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Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.19 )
日時: 2012/12/06 22:45
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: GlvB0uzl)
参照: ノートパソコンに変わったぜ! いえーい!

 何があり得ないって?
 目の前の怪獣の存在があり得ない。普通の生活で怪獣を相手にする奴なんて誰もいないだろう。と思ったそこな読者様。
 山下愁の小説は、その常識を覆します。
 ここに1人の少年が、逃げ行く一般人を蹴散らして(←)怪獣へと特攻していく。茶色い髪にヘアバンドのようにつけられた漆黒のヘッドフォン。身に着けているのはウエイトレスの制服である。
 椎名昴。白鷺市に住まう、世界の平和を守るのが仕事のヒーローだ。

「どいたどいたぁッ!!」

 平和を守るどころか、地球を半壊させる勢いで怪獣へと駆け寄っていく昴。
 怪獣もその存在に気づいたのか、ぎょろりとした目を昴の方へ向けた。

「やい、怪獣! さっさと地球上から出ていけ! ただでさえあのクソ馬鹿女顔死神に邪魔をされたっていうのに、これ以上イレギュラーな存在に俺の人生を邪魔されてたまるか!!」

「いや、イレギュラーっていうか、お前もイレギュラーじゃね?」

「そうなんだけど! ていうかしゃべれるのかよ!!」

 昴は真面目に怪獣へツッコミを入れた。
 流暢な日本語、というか地球語を披露してくれた怪獣は、さも当然と言わんばかりに、

「だってこの地球を征服する為に覚えたからな! おかしいか!」

 おかしい、とは突っ込まなかった。突っ込めなかった。
 地球を征服する。
 それだけで、昴の正義の心は動いた。地球の平和が脅かされている。立ち上がらないヒーローなんていないと思う。
 確かに椎名昴は不思議な力も持っていない。怪獣サイズのロボットも持っていない。奇怪な存在が出るたびに戦って戦って収入はたったの500円。見た目は普通の地球人に見えるだろう。
 しかし、彼にはテレビの戦隊ヒーローにも負けない力を有していた。
 地球を半壊させるぐらいの怪力。その拳でビル1つを吹き飛ばし、その蹴り1つで大地を揺るがす。雄叫びで窓ガラスを粉々にし、石を投擲すれば大気圏を突破する。そんな誰にも想像がつかない底なしの怪力を、彼は持っていた。

「——そうか、だったら戦わない理由なんてないよな?」

 ゆっくりと息を吐き出して、昴は身構えた。
 敵は100メートルは軽く超し、ビルも握りつぶしてしまいそうな怪獣。対するは身長170前半の小柄な少年。どちらが勝つかなんて火を見るよりも明らかだ。

「地球の平和を脅かす存在は————大嫌いだッ!!」

 そう叫んで、昴はヘッドフォンを首にかけてから地を蹴った。

***** ***** *****

 翔は自殺した男性のマンションから飛んでいた。ほかのマンションをはしごして、その怪獣のもとへたどり着く。
 眼下にはわらわらとまるで蟻の大群のように散って逃げる人間ども——そして、忌まわしきあのヒーロー。

「……いいんですか? 怪獣を倒さないでも」

 追いついてきた出雲が、翔に問いかけた。
 翔はふと出雲を見やり、そして答える。

「どうでもいい。奴が戦っているなら、俺は仕事を遂行するまでだ。面倒くさい事を押しつけられる相手ができてよかったもんだ」

「ですが、もしここで彼があの怪獣に殺されてしまってはどうします? あなたの願望が、叶えられなくなりますね」

 去ろうとした翔は、ふと足を止めた。
 下で戦っているヒーロー、椎名昴は、怪獣相手にかなり苦戦しているようだ。表情は苦しくなさそうだが、いつもはビルを吹っ飛ばすぐらいの能力を発揮して自分に向かってくるのに、今は力をセーブしているのかそれほどの力は見られない。
 聡明な翔は、その理由に気づいた。
 どこへ逃げればいいのか分からない人間が、わんさかいるのだ。怪獣から離れようにも、人間の1歩と怪獣の1歩は偉く違う。そして何より、焦っている為かコロコロと面白いくらいに転んでいるのだ。

「……どうしますか? 彼を助けますか? それともこのまま見過ごしますか?」

 それは、どちらかを捨てるという事。
 昴を見捨てて仕事に戻ると、このまま死人が増えるかもしれない。そして何より、自分が殺してやろうと考えているヒーローを殺せなくなってしまう。奴を殺すのは自分がいい。
 かといって、ここで仕事を捨てて昴を助けると、彼に何を言われるか分からない。「何でお前が来てんだよ」とか「敵を助けて楽しいか。お情けのつもりか」などと言われる可能性も捨てきれない。

「プライドを捨てますか、最終目標を捨てますか。どちらになさいますか」

「テメェ……性格悪いだろ」

「よく言われます」

 クスリ、と笑った出雲を軽く睨みつけ、翔は息をついた。
 さて、これは究極の選択だ。昴を助けるか、仕事に行くか。どちらにするか。
 ————翔はその選択肢を、あえて無視した。
 相棒の赤い鎌を取り出して、その場から駆け出す。昴の方へ、ではない。逃げ惑う人間どもに向かって、翔は走る。

「な、おま——!」

「テメェはそっちの怪獣に集中していやがれ、ポンコツヒーロー!!」

 自分の存在に気づいた昴が何かを反論しようとするが、翔は無視して人間どもに向かって鎌を振り上げた。
 死神である翔には、空間移動術という空間をまたいで別の空間へ行ける術が存在する。そして王子であるゆえに、そこらへんにいる死神とは訳が違うのだ。悠太やメアリー、玲音や悪魔の出雲とは違うのである。
 それは、力の大きさ。空間移動術でもたくさんの空間を開けて遠くへ飛ばすことなんて、翔にとっては造作もない事である。ただし、詠唱が必要になるが。

「————我が名、東翔の名において命ずる。場所をつなげる術を展開、空間を三次元の白鷺市に限定。門を開く」

 トンッ、と地面を鎌で叩くと、逃げ惑う人間どもの進行方向に穴がいくつも開いた。
 その中に気づかず逃げ込んでいく人間どもを見送り、穴を閉じる。そして翔はふと、昴の方を見やった。
 ぽかんとした様子で、翔の行動を見ていた昴は、首を傾げた。

「どうして? 何でこんな事を?」

「フン。関係のない人間に死なれては困るからな。それにテメェは俺が殺すべき存在だ。それ以前にこんな愚鈍そうな存在に負けられては困る。それでもヒーローか? いつも嵐のように俺を襲って来ていた奴は誰だ?」

「カッチーン。何それ、せっかく見方が変わったっていうのに何それ? 俺だって簡単に負ける気しないし。このクソ死神」

「誰がクソ死神だ? せっかくテメェの為に人間どもを逃がしてやったというのに。それでヒーローの示しがつくとでも思っているのか馬鹿ヒーロー」

 2人の間にギスギスした空気が流れ始める。
 その空気を察知した怪獣が、一言。

「痴話喧嘩してないで、さっさと戦ってくれない?」

 その言葉に、2人は反応。ものすごい勢いで睨みつける。

「「誰と誰が痴話喧嘩しているってぇぇぇ?!!!」」

「ヒィ?! 何こいつら、怖い!」

 今までビビらなかった怪獣を睨みでひるませた2人は、同時に絶叫した。

「「お前なんか————大嫌いだぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」