぜ」

 男たちにからかわれて、聡里は顔を俯かせてしまう。
 しかし、翔はそんな男たちに臆することなく凛とした声で言い放った。

「案ずるな、桜瀬聡里よ。貴様の方が彼奴らよりも魅力がある」

「でも、翔さんはきっと……」

「此度は貴様との約束を果たす為にこの場にいるのだ。貴様と共に在る方がいいだろう」

 何の臆面もなく、恥ずかしげもなく、翔は言い放った。
 聡里の表情が少なからず明るくなったのは言うまでもない。
 だが、この展開に気に食わなかったのは男たちの方だった。可愛らしい女は小学生みたいな容姿の少年に取られてしまったのだ、納得がいく訳がない。

「オイお前さぁ、聞いてなかった訳? 俺たちと一緒n「失せろと言ったはずだが」

 少しイライラした様子の男の胸倉を掴みあげ、翔は凄んだ。
 前にも言ったが、死神の腕力は凄まじい。なので、華奢な右腕1本で自分よりも少し背が高くてガタイのいい男を軽々と持ち上げてしまう。

「何度も言わせるな、これ以上俺様の手間を取らせると生命時間関係なく貴様を地獄へと叩き落とすぞ。『有吉虎太郎』よ」

「ぅげっ……何で俺の名前……」

「知らずして当然だ」

 ドサッと男を地面へと放り捨て、翔は言い放った。
 ちなみにその手には、翔へナンパを仕掛けた人数分の白い紙が握られている。言わずもがな、彼らが歩んできた人生を記した死神専用のリストである。

「えー、有吉虎太郎。年齢は23歳。ほう、小学校へ入るまでおねしょしていたのか。ごく最近では彼女に振られたらしいな。振られた理由が貴様の二股か。情けない。それでも日本男児か貴様は」

「うわあああプライベートだぞ何なんだお前!!」

「早く失せろ。貴様らもだ。有吉虎太郎を引きずって速やかに俺様の目の前から消えるがいい」

 地面に座り込んだ男(有吉虎太郎)を引きつれて、チャラチャラした集団は去った。
 ポカンとしていた聡里の目の前で指を鳴らして正気に戻らせ、翔は言った。

「行くぞ、聡里よ」

「……ハイ!!」

 聡里は満面の笑みで、翔の手を握った。
 一瞬だけ手に生まれた温かさに驚いた翔だったが、振り払うのもどうかと思ったので握り返したのだった。





 ちなみに一部始終を見ていた死神一派は、悠太は胃薬を握りしめ、出雲と雫とユフィーリアはそろって笑い転げていた。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.142 )
日時: 2015/04/16 22:07
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: XURzUbRL)

申し訳ありません、今回はあげさせてください。
次の更新は明後日(4月16日)になると思われ。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.143 )
日時: 2015/04/18 19:03
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: XURzUbRL)

 ジェットコースター、メリーゴーランド、コーヒーカップなどテンポよくアトラクションを制覇した2人だが、ついに聡里の方が悲鳴を上げた。
 翔は死神であり——つまりは人間ではない為、体力も底なしなのだが、聡里は人間である。ジェットコースター、メリーゴーランドと次々とアトラクションに乗れば体に限界がくるのも当然のことだ。
 3つ目のアトラクションであるコーヒーカップを終えたところでへなへなと座り込んでしまった聡里を見下ろし、翔は今までの自分の行いを振り返って後悔する。相手を思いやっていなかったか。

「悪い、聡里よ。ついはしゃぎすぎて」

「いいえ、お気になさらないでください。体力がにゃ……ない、僕の責任です」

 へへ、と力なく笑う聡里だが顔が青白くなってしまっている。
 このままでは聡里が力尽きてしまう。そういう訳で、いったん休憩を挟むことにした。
 近くにあったメルヘンなベンチに聡里を座らせ、「飲み物を買いに行ってくるので待機していろ」と命じた。そして飲み物が売っているスタンドを目指した。
 スタンドは案外早く見つかり、翔はお茶のペットボトルとミネラルウォーターのペットボトルの2本を手に取って、レジ台に置いた。

「袋はいらん」

「付加価値ついて560円になりますー」

「「…………ん?」」

 そこで翔はピタリと全身の動きを止めた。取り出した財布を落としそうになったが、何とか耐えた。
 ゆっくりと視線を上げると、レジ台に立つ店員の顔が視界に入ってきた。
 茶色の髪の毛は帽子の中に押し込められているが、毛先は後ろで軽く結わかれている。いつものヘッドフォンは耳にないが、代わりにあるのはインカムだった。おそらくインカムで音を拾っているのだろう。小柄な体躯はカラフルな制服に包まれている。
 つまり、そこには。
 天敵たるヒーロー、椎名昴が立っていた。

「き、さま!! 何故ここにいる!!」

 天敵を見とめた瞬間、翔は完全に素に戻った。周囲にいた客が一斉に翔を見る。ちなみに聡里とは距離がある為、彼には翔の声など届いていなかった。というよりグロッキー状態なので、翔の方すら見てもいなかった。
 翔と昴の空気は一触即発状態になる——と思われたが、案外そうでもなかった。
 何故なら昴が翔の頬をむぎゅっと掴んでいたからだ。おかげで翔の口はタコのようにすぼまっている。

「目立ってるからな。目立ってるからな? こんなところで問題起こしてバイトをクビになりたくないんだよ」

「むが……っ。それは俺様とて同じだ。大切な約束をここで貴様と乱闘騒ぎ起こして不意にしたくはない」

「約束……ああ、あの可愛らしい小学生みたいな男の子とデートだっけ。だからお前そんなメルヘンな格好してんだな。だけど態度隠せてねえなお前。ツラだけ女で口調は男とかどこのエロ漫画」

「今すぐ燃やし尽くされたいか。俺は構わんぞ」

 昴の拘束を振り切った翔は、舌打ち交じりに精算した。千円札を叩きつけ、ペットボトル2本を強奪する。
 最も会いたくない奴に会ったと内心で苛立ち、スタンドを去ろうとしたところで「おいコラクソ死神」と声をかけられる。

「あ?」

「人がせっかくアドバイスをくれてやろうって時にその態度は何だ。まあいい。一応勧めておく。お化け屋敷は結構楽しいらしいぞ」

「貴様のアドバイスを素直に受けると思うか?」

「じゃあ独り言で処理して置いてくれ。あ、いらっしゃいませ。ハイ、このカチューシャですね」

 翔の次にやってきた客に、笑顔で接する昴。自分とは大違いである。
 明らかに違う態度に舌打ちをした翔は、ふと昴の言葉を思い出す。
 なるほど、お化け屋敷か。幽霊の類は常に見えている翔にとって、お化け屋敷など怖いものではないが考えには至らなかった。

「面白そうなら行ってみよう」

 ニヤリと笑った翔は、何かを企んでいる——というより、小悪魔的な笑みだった。

***** ***** *****


 『恐怖!! 少女の館!!』と銘打たれたぼろぼろの屋敷からは、甲高い悲鳴が上げられていた。
 何故かこの辺りだけ暗く、じめっとしている。これもお化け屋敷の演出だろう。
 古びた木製のドアの前に立つ翔の腕に聡里がしがみついてきた。これではどちらが彼女か分かったものではない。

「怖いか。やめるか?」

「い、いえ、だい、だいじょ、大丈夫です!!」

 そう意気込んだ聡里だが、何故か肩が震えている。
 翔は聡里の体を引き剥がして、代わりに手を握った。

「怖かったら言え。俺様が守ってやる」

「翔さん……!!」

 明らかに彼女が言う台詞ではないのだが、まあ翔は男なのでよし。
 従業員のお姉さんに案内されて迷路の中に通される2人。ブラックライトに照らされたその先には——



「……これは」



 幽霊役の従業員に混じって、本物の幽霊がいくつも浮いていた。首吊り、頭がない、腕や足がない、床を這いまわっている……などなど。多数の幽霊がそこに存在した。
 甲高い悲鳴が聞こえたのは演出ではなく、本気だったのか。おそらくそれはさして霊感がない女が上げた悲鳴だろうが、もしここに霊感を持つ女が入ったらどうなるか。
 翔は口元を引きつらせ、このお化け屋敷を勧めたヒーローへ呪詛を吐く。

「あのクソヒーロー……見えていないからって……!!」




 一方でヒーロー・椎名昴は。

「あ、そうだったあいつ死神だったわ」

 客の波が去って暇になった昴は、遊園地のパンフレットを読んでいた。
 現在のページはお化け屋敷で止まっている。その説明文にはこう書かれていた。

 『本物の廃墟をお化け屋敷に改造!! 怖さ100倍!! カップルにオススメ!!』

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.144 )
日時: 2015/05/10 22:31
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: XURzUbRL)

あげさせてください

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.145 )
日時: 2015/05/17 22:50
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: XURzUbRL)

 ヒーロー殺す。
 お化け屋敷を歩きながら、翔はひたすらに念じていた。そりゃもう、お化け役に徹している従業員が引くぐらいに。
 翔と違って霊感0なヒーロー、椎名昴は善意でこのお化け屋敷をオススメしたのだろう。だが、翔は幽霊が見える。バリバリ見える。「霊感がある」とほざく人間どもとは比べ物にならないぐらいに見える。何故なら彼は死神だから。
 では何故、幽霊が見えたらいけないのか。

「……鬱陶しい」

 床を這いまわる女の幽霊をどこ吹く風で踏みつける。「ふぎゃ」という低い声が聞こえたがお構いなしだ。
 ちなみにこの東翔という死神、幽霊が見えるだけではなくて幽霊の声も聞けるし触れるのだ。霊媒体質ともいう。ブン殴ろうと思えばブン殴れる。
 しかし、それをやったら最後、聡里に変な奴だと思われるだろう。いや、すでに女装している時点で変な奴だとは思うのだが。それはどうか、心の中にだけ留めておいてほしい。
 背後で「ヒィ!!」と悲鳴を上げながらワンピースを握る聡里を一瞥し、翔は次のステージへ続く扉を開いた。
 長い螺旋階段がある、広いホールだった。どうやら螺旋階段を上って、2階へと行くらしい。天井には蜘蛛の巣が張り、螺旋階段の手すりは埃で汚れている。なかなか怖い雰囲気が出ている。
 その、螺旋階段の終わり近くに。
 白い少女が、佇んでいた。

「…………」
「しょ、翔さんどうしたんですか?」
「いや何でもない。何でもない」

 何でもなくはないが、一般人を心配させない為にあえて「何でもない」と言った。珍しく空気を読んだ翔である。
 白い少女は、ホールへ入ってきた翔と聡里へ視線をやった。本来目がある部分が空洞だった。何この子、恐ろしい。
 こんな時、鎌が出せればと翔は思う。鎌が出せれば目の前の幽霊など冥途送りにしてやったのだが、あいにく今は正体を隠している。聡里に隠れて鎌を出すなどできやしない。目の前で凶器を装備すればそれこそ変な目で(以下略)。
 とりあえず階段を上る。ギシ、と階段が音を立て、聡里が息を呑む。
 ギシ、ギシ、と順調に階段を上っていく。最後の階段を踏んだ時、白い少女と目が合った。
 髪も肌も白いが、眼だけが空洞。眼窩のみである。眼球どこへやった。ニィと裂けるような笑みを浮かべる少女。この少女、もしかして翔が見えているということを知らないのか、それとも見えていることを知って嬉しいのか。

「笑うな、癪に障る」

 パァンッ!! と。
 翔はこともあろうに、少女の幽霊へ平手打ちをかました。
 当然ながら翔は霊媒体質。幽霊への攻撃はもちろん通る。
 よもや少女の幽霊も平手をブチかましてくるとは思っていなかったのだろう。平手をよけきれずに攻撃を喰らい、ゴロゴロと階段を転がり落ちていく。
 そして次にやってきた客の前に滑り落ちたのだが、そのうち1人——20代後半ぐらいの黒髪の男性が見える体質だったのだろう、「ヒッ」と驚いているようだった。

「ど、どうしたんですか翔さん?」
「虫がいた」

 苦し紛れの言い訳をしれっとした顔で言った翔。
 涙目の聡里はそれを信じ、「そ、そうですか」と頷いた。この子はどこまで純粋なのか。

***** ***** *****

 一方、翔を追いかけて遊園地入りを果たした悠太たちは、そのまま翔を追いかけてお化け屋敷へと入った。
 パーティー4人は全員見える体質。そのうち1人(悠太)は死神で当然ながら霊媒体質。そして1人(ユフィーリア)は地獄で最強の処刑人なので、幽霊をぶった切れる。出雲は悪魔なので地獄に引っ張り込むことができるし、雫の精神を狂わせる弾丸は幽霊にも通じるというチートじみたメンバーだった。
 なので、こうなった。

「「「「うわ」」」」

 従業員のお姉さんに案内されて屋敷へと足を踏み入れた4人は、あんぐりと口を開けた。
 お化け役の人間の従業員に混じって、首吊りをした男の幽霊や床を這いまわる(何故か背中に足跡)女の幽霊が存在する。

「これ全員狩り尽くしていいかな。楽しむよりもまず先にお仕事をしたい」

 ユフィーリアが模造刀だと言い張って持ち込んだ空華を握りしめる。『痛いよ!!』という空華の訴えを聞いて、ユフィーリアはさらに握力を込めたのだった。その意味には「静かにしてろ」というものを込めて。
 ワーカーホリック気味なのか、悠太も鎌の代わりであるフルートを構えそうになったのだが、いかんいかんと頭を振る。ここでは4人は人間に徹しなければいけない。お客さんなのだ。埃だらけの屋敷でフルートを出してみろ、変人に(以下略)。

「でもどうしますー? こいつら鬱陶しくて先に進みたくないんですけどー」
「出雲君さー、手っ取り早く誘惑して地獄に引き込んじゃいなよ。悪魔なんだからさぁ」
「悪魔だからってできることとできないことが……いやめんどくさいからやりたくないだけで」

 つまりはできるけど面倒だからやりたくない、という意味である。
 悠太はそんな面倒くさがりの出雲にストレートを喰らわせて、お化け屋敷を闊歩する。従業員の人は不思議に思うだろう、何故彼らは怖がらないのかと。
 本物を毎日のように見ていれば怖がることもないのである。
 そして彼らは、問題の少女の幽霊がいるホールへと差し掛かる。
 2階へ続く扉の前へと戻った少女の幽霊を見上げ、ユフィーリアがまず特攻。人並み外れた身体能力を活かして螺旋階段を使わず、跳躍だけで2階に上がるという反則的ショートカットをする。
 驚いた少女の幽霊の、空洞となった眼窩へ問答無用で目つぶし。ユフィーリアの指は空洞を穿っただけで、眼球には触れられなかった。

「あ、やっぱ空洞かぁ」
「当たり前だろ!! 何してんだよ!!」

 階段を急いで上ってきた悠太は、チョキにした自分の指先を眺めて不思議そうな顔をするユフィーリアの後頭部を叩いた。
 続いて上ってきた2人の「放っておこうぜ」という台詞に、4人はスルーして先に進むのだった。
 嵐のような4人を、ぽかんとした様子で少女の幽霊は見送るのだった。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.146 )
日時: 2015/06/03 22:31
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Ngz77Yuf)

「……ん?」

 先に異変を感じ取ったのは、霊感が全くないはずのヒーロー・椎名昴だった。
 お化け屋敷方面を見上げ、首を傾げる。現在は休憩中なので、お茶のボトルを片手にパンフレットを見ているところだった。別にサボっている訳じゃない。スタンドには別のお兄さんが愛想よく店番をしている。
 道行く子供に手を振られたので、満面の笑みで手を振りかえしてから一言。

「なんか風が湿っぽいな……」

 なんかあったっけ、雨? と記憶を探るが天気予報では雨を予想していなかったし、そんな訳ないかと結論付ける。
 パンフレットへと視線を落として、ページをパラパラとめくる。

「あの死神、お化け屋敷で変なことしてねえよな」

 さすがに同行者がいたから正体は隠してると思うけどなぁ、とぼやきながらお茶を飲む。
 緩やかに時間は過ぎ去っていく。

***** ***** *****

 一方の翔だが、出口に差し掛かったところで異変が起きた。
 なんと、出口の扉がいきなり閉まったのだ。演出家と思ったが、急にである。バタンッ!! と目の前で閉ざされた。

「何事だ」

「ええ!? えええええんしゅ、演出でしょうか!?」

 聡里が翔のワンピースの裾を掴む。その腕はかすかに震えている。そりゃそうだ、目の前で扉が閉まれば誰だって驚くだろう。
 翔の柳眉が寄せられる。これは演出などではない。完全に幽霊の仕業だ。
 幽霊の仕業と言っても、この辺りには数多の幽霊が存在する。誰が犯人なのか分からないのだ。片っ端から幽霊を狩って、冥途へと送ってもいいのだが、同行者は普通の人間だ。変に思われる。
 翔の後ろを歩いていた男女のペアが追いついてきた。扉が閉まっていることを不思議に思っているようだ。

「このままではゴールにたどり着けん」

 翔は扉を押した。だが、扉はピクリとも動かなかった。
 畜生、向こうから押さえつけているのか。翔は胸中で舌打ちをして、ドンドンと扉を叩いた。

「おい、誰かいないのか!!」

 ていうか貴様らどけ、と向こうにいるだろう幽霊へ向かって念を送ってみるが、無駄だった。扉は開かない。
 男女のペアもドンドンと扉を叩いては、「開けて!!」「どうしたんだ!!」と叫んでいるが、びくともしない。蹴ろうが叩こうが喚こうが、扉は閉ざされたままである。

「聡里、少し離れていろ」

「え、翔さん何を!?」

 扉を叩く男女のペアを押しのけて、翔は扉へ思い切り回し蹴りを叩き込んだ。
 ガツッと扉に回し蹴りが命中するが、扉は開かなかった。何故だ。幽霊、どこまで邪魔をすれば気が済むのだ。

「しょ、翔さん大丈夫ですか!? 何があっちゃ、あったんですか!?」

「蹴れば出られると思ったのだが」

 原因は分かっている、幽霊のせいだ畜生。
 何とか蹴破れないものかと回し蹴ってみたのだが、翔の攻撃に幽霊は動じなかったようだ。というか、死神の脚力でも蹴破れない扉とはこれ如何に。
 どうすればいい、と頭を悩ませていると、クスクスクスと笑い声が降ってきた。
 怪訝な顔で天井付近を見上げてみれば、そこには眼窩が空洞となっている白い少女の姿があった。空中に浮いて、クスクスとこちらを見て笑っていた。

『あそぼうよ』

 少女は言う。可愛らしい、高い声で翔にねだった。
 翔は目の前に降り立ってきた白い少女を振り払う。「ふざけるな」と怒鳴ってみろ、ふざけているのは翔の方になる。
 何とか名案はないか。自分の周りをうろうろと彷徨い『遊ぼう』とねだり続ける少女を無視して、考える。

『あそんでくれないならいいよ』

 痺れを切らした少女が、再び浮き上がる。
 次の瞬間、屋敷に地震が襲いかかった。
 ガタガタと上下左右に屋敷が揺れる。男女のペアが悲鳴を上げて床に座り込み、聡里も悲鳴を上げて飛び上がる。その拍子によろめいて壁へ背中をぶつけた。
 衝撃で燭台の蝋燭が倒れて聡里へと落ちる。翔は反射的に聡里へと覆いかぶさった。
 激痛が背中に走る。「くっ……」と苦悶の声を漏らすが、翔は死神なので大した怪我にはならず、すぐに回復する。

「しょ、翔さん……!!」

「心配するな、ただの火傷だ」

 自分の腕の中で心配そうに見上げる聡里へそう告げ、翔は白い少女を睨みつけた。
 少女は楽しそうに笑っている。
 ここまで我慢してきたが、もう限界だった。かの少女はヒーロー以上にムカつく存在へと変わった。翔の中にある『絶対に冥途へ送ってやるランキング』の順位が変わり、第1位の椎名昴の横に白い少女がランクインする。
 この野郎、許すまじ。
 すっくと立ち上がり、今にも泣きそうな聡里の頭を乱暴にくしゃくしゃと撫でてから、

「貴様なんぞ大嫌いだッ!!」

 拳を握って少女へと殴りかかったのだった。


***** ***** *****

「え? 幽霊屋敷に異変が? 気のせいじゃないですか?」

 インカムに入った音声に、昴は反応する。
 何でも、出口の扉が突然閉まってしまったらしい。しかも開かないのだとか。外から係員が開けようとしてもびくともしないようである。

『頼むよ。椎名君、結構力持ちじゃん』

「力持ちですけど冗談じゃないッスよ。設備を壊して弁償するのは嫌ですよ?」

『この際壊さないといけないかもしれないんだよ。大丈夫だって、弁償はないと思うよ。今はお客様の安全を確保しないと』

 しかも中からドカッとかボコッとか音が聞こえるし、と音声は告げる。
 昴は少し考えてから、座っていたベンチから立ち上がった。スタンドへ向き直って、笑いながら接客している青年へと声をかける。

「ちょっとヘルプ呼ばれたから行ってくるな」

「いってらー」

 緩い返事を受けて、昴は人混みの流れに沿ってお化け屋敷へと向かった。
 頭の端に「まさかあの死神がやらかしたんじゃねえよな」と思いながら。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.147 )
日時: 2015/06/20 21:50
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Ngz77Yuf)

 まさか殴りかかられるとは思ってもみなかったようで、少女は引きつった表情のまま固まっていた。
 そのまま翔の拳が顔面に叩きつけられて、壁をすり抜けて吹っ飛ぶ。(※何度も言うようですが、翔は幽霊に触れる体質です)
 はた目から見たら虚空を殴りつけただけのただの変人だが、今の翔にそういうことを考えている余裕などない。世間体を気にするほど、死神は神経質ではないのだ。
 ひそひそと声を潜めて、「あの人やばーい」「空気殴ったよ……」とか罵っているカップルをギロリと睨みつけてから、翔はぐるりと辺りを見回した。
 今のところ、視界には幽霊はいない。白い少女は顔面を殴られてから、壁の向こうだ。おそらく壁を蹴破ったところで何もないだろう。

『ひどいことをする……』

「フン、幽霊相手に手加減などするものか」

『おんなのひとなのに、なんで、こわがらないの?』

 ————女の人?
 翔は自分の格好を見てみる。白いワンピースの上からカーキ色のカーディガンを羽織り、さらに茶色のダッフルコートという極めて可愛らしい格好である。ふむ、なるほど。確かに女子の格好だ。
 だからどうした。
 世の中には女装を楽しむ男もいるのだ。

「貴様に残念な知らせを2つほどしてやろう。まず1つ目だが、俺は『男』だ」

 ポニーテールで結わいていた髪の毛を解き、いつもの左サイドで結び直す。
 指をポキポキ鳴らしてから、首をぐるりと回して体をほぐしていく。死神に体をほぐすなど関係ないのだが、気分である。雰囲気である。
 翔はゆっくりと虚空に手を伸ばした。さながら、誰かに「下がれ」と合図しているかのように、手を横へ伸ばす。その手の先に、紅蓮の炎が生まれた。
 壁から現れた白い少女の眼窩が大きくなる。眼球があったら見開いて驚いていることだろう。

「2つ目だが」

 紅蓮の炎が徐々に形を成していき、長い柄になる。柄の先が歪曲し、垂直に取りつけられた刃となる。
 死神が魂を刈り取る時に用いる鎌だ。
 聡里はポカンとしていた。もちろん、翔を変人とひそひそしていたカップルも同様に。
 驚く少女へ不敵に笑った翔は、自分の正体を告げる。

「——死神に喧嘩を売ったのだ、きちんと相手をしてくれるのだろうな?」

 翔の体が炎に包まれて、白いワンピースから漆黒のコートへと変わる。その姿は、先ほどの可愛らしい格好とは打って変わって、禍々しいものだった。

***** ***** *****


 お化け屋敷の中が何やらうるさい。
 なんか、ゴウッとかボウッとか音がして、女の人の悲鳴が聞こえる。
 閉ざされた出口の扉を引っ張ってみたが、普通の力ではびくともしなかった。そう言えば、責任者の人に問い合わせてみたところ『お客様を助ける為なら大丈夫』という回答をいただいたので、本気を出すことにした。

「ほいっ」

 出口の扉を、本気で引っ張った。
 バキッと扉が外れた。本来なら幽霊が押さえていたのにもかかわらず、だ。
 ヒーロー・椎名昴は霊感などというステキ能力は持ち合わせていない。ビルを吹っ飛ばし、河原を吹っ飛ばすほどの怪力の持ち主だ。それ以外は残念ながら非常に高いオカンスキルぐらいしか持ち合わせていないのである。
 当然、死神のように幽霊の声が聞こえて幽霊の体に触れるなんて能力など持っていないので、幽霊が押さえている扉をいとも簡単に破壊できたのである。

「お客様、大丈夫ですか? 早くここから——」

 逃げてください、という言葉は出てこなかった。
 目の前に広がる光景が、そうさせなかった。

 何故、あの憎き死神が、炎が出ている鎌をブンブン振り回しているのでしょうか。

 再度言う。昴には霊感がない。なので、あのアホ死神が何と戦っているのか分からない。
 だが、やることは1つだ。
 昴は落ち着いてヘタリと座り込んでいるカップルを誘導して、翔の近くにいる小学生らしき紺色の髪を持つ少年の襟首をひっつかんだ。

「な、なに!? なに!?」

「いや逃げるから。あの炎に触れるとまずいから。大丈夫、お兄さんに任せてね」

 少年を担ぎこんでお化け屋敷の外に避難させてから、昴は拳を握った。
 お客様を逃がす為ではない。彼の成すべきことはただ1つ。
 あの死神をブン殴ることだ。


「————こんなところで何してんだクソ死神ィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」


 助走をつけて思い切りブン殴った。
 綺麗な放物線を描いて、翔はお化け屋敷の奥へと転がった。その先にお客様がいなくて何よりも安心した。
 ズシャァァァ!! と背中からスライディングした翔へと、昴はさらに追撃をかます。エルボーを繰り出す為、肘を突き出した格好でジャンプ。
 しかしエルボーを叩き込んだ時には、すでに翔の姿はいなかった。いつの間にか背後に立っていたのだ。

「————貴様はどこまで邪魔をするのだポンコツヒーィィローォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 巻き舌をプラスして翔は鎌を振り上げた。その先にはやはり炎が灯っている。
 だが、その炎がおかしい。
 紅蓮の炎ではなくて、漆黒の炎?

「え、ちょ、何それ何それ何それ何その炎え?」

「黙れ甘んじて受けろォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 昴の質問を鮮やかに無視して、翔は黒い炎が灯った鎌で昴を切りつけた。
 痛みはなかった。熱さもなかった。ただ、異変はあった。
 翔の後ろ。出口付近。何か浮いている。白い少女だ。ただ、その眼球の辺りは空洞だったが。

「」

 言葉をなくした。息も止まるかと思った。何あの少女、こっち見てるんだけど。見て、ものすっごいきょとんとした表情しているんだけど。
 グイッと翔に胸倉を掴まれて極限まで、それこそキスができそうなほどに顔を近づけられる。吐き気がしたが、それ以上に恐怖が勝っていた。

「この屋敷には、あの女みたいな幽霊が数多く存在する。それらが、客人を危ぶませるのだ」

 キラリと輝く赤い瞳。
 翔はいたって真剣な表情で、告げる。

「黙って俺に協力しろ。このままだと、この遊園地に幽霊がのさばるぞ」

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.148 )
日時: 2015/07/01 21:56
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 0bGerSqz)

申し訳ない、あげさせてください。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.149 )
日時: 2015/07/12 22:25
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 0bGerSqz)

 出口に近づくにつれて、何故だか騒がしくなってきた。
 まず最初に気づいたのは、この中で最強を謳う処刑人ユフィーリア・エイクトベルだった。進行方向を睨みつけ、おもむろに空華を構える。

「……なぁんか、向こうの方がうるさい気がする。っていうか、翔の炎の感じがする」

「えー、まさかぁ」

 雫がケタケタと笑った。
 翔は人間の少年とデートなのだ。まさか天敵であるヒーロー、椎名昴と出会って炎を出してバトルを繰り広げている訳ではあるまい。公衆の面前でいきなり炎を出すような非常識では————。
 そこまで考えて、悠太と出雲は揃って「ねえな」と首を横に振った。
 白鷺市に置いてヒーローと出会えば舌戦→取っ組み合い→町を壊しかねないほどの殴り合いに発展するほどだ。彼らの喧嘩に巻き込まれない為に、悠太の能力で人間を洗脳して遠くへ追いやり、出雲は翔のオーディエンスをやるという極めてどうでもいいことをしていた。最近ユフィーリアもやってきて、悠太と共に人間の誘導に協力してくれていることはありがたいのだが、混ざりたそうにチラチラと2人のことを見るのは止めていただきたい。

「まさかヒーローと会ったとか……?」

 悠太は額に冷や汗を浮かべた。
 ユフィーリアの勘はよく当たるのだ。特にこういう、嫌な予感というのは女性の方が鋭いのである。
 翔の炎を感じ取ったということは、高確率でヒーローとバトルをしていることだろう。まずい、非常にまずい、何がまずいって地球に隕石が衝突するのと同じぐらいにまずい。
 何故なら彼が炎を出せば、この屋敷はおろか遊園地もろとも吹っ飛びそうだからだ。

「ゆ、ユフィーリアどうにかお客さんを誘導しなきゃ」

「俺は翔様のオーディエンスを……」

「出雲黙れ」

 出口へ向かってダッシュしようとする金髪悪魔の髪の毛をガッシリと掴み、さらに床へと叩きつける悠太。出雲の扱いが雑なような気がする。
 ユフィーリアは抜刀体勢で出口へ向かって走ろうとした——が、止めた。
 次の瞬間、放物線を描いて男の幽霊が後方へ吹き飛んで行った。

「…………」

「わあ、野球ならツーベースヒットだね。あっはっはっはっは、マジかあっはっはっはっは」

 ケタケタと楽しそうに笑う雫。次々と飛んで行く幽霊を見送って、さらに手を叩いて笑っていた。
 一体何が起きているのだろう、と考える翔の従者(プラス処刑人)の3人は考えるが、その答えはすぐに分かった。
 飛んで行く幽霊に次いで、熱気が膨れ上がる。あまりの熱気に悠太とユフィーリアは顔を顰め、出雲は「熱ッ」と呻く。雫はそれでも笑っていた。熱いけれど、建物は焼けていない。


「「ウォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」


 2つの怒号と共に、少年2人がすっ飛んできた。それはもう恐ろしい形相で。
 茶髪の少年は肩にへばりつく女性の幽霊の頭をボールよろしく掴んで、大きく振りかぶって投げた。綺麗な投球フォームだった。女性の幽霊は建物の天井をすり抜けて、蒼穹の向こうへと飛んで行ってしまった。おそらく天へ(物理的に)召されたことだろう。合掌。
 黒髪の少年は建物が焼け焦げないように配慮した地獄の炎で、足に纏わりついていた子供の幽霊を焼き焦がした。そして逃げ惑う幽霊を、次々に火だるまにしていく。輪廻転生などできないだろう。合掌。

「まだかクソ死神ィィィ!! 何でこの屋敷は幽霊がこんなにも多いんだァァァァ!!」

「知るかヒーローォォォ!! つべこべ言わずに退治をしろクソ野郎ォォォォォォ!!」

 茶髪の少年、椎名昴は向かう敵全てを千切っては投げ千切っては投げで退治していく。
 黒髪の少年、東翔は見えた幽霊を片っ端から燃やし尽くして退治していく。
 出口方面から入り口方面へ向かって駆け抜けていく2人の姿を見送って、4人は絶叫した。

「「「「何してんだお前らァァァァァァァァァァァ!?!?!?!?!?」」」」

***** ***** *****


 後方の方で叫びが聞こえてきたが、今はそんなことに構っていられない。
 昴は隣を走る翔を一瞥して、目の前に現れた女児の幽霊の鳩尾を蹴飛ばした。くの字に体を折り曲げて、壁の向こうへ消えていく女児の幽霊。反撃はなかった、きっと気絶したのだろう。幽霊が気絶するとか聞いたことないけど。
 入り口付近まで戻ってきて、あらかた幽霊は片付いたつもりだ。見えてきた入り口から2体の幽霊をまとめて放り投げて、開け放たれたままの扉にもたれかかる。

「疲れた。これで大体は片付いたか……?」

「いや、数体は屋敷から出てしまったな。幽霊共が遊園地で悪さをしなければいいが」

「ハァ!? オイオイ、冗談かよ。あの眼球がない女の子の幽霊を倒せば終わりとかじゃねえのか?」

「あいつは強い怨念が纏わりついている、ただ殴り飛ばしただけでは成仏せん。奴を含め、数体が園内に散らばっている。何とかしないとやばい」

 翔は険しい顔をしている。幽霊関係になると途端に真剣な表情になるのだからやりにくい。
 チッと舌打ちをした昴は、入り口付近で慌てふためいていた女性の係員に「ねえ」と声をかける。

「貴方は、バイトの……?」

「どっかでアトラクションが不具合を起こしたって情報入ってないか聞いてくれませんか?」

「え、えっと、分かったわ!!」

 女性は慌てた様子で上司と連絡を取り合っていた。
 その様子を横から眺めていた翔は、少しだけ驚いたように目を丸くしている。
 そんな翔を1発殴って、

「幽霊を何とかしなきゃいけねえんだろ」

 超絶不本意だが、彼に協力しないとまずい状況なのだ。幽霊がアトラクションを壊さないという可能性は無きにしも非ずなのだから。もし万が一、アトラクションを壊されて日雇いのバイトをクビになってしまったら大変なのだ。主に生活費が。
 幽霊が見えて触れて話しかけられるのは、翔だけなのだ。昴は霊感などないのだから、協力するしかない。
 殴られたことに腹を立てたのか、翔が昴を蹴飛ばしてきた。

「何をする貴様!!」

「せっかく協力してやるってのに、何で蹴飛ばすんだ!!」

「そっちが殴ったからだろう!!」

「恩を仇で返すってか!!」

「何が恩だ!!」

 いつもの取っ組み合いの末、そして2人は睨みあう。
 彼らの叫びが、蒼穹に轟いたのはその直後だ。


「「お前なんか、大嫌いだァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.150 )
日時: 2015/07/26 23:12
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 0bGerSqz)

「翔様、一体何をしておられるのですか!!」

「ああ悠太か!! ついでにダメ悪魔もいたのか。さらについでに笑い袋宇宙人と自由奔放処刑人」

「悪口を言われた気がするんだけどよー、アタシはお前を処刑できるっていい加減に分かった方がいいと思うぜ炎の死神さんよー」

 いざ遊園地内に散らばった幽霊をブッ飛ばしに行こうとしたところで、翔の従者である(1人従者じゃないけど)4人が駆け付けた。
 翔が余計なことを口走ったので、ユフィーリアが愛刀の空華の柄に手をかけて翔へ威嚇する。絶世の美少女顔が台無しである。外見と中身が合っていないとはまさにこのことだろう。
 悠太は胃が痛いのだろう、腹を抑えて呻くような声で主である翔へ質問をする。

「翔様、これから何をしようと言うのですか……」

「この屋敷に蔓延っていた幽霊共が、園内に散らばってしまったのだ。それの殲滅を行おうと思った」

「なりません!!」

 鋭い声で、悠太は否定する。
 当たり前である。彼は死神、人間とは訳が違うのだ。それに死神と言っても、全てを焼き尽くす『地獄業火』という炎を操る最高ランクの炎の死神である。
 もしそんな奴が園内で、怨敵であるヒーローと大暴れしてみろ。たちまち有名人になってしまう。いや、もうすでに有名人の仲間入りを果たしてもおかしくはないぐらいの暴れようなのだが。少しぐらいは正体を隠してほしいものだ。
 それに翔の操る炎で焼かれてしまえば最後、復活することができなくなってしまう。人間は輪廻転生を経ることができるが、翔が焼いてしまえば元も子もない。その魂は永久に転生することができなくなってしまうのだ。もし力加減を計り損ねて1人でも人間を焼いてしまったらアウトである。死神的に。それこそ再び処刑台行きだ。
 しかし、翔も翔とて負けてはいられない。キッと紅蓮の瞳を吊り上げて、悠太に食って掛かった。

「このままだと大勢の人間が死ぬ。それを狩り尽くし、冥途へと送り届けるのは誰の役目だと思う。全て俺様たち、死神が負うべき役目だ。今日死ぬはずのリストに関係のない人間を、今この場で死なせてたまるか!!」

 翔の言い分も最もである。悠太は言い返せなくて、唇を引き結んだ。あちこちに視線をさまよわせてから、

「分かりました。それなら、僕も協力しましょう」

「ああ、そうしてくれ。ただでさえ出雲は役に立たんのだ。せめて貴様ぐらいは俺様の役に立ってくれ」

「え、俺は何かディスられてるんですかね。ただ単純に悪口言われてますよね。酷くね? そろそろ俺泣いていい?」

 金髪の悪魔は主人にドストレートにディスられて、ほんの少しだけ傷ついていた。ほんの少しである。実際働く気なんてサラサラなかったので、最初から切り捨てられていてちょうどよかったのだが。

「オイ死神集団とおまけの女子共。アトラクションの不具合の情報が手に入ったぞ————うぉっと!?」

 上司の人に連絡をして情報を得た昴の頬を、青い刃がかすめた。数本茶色い毛が舞った。
 もちろん刃を抜いたのは彼の最強処刑人、ユフィーリア・エイクトベルである。息をのむほど美しい顔に笑みを張りつけ、女性では出すのが難しいドスの利いた声で優しく問いかける。

「誰がおまけだって?」

「サーセンッシタ」

 珍しく空気を読んだ昴だった。シュバッと頭を下げて謝罪の意を示す。こうでもしなければ首が飛ぶと思ったのだ。
 空華を鞘に納めて、ユフィーリアはにっかりと笑った。嫌な笑みではなく、自然な、彼女らしい笑み。

「アタシも混ぜろよ? 最近戦ってなくてうずうずしてたんだ。少しぐらいはストレス発散させてくれてもいいだろ?」

「最強処刑人の貴様がいてくれるだけで心強い、助かる」

 翔は素直に感謝の言葉を述べた。いつもの彼ではないような気がしないでもないが、実際彼はヒーローにしか嫌な態度は取らない。基本的に友好的なのだ。
 雫も巨大な狙撃銃をどこからか出して、「ウチも協力するよあははははは」と下品な笑い声つきで協力に応じた。遠距離からの支援も入れば百人力である。

「ならばいざ出陣!! 園内に散らばる雑兵共を蹴散らすぞ!!」

「「「「応!!!」」」」

「……出雲さん、あの死神の常識ってさ戦国時代で止まってんのか?」

「大正解だヒーローさん。実際あの方の常識は本能寺の変辺りがベストだろうな。ギリ関ヶ原の戦い辺りも分かってると思うが、歴史を知っているだけであって常識は皆無だぜ」


***** ***** *****


 不具合を起こしたアトラクションは3つ。ジェットコースター、コーヒーカップ、観覧車である。
 お化け屋敷から最も近いということで、コーヒーカップの幽霊を討伐することにしたゴーストバスター一行。コーヒーカップの傍にきてみると、ワーキャーと人の悲鳴が聞こえてきた。
 並んでいる行列を押しのけて見てみるとあらびっくり、全てのコーヒーカップがものすごい速く回転しているではないか。人が遠心力で吹っ飛びそうなほどである。飛んでいないのが奇跡とも言えるぐらいだ。

「アトラクションを止めてください!!」

「む、無理だ!! 止まんない!!」

 操作盤を操る男の従業員は、慌てた様子で機械のボタンやレバーを動かしているが、コーヒーカップの回転は未だ止まらない。
 それもそのはず、見える人にはコーヒーカップに幽霊がしがみついてぐるぐるぐるぐると回転させているのだ。どうやって止めろと。
 今はなんとか見えている昴は、コーヒーカップにしがみつく幽霊を撃退する為に拳を握った。——が、それよりも早く動いた人物がいた。

「お」

 身を低く屈め、

「了」

 爪先で勢いよく地面を蹴飛ばし、

「り」

 コーヒーカップの間を縫うようにして駆け抜け、

「——空!!」

 刀を振り抜いた。
 全てが一瞬だった。一瞬で身を低く屈め、爪先で勢いよく地面を蹴飛ばして、コーヒーカップを縫うようにして駆け抜けて、幽霊共を叩き切った。
 青い刃を振り払って、黒鞘に納める。コーヒーカップの回転はなくなり、アトラクションは完全に停止した。

「口ほどにもねえな。もっと手応えある奴はいねえのかよ」

 余裕の表情で笑むユフィーリア。
 さすが地獄の最強処刑人。誰も逆らえぬ強さである。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.151 )
日時: 2015/08/09 22:17
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: gb7KZDbf)

ごめんなさいあげさせてください

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.152 )
日時: 2015/08/16 22:53
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: gb7KZDbf)

 続いて不具合を起こしたジェットコースターへと向かう死神一派とヒーロー。ヒーローの表情は若干やつれていると言っても過言ではない。
 意気揚々と散らばった幽霊たちを問答無用で冥途へ送る翔だが、その後ろではヒーロー・椎名昴が重々しくため息をついていた。
 何故ならこの死神、人混みの中でブンブンと身の丈を超す鎌を振り回しているのだから。変人以外の何でもない。ていうかこいつ、確か女装してデート中ではなかったのか。相手はどうした、相手は。

「……悠太、人混みを避難させることはできねえのかよ……危ねえよ」

「そうしたいのは山々なんですけど、人混みの方に幽霊たちが襲い掛かってしまっては元も子もありませんので」

 悠太の方も若干げっそりしているようだった。人目を憚らず鎌を振り回す主に、疲れているのだろう。
 翔の他に最強処刑人のユフィーリアがふわふわと浮遊している幽霊をぶった切っては冥途へ送っていた。こちらの太刀筋も迷いはない。問答無用である。幽霊が可哀想になってきた。
 そんな一派の耳に、シャゴォォォォォ!! という轟音と共に悲鳴が飛び込んできた。ジェットコースターが近づいてきた証拠である。
 巨大なレールの上を走るカラフルな車両には乗客がいた。しっかり安全装置がかかっているが、乗客の顔色は悪い。そう、さながら連続でジェットコースターに乗っているかのような——

「いや実質何度もジェットコースターを乗らされているのだろうな。幽霊の人数がすごいことになっているぞ」

 ラノベ主人公もびっくりの霊視能力を持つ死神の翔が、冷静な判断を下した。冷静な判断を下すのだったら、あのジェットコースターを救う努力をしてほしいものである。
 実際、霊視能力を(半ば強制的に)与えられた昴も確認することができた。
 レールを走る車両に、半透明な人間が複数しがみついている。どいつもこいつも笑顔だ。人を怖がらせるのが楽しいのか、それともしがみついていてもジェットコースターに乗れているのが楽しいのか。ジェットコースターの運営を止めているはずなのに、物理法則を無視した楽しみ方である。幽霊畜生マジずるい。
 しかし、いくらヒーローとてレールの上に乗って車両を止めるなど不可能である。そこまで体を張って死んだら元も子もない。自分にはあの忌々しいクソ死神を殺すという目標であり使命があるのだ——!!

「ユフィーリア、あのコースターにしがみついている幽霊は切れないのか? ほら、さっきコーヒーカップでやってただろ?」

「コースターごとぶった切ってもいいなら」

 真顔で頷くユフィーリア(最強処刑人)。真顔で殺人宣言をされてもどうしようもできない。昴は何も言えなかった。
 ユフィーリアの最強たる御業、切断術は居合によって発動される術式である。ユフィーリアは主にすれ違いざまに対象を叩き切ることを推奨しており、空中で漂うコースターをぶった切るのは難しいのだ。
 難しいのであって、切れないことはない。ただ少々集中力が必要で、身動きができなくなるだけなので、その点を踏まえてくれれば問題はないのだが。

「……さすがにコースターごとぶった切るのはちょっとなぁ」

「じゃあどうするんだ? あれどうやって叩き切る?」

「今回はユフィーリアの出番はないみたいですね」

 ユフィーリアの活躍を、悠太があっさりとぶった切った。
 当本人はしれっと明後日の方向を見上げる悠太を睨みつけたが、事実その通りなので舌打ちをするだけにしておいた。どうも納得できない様子であるが、コーヒーカップで活躍したので我慢することにした。

「じゃあ今回はウチの出番かな!! ふっふっふー、ようやく活躍する時がきたぜー」

「え、何をする気なんだお前」

 何かを企むように笑った雫は、ごそごそと何かを準備し始めた。
 どこから取り出したものだろうか。巨大な銀色の狙撃銃である。三脚を設置し、銃身を乗せる。スコープを覗いて、縦横無尽に駆け回る車両を狙った。
 ケタケタと笑う雫はどこへやら、その横顔は真剣そのものである。

「————ッ!!」

 短い吐息のあと、雫の指が屈伸した。
 マズルフラッシュと共に弾丸が吐き出されるも、あの弾道だと車両を大幅に掠めてしまう。狙いは失敗か。

「ハッハー、甘いぜぇ!! ウチを誰だと思ってんの」

 口角を吊り上げて雫は笑った。
 車両めがけて飛んで行く弾丸は、フッと姿を消した。消えた弾丸は車両のすぐ目の前に現れ、着弾。
 次の瞬間、車両は赤い炎に包まれた。

「「「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」」」」」

「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?!」

 乗客と昴の悲鳴が重なった。
 何で車両が火だるまになるのだ!!

「雫お前何してんだァァァ!!」

「だーいじょうぶだって、翔がそこら辺を配慮した炎にしたからさ」

 からからと軽い調子で笑う雫と、その先でフフンと自慢げに笑う翔。
 どうしてだろうか、ものすごく殴りたくなってくる顔である。昴は問答無用で雫の頭に拳骨を落とし、翔は横っ面を殴り飛ばしておいた。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.153 )
日時: 2015/08/30 00:39
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: gb7KZDbf)

 さて、残すはあと観覧車だけになったのだが——。
 生き生きとした表情で幽霊狩りをする翔と雫、ユフィーリアを除いた3人はげっそりとやつれていた。昴と悠太は言わずもがな、出雲は早くも歩き疲れていたようである。「情けない」と悠太が叱責したが、今の出雲はさながらゾンビのようにフラフラと歩いている。

「……つうか、なんか、人が多くなってねえか?」

「……ええ、何ででしょうね。観覧車に向かっていく人が多いような気がしますけど……」

 ぼんやりとやつれた表情でぐるりと辺りを見回す昴と悠太。
 すると、前方を歩いていたシズクが「あ、」と声を上げた。前を指さして、口をあんぐりと開けている。
 視線の先にあるのは観覧車。ジェットコースター、コーヒーカップと違って、こちらは普通に動いている。ゆっくりとした速度でゴンドラが回転し、人々を乗せている。
 しかし、そのゴンドラに張りついている幽霊の数が尋常ではなかった。色とりどりのゴンドラには幽霊が10人以上は張りついているではないか。景色を楽しむ云々ではないと思う。それ以外には、人々が危険に晒されるような異常は見られないのだが。

「いや、おかしいぞ」

「何がだポンコツ。あてずっぽうで答えたら首折るぞ」

「黙れヒーローめ」

 何故か『ヒーロー』を蔑称で呼ばれたような気がするけど気のせいか気のせいだなあとで殺す、と昴が2秒で思考を終えてから、翔の説明に耳を傾ける。
 翔の指が、周囲をぐるりと示す。正確には周囲にいる客である。もっと正確に言うなら、客の顔。
 客たちの顔からは、生気が感じられなかった。目はうつろ、口はだらしなく開き、フラフラと覚束ない足取りで観覧車へ向かっていくではないか。観覧車の搭乗口は、今や人で溢れ返っている。

「……幽霊たちは一体何をする気なのでしょうか」

 疲労によってげっそりとやつれている出雲が、ポツリと疑問を吐き出した。
 幽霊が何をしたいのか分からないので、とりあえずゴンドラに張りついている幽霊を処理しようと拳を握った時だ。昴の視界に、特徴的な少年が映り込んだ。
 他の客と違って、小さな身長。紺色の髪の毛。抱えているのはウサギのぬいぐるみ——間違いない、死神の野郎が性別を偽ってデートをしていた相手であるあの少年である。確か、名前は桜瀬聡里だったか。

「……オイ。あそこにいるの、お前が性別を偽ってデートしていたゲブッ!?」

 突如として襲いかかったのは、翔の手のひら。顎に掌底を叩き込まれた昴は、ゴキッと無理やり上を向かせられることとなった。顎に強烈なダメージを負った昴は、フラフラとその場に座り込んでしまった。
 確かに余計なことを言ったかもしれないが、顎に掌底を叩き込むのはどうかと思う。目尻に浮かんだ生理的な涙を拭って諸悪の根源を睨みつけると、翔は搭乗口へ走って行ってしまった。その表情は、どこか必死の様子だった。

「……何だ、心配なんじゃねえかよ。殴ることねえだろ、痛ぇ……」

 殴られた顎をさすりながら、昴はまずはゴンドラに張りついている幽霊の群れをどうにかする為に動き出した。


***** ***** *****


 先ほどまでしていた格好にすればよかった、と翔は心の底から思った。
 搭乗口に立った藍色の髪の少年、桜瀬聡里を追ったのはいい。少しでも観覧車から離れる為に、手を掴んで引っ張ろうとしたところでうつろな目をした客どもにゴンドラへ押し込まれてしまった。
 狭いゴンドラの中に男2人。片やぼんやりしている聡里。その対面には、死神の格好をしたままの翔が居心地悪そうに腰かけている。

(……どうする、どうする東翔。この状況を打破する為には、一体どうしたら——!!)

 思考回路が焼き切れんばかりにぐるぐると打開策を練る翔。徐々に視界が高くなっていく景色など楽しめる余地などない。
 聡里を抱えて窓から脱出。いや、我に返った聡里が気絶してそのままお陀仏ということになりかねない。無意味に人の命を奪うことを禁じられている身だ、それだけは何としても避けたい。
 その時だ。
 翔の耳に、か細い声が届いた。

「——しょ、さ……」

「聡里?」

 俯いていた聡里が、何やらぼそぼそとしゃべっているようである。わずかに乾燥した唇が動いている。
 耳を澄ましてよく聞いてみることにした。

「——しょ、さん、僕と、い、しょ、いて、たの、し、です、か——」

(楽しいか、だと)

 聡里はブツブツと繰り返し言葉をつぶやく。それは変わらず、まるで壊れたカセットテープのように、同じ言葉を繰り返す。
 翔さん、僕と一緒にいて楽しいですか——と。
 何を心配する必要があるのか。何を迷う必要があるのか。謝らねばならないのは、むしろこちらの方なのだ。性格は偽らないとしても、性別はおろか、小隊まで偽ってきたのだから。
 聡里は人間。翔は人間の魂を狩る死神。決して相容れぬ存在。本来なら、さっさと正体なり性別なり明かして放っておけばいいものを。
 翔が聡里へ手を伸ばした時だ。ガゴッと、ゴンドラが大きく揺れた。

「な、なん——」

 窓へと視線を投げると、何故か地面が見えた。ゴンドラの向きが明らかにおかしい。というか、観覧車が全体的におかしい。
 この観覧車、傾いていないか?

「クソッ、このまま倒れれば人は全員死ぬぞ!!」

 真下には大量の人がいる。最初からこれが目的だったのか。
 観覧車の根幹をぐいぐい押している、大量の幽霊。いつの間にかゴンドラから離れていたのか、ゴンドラに張りついていた幽霊はグイグイと観覧車を押している。接合部分はどうなった。壊したのか。嘘だろう。
 倒させてなるものか。人が死ぬ瞬間を、黙って見ている死神がいるか。それに——!!

「桜瀬聡里、貴様を死なせやせん。この俺の名に懸けて——!!」

 聡里を抱き寄せ、翔は大鎌を振り上げた。ゴンドラの窓ガラスを叩き割り、外へと飛び出す。ちょうど翔たちが乗っていたゴンドラは、観覧車の頂点を過ぎたところだった。1番高い地点からの落下だ。
 腕に抱いた小さな少年を落とさぬようにきつく抱え、翔は笑う。観覧車を押していた幽霊たちへ向けて、嘲笑を。
 その中には、親玉であるあの少女もいた。眼球のない穴が歪んでいる。このまま落ちて死ぬ、と考えているのだろうが——残念ながら死ぬのは、

「貴様らの方だ、雑魚」

 炎の灯った鎌を振り下ろす。
 観覧車を火柱が包み、熱が膨張した。翔は顔を顰め、熱から聡里を守る。

「……しょ、さ、僕と、」

「ああ、楽しいぞ」

 腕の中で呪いのように問いかけてくる聡里に、初めて言葉を返した。

「俺は今、猛烈に楽しいぞ」

 地面が見えてくる。
 体勢を変えて、翔の背中が地面に向くようにした。翔は死なない、死神だから。高高度から地面に叩きつけられたところで、死にはしない。死神は永遠の時を生きる存在なのだから。
 しかし————いくら待っても、衝撃は訪れなかった。

「……き、さま」

「関係ねえ奴に、ショック死されたらヒーローのメンツが丸つぶれだ」

 視界をよぎった見知った顔。大嫌いな、あのヒーロー。昴が、翔を受け止めていたのだ。
 昴の手によって地面に下ろされた翔は、

「フン、一応感謝はしてやろう。ポンコツめ」

 いつものように毒を吐いたが、昴は殴りもせず、かといって怒鳴りもせずに、ただ「おう」とだけ返した。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.154 )
日時: 2015/09/13 23:19
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: gTez.RDd)

 目を覚ますと、目の前には翔の姿があった。
 頭の下にあるのは、やけに硬い感触。でも少しだけ頭が浮いているようにも思える。——膝枕をされているのだ。

「——ッッ!?」

 慌てて聡里は飛び起き、周囲を見渡した。
 何の変哲もない遊園地の風景が、目の前に広がっていた。幽霊も何もいない。あれは夢だったのだろうか、と聡里は思考する。

「落ち着け。貴様の思うものはすでに俺が祓った。問題ない」

「……翔さん」

 共に遊園地を訪れた相手は、今や服装が変わっている。
 可愛らしいワンピースから漆黒のコートへ。艶のある黒髪は左下で結われ、ニット帽を被っている。愛らしい女性のような顔立ちはそのままだが、その双眸は夕焼けの如き赤い色をしている。ベンチに立てかけてあるのは、日本ではまず使用を禁じられるだろう死神が持つような鎌だった。陽光を反射して、刃は鈍く輝いている。
 目の前の相手は——東翔は、己が思っているような人ではなかったのだ。

「……悪いな。こっちが本当の俺様だ。だが謝る気は毛頭ない。騙したつもりはない。この口調で男であることは分かっただろうに」

「……そう、ですね」

 可憐で、自分が女だと思っていた東翔はもういない。
 そう考えると、何故だろうか、涙が滲んできた。
 きっと彼女——否、彼は己を馬鹿にしていたのだろう。「男同士で遊園地に行くなど馬鹿げている」とか、「気持ち悪い」とか根底では思っていたのだろうか。次から次へと悪い考えが浮かんできて、それが涙という形になって溢れてくる。

「……桜瀬聡里よ、何故泣いている」

「だって、だって……きっと、貴方は僕のことを気持ち悪いとか、そう思って……」

「俺様は一言もそんなことを口にしてはいないが」

 きょとんとした表情で、サラリと告げる翔。というより、呆れている。
 ボロボロと溢れてくる涙をグイと乱暴に拭って、聡里も見たことのある毅然とした態度で、

「俺様は嘘はつかん。それは死神の流儀に反することだ。だから今まで口にしたことは全て俺様の本心だ。気持ち悪いと思ったのならば、気持ち悪いと嫌悪の目と共に貴様にくれてやる」

 あまりにもサラリと、そして堂々とした態度で聡里は呆気に取られてしまう。
 今まで思ったこと、口にしたことは全て彼の本心なのだとしたら。
 そういえばそうだ。こんなに堂々とした態度を貫く彼が、嘘など吐くはずがない。演技などする訳がない。ナンパされた時だって、堂々とした態度でナンパ野郎を追い返していたし、お化け屋敷の異常では守ってくれた。
 自然と聡里は笑っていた。頬が緩み、笑顔を作っていた。

「そうですね、貴方がそんなことをする訳がないですもんね!!」

「そうだろう?」

 自慢げにフフンと笑って見せる翔。それから翔は聡里へ手を差し伸べて、

「さあ、白鷺市に帰るぞ。この姿から女の格好をするのは面倒だ。このまま帰る」

「空でも飛んで帰るんですか?」

「貴様がそれを望むならやってやらんでもない」

 からからと軽い調子で笑う死神の手を取って、少年もまた微笑んだ。
 それから2人の恋人——否、友人は、夕暮れに染まりつつある空へと姿を消すのだった。



 一連の様子を眺めていた死神一派とヒーローは、揃ってため息をついた。

「ふう、やっと一段落したぜ」

 昴は額に浮かんだ汗を拭って、一息ついた。
 その隣にいた悠太は、胃薬を握りしめて膝をつく。彼の行動が胃にダイレクトアタックをかましたのだろう。無理もない、東翔という少年は些か自由すぎるのだ。常識人である悠太からすれば、問題の塊だ。

「にしてもあの口調で、お化け屋敷に入るまで気づかなかったってすごい天然だな。あんなの日本にいたんだ」

「もはや天使かって突っ込みたかったな」

 昴の言葉にユフィーリアが同調した。手の中にいる空華も『そうだね』と頷く。
 桜瀬聡里という人間は、どうも天然を通り越して天使と形容した方がよさそうだ。桜瀬聡里と書いて天使と読む。

「まあ、これであとは何事も起きなければいいんだけどよー」

「そうですね…………ほんと」

 疲れたように悠太はつぶやき、フラフラと歩き始めた。悠太も同じように帰るのだろう。そんな悠太を出雲が支え、2人して歩いている。
 ユフィーリアも空華を担いで、雫はケタケタと楽しそうに笑いながら出口の門へ向かっていった。
 昴はそんな彼らの背中を見送って、仕事に戻ることにした。スタッフの仕事はまだ残っているのだ。稼がなきゃ、と意気込んで仕事へと向かおうとした。

 ————殺せ。

「————ッ!!」

 バッと昴は反射的にヘッドフォンを押さえつけた。
 ヘアバンドの如く、己の癖毛を押さえつけているヘッドフォン。いつからヘッドフォンをしているのかさえ分からない。思い出せない。だが、これを外してはいけないような気がしたのだ。
 それなのに、今。
 何か聞こえた。

「……うるせえな」

 時折聞こえてくる耳鳴りを振り払い、昴は仕事へと戻るのだった。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.155 )
日時: 2015/09/27 23:08
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: gTez.RDd)

ヒーローと死神の雑談場♪ 〜ゲストを招いての振り返り〜



椎名昴「まさかここまで第8話が長いとは思わなかった」

東翔「俺が苦労しただけだなド畜生殴らせろ」

椎名昴「まあ作者の仕事が繁忙期に入ったりなんかしちゃったりしたからな。でもそれって2か月だよな」

東翔「5月病だろうな」

椎名昴「……つまりサボリか」

東翔「そうとも言うな」

山本雫「あれ、今日は喧嘩しないね。どうしたのなんかあった? 風でも引いた?」

東翔「こいつが余計なことをしてこなければ、俺様は別に喧嘩などしないぞ」

椎名昴「そうだな。余計なことさえ言わなければだな」

山本雫「それにしても今回の話は長かったなー。何だったんだろ。暴走でもしたのかな、作者」

椎名昴「2回に1回はあげてたからな。サボってんじゃねえよって言いたいな」

東翔「あとあれだろうな。多分ちょこちょこ神様を狩っていたとか……」

椎名昴「それ関係あるのかな」

山本雫「いや関係あるでしょ。社会人の経済力に物言わせて携帯ゲーム機を衝動買い→そのまま買ったゲームにはまってどっぷりのめり込んだから」

東翔「腱鞘炎にもなったし」

椎名昴「それ関係あるのかな。親指使わねえじゃん、作者」

山本雫「にしてもユフィーリアちゃんがいないね。どうしたんだろ」

東翔「今日は地獄に処刑人の仕事をしにいったぞ。『今から奴らを裁いて捌いてひゃっはー!!』と言いながらな」

椎名昴「通常運転だな」

山本雫「え、じゃああのユフィーリアちゃんは誰なの?」

東翔「ハァ?」

椎名昴「え、何か見えんのか、よ——」

ユフィーリア「…………チッ」

グローリア「ユフィーリア、初っ端から舌打ちはしないの。怖いでしょ」

ユフィーリア「うるせえクソ司令官」

グローリア「いい加減に名前を言って!!」

東翔「ユフィーリア・エイクトベルが2人いる」

椎名昴「つかそっちのちょっと泣きそうな優男、この死神にそっくりじゃねえか」

東翔「俺様があんなにナヨナヨした男だと言いたいのか!! 貴様殺すぞ!?」

椎名昴「実際にお前『自主規制』ついてるか怪しいからちょうどいいんじゃねえのかなー!!」

グローリア「喧嘩はやめて!! 適用『時間静止』!!」

山本雫「あ、止まった」

ユフィーリア「……うるせえな。いい的だ、叩き切ってもいいかまとめて」

東翔「やめろ。何故貴様に殺されなどしなければならないのだ、ユフィーリア・エイクトベル」

ユフィーリア「気安く名前を呼ぶな女々しい顔した死神野郎」

東翔「……ッ!! クソヒーローにもそこまで言われたことはないぞ!! 跪け、叩き切ってやる!! その腐った性根を叩き直してくれるわァァァ!!」

椎名昴「え、いつでも俺は女顔死神って言ってねえ? つか思ってるぜ? だって心で何を思ったって自由だから。絶対不可侵の憲法だからァ」

東翔「思ったことを口に出したら気分を害することで名誉毀損だ!! 殺してやる!! 2人まとめて!!」

グローリア「ちょっとそれは困るなぁ。僕たちの大事な戦力だから、彼女」

山本雫「どちらからお越しか聞いても?」

グローリア「僕はグローリア・イーストエンド。複雑ファジーで連載中の『Sky High-いつか地上の自由を得よ-』で司令官をしているんだ」

山本雫「ガチファンタジーの戦争ものですね。あはは、ウチも活躍してるんだっけ!!」

グローリア「そうだよ。君はとても優秀な狙撃手さ!!」

山本雫「嬉しや嬉しや」

ユフィーリア「何だこの女々しい男。切り飛ばしていいか。いいよな?」

東翔「思っても口に出すなと言っているだろうが贅肉を胸に2つもつけているんじゃないぞ阿呆め」

ユフィーリア「やっぱり殺す。脱げ。『自主規制』刈り取ってやる」

椎名昴「それは困る。俺が殺すから」

ユフィーリア「殺す気なさそうだろお前。こいつと楽しそうにポカポカやってるだけだろうが。殺す気があるならもっと本気でぶん殴って殺せよ」

椎名昴「いや、こいつぶん殴っても死なないんだってほれ」(ドッゴォ!!)

東翔「ふぐぁ!!」

ユフィーリア「……本当だな。歯が飛んだだけか」

椎名昴「しかもすぐ直るんだよな」

東翔「やはりここは地獄の業火で永久に消滅させるしかあるまい……!! 覚悟しろ!!」

山本雫「三つ巴の戦いになりましたねー。めんどくさいな、あれ止めるの」

グローリア「連れて帰るから勘弁してね」

山本雫「あ、すみませんグローリアさん。ゲストで悪いんだけど次回予告お願いできる? あの2人があんなんだと使えないし」

グローリア「任せて。えーと、次回は」




山本雫、ついに月へ帰る!?
椎名昴の無料宇宙旅行が使える時がくるのか!!


「えーと、この場合はロケット使って順当な手順を踏んだ方が」

「何を言っている。あのUFOに飛び乗った方が早いだろう。あのべたな円盤型UFOに」

「うわあ、グレイとか乗ってねえよなあれ!?」


UFO襲来!?



山本雫「……え?」

グローリア「次回もお楽しみに!!」

山本雫「え、ちょ、これって!!」