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Re: お前なんか大嫌い!! ( No.211 )
日時: 2017/02/18 06:56
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)

エピローグ



「チェンジでェェェェェェェェェェェェェェェェェエ!!!!」
「それができたら苦労しねえわボケェェェェエエエエ!!!!」

 人の波も落ち着いた昼下がり。
 狭く、閑散としたコンビニの店内に、二つの怒号が響き渡った。
 レジ台を挟んで互いに胸倉を掴みあい、メンチを切り合う二人の少年。片方は茶髪で厳めしいヘッドフォンを装着し、もう片方は黒髪でニット帽をかぶり、銃刀法違反など「何それ食えるの?」とでも言わんばかりに死神が持つような鎌を携えている。
 唾が相手の顔面に飛ぶことも厭わず、ぎゃあぎゃあと口汚く互いに罵る。

「毎回毎回!! 何で!! 俺が!! バイト入ってる時に!! 限ってくるんだお前はァァァァァア!!」
「知るか!! 俺様とて貴様以外の店員に接客してもらった覚えなどないぞ!! 貴様は俺様に恨みでもあるのかァァァ!!」
「あるに決まってんだろボケ死ね今すぐ死ねセメントの中に頭突っ込んで死ねェェェ!!」
「何だと貴様今すぐ豆腐の角に頭をぶつけて死ね地獄へ送ってやるぞォォォ!!」

 どういう原理だろうか、レジ台がみしみしめきめきと嫌な音を奏でていた。レジ台の上に放置されていた板チョコとコンビニスイーツが完全に忘れ去られて、なんだか哀愁が漂っている。早く会計をしてくれ、とでも言っているようだ。
 しかしこの二人はお互いのことを心の底から嫌っているので、もう買い物もそっちのけで喧嘩をしているのだが。どのぐらい嫌っているのかというと、お互いに死んでほしいむしろ殺してやるというぐらい。
 二人が喧嘩している光景はもはや見慣れたものなのか、店長らしき女性はあらあらうふふとぽやんと微笑みながら、商品の品出しを行っていた。なんだか母親のような温かい視線である。

「糖尿病予備軍の死神様は今日も危機感がないお買い物ですなァァァ!!」
「どういう意味だコラァ!! 糖尿病とは何だ一体!!」
「お前本気で言ってんのか!? 生活習慣病の一つも知らねえだと!?」
「病なのか!? 俺様は病だったのか!?!! 死神だから風邪も引かなければ怪我もしないと思っていたのだが、俺様は……クソ、自分で気づけずこのクソヒーローに指摘されたのが悔しい……ッ!!」
「すでにお前は『馬鹿』っていう風邪を引いてんじゃねえのかなァ!!」

 ここでいつもなら殴り合いの大乱闘に入るのだが、今日はそう行かなかった。
 喧嘩をしている死神の背後に行列ができていた、という理由ではない。それが理由だったら、隣のレジで暇そうにしている店長がどうにかしてくれると思う。品出しは終わったのか知らないが、ほわほわと来客を待っていた。
 何故喧嘩が中断されたのかというと。

「か、金を出せェェェェェェェェ!!!!」

 二人の怒号に負けない絶叫が、店内に轟いた。
 レジ台を挟んで睨みあっていた二人の舌戦が、途端にピタリと止まる。ぐりん、と自動ドアへと揃って視線を投げた。
 サングラスにニット帽、おまけに輝くナイフ。引きずってきているのはボストンバックだ。どこからどう見てもコンビニ強盗である。
 店長は悲鳴を上げる訳でもなく、ただニコニコと「いらっしゃいませー」と出迎えていた。応対したのは今まで喧嘩をしていたこの二人だった。
 
「「表出ろ強盗が」」

 茶髪の少年は、棚に置いてあったカラーボールをコンビニ強盗へ向かって投擲する。普通に投げ放たれたカラーボールだが、その速度が凄まじかった。第三宇宙速度で投げ飛ばされたボールは強盗の頬を掠めて外へ飛び出し、大気圏の彼方へ消えた。
 黒髪の少年は、携えていた鎌から炎を生み出した。幻影とかではなく、本物。ごうごうと燃え盛る炎を弾丸のように丸め、同じく強盗へ向かって投擲する。第三宇宙速度とまではいかなかったが、強盗の反対側の頬を掠めた火球は外へ飛び出し、爆発した。
 へなへなとその場に座り込んだ強盗へ向かって茶髪の少年は拳を構え、黒髪の少年は鎌を握りしめた。
 強盗が今まさに二人の少年の手によってぶち殺されようとした次の瞬間のこと。
 ビカッ、とコンビニの外で眩い光が発生した。

「……え、何?」
「む?」

 二人して戦意喪失をしたコンビニ強盗を引きずり出しつつ、店の外へと出る。
 晴れ渡った蒼穹にふわふわと漂う巨大な円盤。漫画でよく見る未確認飛行物体そのものだ。少し感動してしまったのは言うまでもない。

『地球人諸君へ告ぐ。我々は地球を征服しにきた宇宙人である』

 オープン回線で朗々と告げられるその言葉に、円盤を見上げていた二人が反応した。

「ふざけんなよ。そんなのヒーローの俺が黙って見過ごすとでも思ってんのか!!」

 茶髪の少年——ヒーローの椎名昴は、足元に落ちていた小石を拾い上げる。

「人類を征服するのはこの俺様だ。地球を征服するなど許せん!!」

 黒髪の少年——死神の東翔は、身の丈を超すほどの大鎌を掲げた。
 そして二人して、敵である宇宙人に向かって。
 お決まりの台詞を叩きつける。


「「お前なんか————大嫌いだァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアッッッッ!!!!」」






 END