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Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.18 )
日時: 2012/11/25 21:35
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)

 東翔の休日は、大体寝る事から始まる。が、今朝は違っていた。
 何故なら、今日は死神としての仕事が入っていたからである。そのため、部下である悠太に無理やり起こされて、現場まで出てきたのだ。
 ちなみに、死神の仕事は現場での活動が多い。死者の場所までその足を運び、死者を見極めるのである。
 しかし、翔の場合は現場歴が非常に短い。そのため、今回は付き人とともに仕事をする事になったのである。

「どうして出雲、テメェがここにいる」

「どうしてって、貴方様の仕事を監視するためですが?」

 きょとんとした様子で、杯出雲は翔の隣をすたすたと歩く。
 ちなみに、彼は悪魔である。翔の父親の閻魔大王に命令されて、翔を監視していたのだ。そして翔が逃げ出したからこうしてここまで追いかけてきた結果である。下手すればストーカーだが、そんな常識が悪魔に通じるはずがない。

「……俺は逃げも隠れもしない。だから家に帰れ。そして他の奴を呼べ。悠太とか」

「悠太は家事があるでしょう。王子である貴方の代わりにすべての家事をやっているんですよ。ちなみに買い物です、彼は」

 いらん情報まで渡されても、と翔は心の中で思うが口には出さない。ポーカーフェイスを保ったまま、今回の仕事場へ到着した。
 何の変哲もないただのマンションである。しかし、この701号室にいる独り暮らしの男が、今回自殺した死者である。

「まったく、どうして自殺など意味のない行動をするのだ」

「さて、それは分かりかねます。人生に疲れたのでしょうか?」

「だとしても自殺するなんてないだろう。この先、いい事があるかもしれんぞ」

「死神や悪魔は幸運は操れませんもんね。操れるなら——そうですね、貧乏神と福の神に言ってみたらどうですか」

「俺、あいつら嫌いだ」

 翔はふいとそっぽを向いて、マンションのエレベーターに乗った。それに出雲も乗ってくる。
 翔の言う貧乏神・福の神は自分を子供扱いしてくる輩ばかりである。自分達の方が長生きしているからと言って、調子に乗りすぎなのである。

「さて、と。ここか——田中新太郎(タナカ/シンタロウ)の部屋は」

「そうですね。表札にも間違いはありませんし、住所もここで合っています。強行突破しますか?」

「そんな馬鹿がどこにいる」

 いや、いない訳ではない。
 過去に立てこもった銀行強盗犯に向かって第3宇宙速度で岩を投擲し、銀行を反滅させたあの馬鹿ヒーローがいるではないか。杯出雲もその同列だとみると、正直笑えてくる。
 翔は苦笑いを浮かべてから、「とにかく壊すな」と命じた。

「じゃあどうすればいいんですか?」

「ナイフを取り出すな。……心配はいらん。空間移動術がある」

 なるほど、と出雲が手を打った。
 翔は愛用の鎌——柄の赤い鎌を取り出して、閉ざされたドアの前に刃を滑らせた。空間が切り裂かれ、部屋の中があらわになる。電気はついていなく、廊下もひんやりしている。
 廊下の中に足を踏み入れる。当然土足だ。常識がない訳ではない。ただ靴を脱ぐのが面倒臭いだけである。

「……おや」

 現場を見て、出雲が声を上げた。
 そこにあったのは、天井から下がる男の巨体。ぶらぶらと宙ぶらりんにされていて、足が不規則に右へ左へ揺れている。足元には遺書として『もう疲れました』などというありきたりな文章が書かれていた。
 翔は舌打ちをして、遺書を拾い上げる。
 誰に対して書いたのか。もしかして家族か? 恋人か?
 いや、今は関係ない。仕事を終わらせるだけだ。

「田中新太郎……テメェは自殺を犯した。それだけで罪だ。人生を全うせず、テメェはそれを放棄した。よって地獄へ禁固9000年の刑に処す」

 赤い鎌を振り、死体から白い玉が出てくるのを見た。
 これは人の魂である。みな誰しもが持っているものであるが、1人だけ効かない馬鹿がいる。あの馬鹿ヒーローはどうしても効かないのだ。何故だか知らんが。こっちが訊きたい。
 白い玉を地面の黒い淵へ放り捨て、翔は淵を閉じた。
 黒い淵は地獄の門。白い淵は天国への門。それは誰かに教えてもらった事である。誰に教えてもらったのか分からないが。

「これで今日の仕事は完了ですか?」

「あぁ。今日の死者は7人……自殺者は2人か。だから地獄が荒れるんだ。『生き返らせろ、生き返らせろ』『俺達には、まだやり残した事がある』——行ってしまうと、死んだ奴が悪いと思うんだがな」

「おっしゃる通りでございます」

 そういいながら、不謹慎にも男の死体をナイフでばらそうとしている出雲を発見した。
 翔は出雲の頭を鷲掴みにし、首を傾げた。

「どうしてテメェは人の体をナイフで刻もうとしているんだ? 死ぬか? 悪魔も殺せるぞ、死神は」

「嫌だな。俺はまだ死ぬ時じゃないですよ。知っていますか? 死神は死ぬ時じゃないと人を殺せないんですよ」

「大丈夫だ。存在もろとも貴様をコロス」

 鎌を振り上げて今まさに殺そうとした瞬間、


 ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああああす!


 遠くで悲鳴が起きる。悲鳴というより、雄叫び。
 翔はベランダへ飛び出した。何事かと思って空を見上げると、

「な、何だあれは!」

 翔は叫んだ。
 彼の大きな瞳の向こうにあったのは、

 なんか、漫画でよく見る怪獣だった。