コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.23 )
- 日時: 2012/12/16 22:45
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Mj3lSPuT)
次の日は学校である。
椎名昴は椎葉すみれという偽りの名前で学校に通っている。その為、ウィッグをかぶって化粧も済まし、「ん、んっ」などと声の調子を確かめている。決して喘いでいる訳ではない断じて(←
鞄の中に制服をしわにならないように詰め込み、いつも愛用しているヘッドフォンを首にかけて靴を履く。明るいオレンジ色のスニーカーである。
「んー? 昴、学校?」
「あ、起きてきちゃった? 行ってくるから、そこのニートに『きちんと今度は敵の情報を掴んでおけこの野郎』とドスの利いた声で言ってくれるとありがたいな」
ぼんやり眼で見つめてきた6歳の少女、結城小豆に言う。
小豆はこくりと頷くと、「行ってらっしゃい」と告げた。
昴は小豆ににっこりとした笑みで手を振りかえすと、ドアを開けた。錆びた階段を下りて朝日がさんさんと降り注ぐコンクリートの道を歩む。その途中にいたあのクソ死神の従者である瀬戸悠太に挨拶する事も忘れない。こいつは翔の従者であって翔ではないのだから。
しばらく歩くと小さな公園があった。朝なので誰もいない。辺りに誰もいない事を確認してから、昴は公衆トイレへ全力奪取した。そして男子トイレに飛び込み、バタンと扉を閉じる。
〜数分後〜
「……今日も人いなくてよかった……」
見事に椎葉すみれとなった昴は、額を手の甲で拭う。慣れてきたとはいえ、まだまだ油断はできない。
鞄を両肩に通し、ヘッドフォンを頭につけて歩き出す。たまにすれ違う同じ町内に住まう人々に笑顔であいさつしながら、今日も学校に通うのだった。
が、ここでいつもと違う事が起きてしまったのである。
「おい、そこ」
昴の目の前に降りてきた、黒い影のようなもの。
夜の闇にも負けない黒いコート。そして同色の長い髪を赤い髪紐で結わいている。女みたいな顔をしているのにもかかわらず、背負った赤い鎌でそのイメージが払拭される。
東翔。
昴の1番の天敵であり、あの世界を焦土と化せるぐらいに最強の死神である。
(げぇ……朝から嫌な奴に会った……)
心の中で昴は顔をしかめた。が、表には出さない。何故なら、今は椎葉すみれだからだ。
「えーと……どちら様ですか?」
にっこりとした笑みで問いかける。
翔はじっと昴を見下ろし、そしてため息をついた。殴りたい衝動に駆られる。
「どうやら……怪我をしている様子はないようだな」
「ハ?」
これには昴は地の声を出してしまった。
翔が目をこちらに向けてきたが、神のような速さでそらす。そして咳払いをしてから、再び笑顔を作った。
「何の事かな?」
「いや……昨日、怪獣が現れたから、平気かと思っただけで……。あ、いきなり関係ない奴にそんな事を言われて混乱するよな……」
誰だこの純情少年は、と心の中でツッコミを入れる昴。でも顔には出さない。笑顔笑顔。
しかし、額には青筋が浮かんでいる。これ以上こいつと共にいたら吐き気がすると考え、昴は翔を強行突破する事を心に決めた。
「あ、じゃああたし、学校あるから……心配してくれてありがとう」
えへへ、と笑って翔の横を駆ける。こいつといたくないいたくない。
しかし、ここでアクシデント。何と、この死神、敵である昴の腕を平然と掴んだのだ!
「!!」
混乱と驚きで昴の思考は停止する。今の現状を把握すると、昴が翔の腕を握っている。死神って案外手が冷たいんだなー、てか冷え性? という心の声は当然のように口に出さない。
今すぐ手を振り払いたい衝動に駆られたが、何とか理性で持ちこたえ、反対の拳を握り、丹田に力を込めて翔の方を振り返る。
「……何ですか? あたし、遅刻しちゃいそうなんだけど……」
「……あ、悪い」
パッと手を離し、翔は照れ臭そうに頭を掻く。昴はそんな死神の姿を見て吐き気を催す。
何だ、この男。何だこの死神。何だこの雰囲気は!!
「————じゃあ、気をつけろよ?」
昴には見せない笑顔で、翔はその場から飛び去った。
唖然とした表情で立ち尽くした昴は、はっと我に返り、今が椎葉すみれである事も忘れて、空に向かって絶叫した。
「東翔!!!」
「お前なんか、大嫌いだぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
第1話 ヒーローの定義 エンド!!