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Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.26 )
日時: 2012/12/23 22:50
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Mj3lSPuT)

 その日の神崎学園には、1人の転入生がやってきていた。
 どこの話にも共通するものだが、例外にもれず、主人公のあの2人のもとへやってきていた。
 その転入生の容姿を見て、2人——本名は椎名昴と東翔だが——椎葉すみれと瀬野翔子は唖然とした表情を作った。

「転入生の山本——えーと、あめしたさん?」

「雫です。山本雫」

 目の悪い初老の世界史教師(担任。来年で定年を迎える)に紹介された、全身黒ずくめのその転入生。男子がこの学校の制服として着る学ランの下に黒いパーカーを羽織り、さらにフードを被っている。表情は完ぺきに分からない。だが150前後の身長と小柄な体躯、そして『山本雫』という名前から、おそらくは女子だという事が推測できる。
 すみれはぽかんとした表情のまま、翔子の方へと目をやる。
 翔子も翔子で彼女の異様な容姿を「おかしい」とでも思ったのだろう。唖然としたままの表情をすみれへと向けていた。

「……改めて、山本雫です。よろしく」

 フードの下から垣間見える桜色の唇に笑みを浮かべて、山本雫はお辞儀をした。
 転入生とは、異様な雰囲気を漂わせる奴が大体である。しかし、彼女の『異様』は本当に異様だった。

***** ***** *****

 それからすみれは翔子と下校し、途中で椎名昴となって帰宅する。
 帰宅したらしたで、ピンク色の頭を持つ女子高生と小豆が取っ組み合いの喧嘩をしていた。片や小豆の小さな鼻に指を突っ込んでグーッ! て上げている。片や手にした泥団子を必死に食わそうとしている。
 もう何が何だか分からない状況である。誰か助けて。
 この時ばかりはプライドを放り捨ててあの女顔死神を呼ぼうかと本気で考えたが、理性で抑え込む事に成功する。

「飴ちゃん飴ちゃん、何してるの? 何で小さい女の子をいじめているの? 仮に16歳だとしても相手は見た目6歳児のいたいけな少女ですよ?」

「いやだってさぁ」

 小豆を背負い投げてから、甘党飴は立ち上がった。むぅと唇を尖らせ、昴に反論する。

「あいつが飴ほしいとかいうから。飴は私だけのものだ!!」

「いやお前だけのものでもないから」

 静かにツッコミを入れてから、昴は普段着に着替える。なるべく女子の同居人に見られないように壁に隠れながら、赤いTシャツに黒いパーカーを羽織ってジーンズを穿く。
 それから今もパソコンに向かいっぱなしの同居人——橘理人に目をやってから、その背中に問いかける。

「今日も画面の中の彼女は元気か?」

「今日はそっち関連の仕事はしてない。……おかしな奴が学校に転入してきたらしいな?」

「あぁ、もう分かってんだ」

 当たり前だぜ、と得意げに言いながら、理人は振り返った。切れ長の鳶色の瞳を曲げながら、

「だって、昴は大切な大切な俺の友達だもんな。だからこそ、あいつの事をできるだけ調べておきたかったんだよ」

「……聞かせてもらおうか。お前の調査報告」

「了解。たまげるぜ、こりゃ」

 カタカタとディスプレイに何かを打ち込んでから、画像を出す。
 そこに描かれていたものは、青い髪を持ち深海色の瞳を持った美しい少女の映像だった。エロ画像かと思ったが様子がおかしい。彼女の立っている場所——クレーターのようなものができている。それに、地面は灰色だ。
 空は漆黒の色。銀色の斑点が散りばめられ、夜空が演出されているのが分かる。

「……月?」

「あぁ、山本雫——と言ったか。多分あいつは——」

 ガリッと爪を噛んでから、理人が告げる。

「かぐや姫だ」

***** ***** *****

 瀬野翔子から東翔へと戻って帰宅し、翔はため息をついた。
 同居人であるメアリー・クジョウインに抱きついている男——加堂玲音を見てプライドなどゴミ箱に放り捨ててあのポンコツヒーローに助けを求めに行こうかと考えた。
 が、それを理性で何とか抑える事に成功し、翔は畳の部屋へ足を踏み入れた。

「あ、お帰りなさい翔様。お疲れのようですが」

「今日は7件だったな、自殺者。いい加減に何とかしなきゃいけないが……あのポンコツヒーローのせいでどうにもならん。マインドコントロールが得意な奴を誰か呼んでほしいところだが……その前に悠太、1つ訊いていいか?」

「ハイ、どうぞ」

 エプロン姿プラス鎌の異様な格好をした従者の死神、瀬戸悠太の姿を見てため息をついた翔。
 死神がそれでいいのか、と胸中でつぶやきながら、玲音を指した。

「あれはどうするつもりだ。地獄へ送り返せ」

「そうは言っても翔様。すでにメアリーを気に入っているようだけどね」

「もういいや。来たからには仕事もやらせろよ」

 俺は疲れたというなり、翔は畳の上にごろ寝を決行。王子なのに。
 そこへ出雲が帰宅し、地獄の王子様である翔の姿を見て嘲笑う。

「王子なのにww」

「テメェ殺すぞ」

 翔は出雲を睨みつけ、再びごろ寝。
 出雲はそんな翔の背中へ、

「山本雫の正体をご存知ですか?」

 などと問いかけた。
 正体? と翔はとりあえず答えを返す。

「えぇ。正体です。彼女は少なくとも——人間ではありません」

「じゃあ何だ。神か」

「一言で表すならば宇宙人ですね」

 宇宙人と聞いて、あの変態クリスマス野郎のジャンを思い出した翔。

「彼女は——かぐや姫ですよ」

 その単語を聞いて、同時刻にヒーローと死神はこう答えを返した。


「「んな訳ねぇじゃん」」