コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.28 )
日時: 2013/01/03 22:50
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Mj3lSPuT)

「あぁ、僕にその黒曜石のように美しい瞳を見せてくれ……そうだ。そうだよ……その目だ」

「…………おい」

「その瞳で僕を睨んでくれるのならありがたい。あぁ、あぁ美しいね君は……」

「……おい。少し話を聞け。いつまでのんきな事を言っているつもりだ」

「僕はなんて罪な男なんだ」

「そうだな。罪だなテメェは。罪の塊だよテメェは。いいからさっさと口を閉じろ。俺が質問する事だけに答えろ」

 死神・東翔はさながら裁判でもするかの如く、緊張した面持ちで目の前の男へ語りかけた。
 腰まで届く赤と緑の髪の毛を持つ男——美貌は昔の少女漫画に出てくる貴公子のようなものなのに、口から飛び出てくるのは臭い台詞ばかりである。
 ちなみに、その男の手にはパンツが握られていた。
 男物の。
 もう1度。男物の。リピートアフターミー、男物の。つまりはボクサーパンツ。
 この男の名前はジャンバルヤ・ダイマリン。通称はジャン。一応だが、宇宙人でしかも無職——そして昴のバイト仲間でもある。取ってつけたような設定だって? 知った事か。

「……質問する。どうして俺のパンツを握りしめて喜んでいたこの変態」

 翔は『変な事を答えれば貴様の首を消し飛ばす』とでもいうかのように、ジャンの首筋へ鎌を突きつけた。
 ジャンは笑顔を絶やさない。そのまま彼は続ける。

「空から降ってきたパンツは誰だって天のお恵みだと思いたいだろう?」

「ねぇよ変態」

 マジで殺すかこいつ、と翔は心に決め、椎名昴という名のポンコツヒーロー以外で死神のルールを無視して殺そうとした
 ちなみに言っておく。今この場所は翔の自宅——つまりぼろアパートであり、ジャンは畳の上で正座をさせられているという状況である。
 その時だ。

 ピンポーン

 甲高いチャイムの音が、翔宅に鳴り響く。
 ふと翔は天井を見上げ、自分の家臣に命令した。

「悠太。誰か来た」

「はいはい、今出ますよー」

 悠太が古びた木製のドアを開け、そして「あ、どうもーお世話になってますー」と言ったので、どうせ近所の誰かかと思う翔。
 他の人に炎を見せると家事と思われる事もある。仕方がないので、外の客が帰るまで待つ事にした。
 だが、

「どうもこんばんはー。うちで煮物が余ったんで、おすそ分けに来ましたー」

 あるぇ、何だかこの間延びした声、聞いた事あるなぁ。
 翔はそう思って、ジャンが逃げ出さないように見張っておけとメアリーに命令してから、入口を見やる。
 そこにいたのは、ピンク色のツインテールにぶかぶかのピンク色のセーターを着た女の子だった。ピアスがじゃらじゃらつけられているのが特徴である。
 甘党飴。彼女の名前だ。彼女は、椎名派の1人である。

「あぁ、ありがとうございます。あれ? お宅のボスが見当たらないんだけど、椎名昴はどこへ?」

「んー? 昴ならバイトだってー。休日出勤なんて冗談じゃねぇよとか言いながら出て行ったよー。今日はコンビニのバイトかなー?」

 あはは、と能天気に笑いながら答える飴。
 なるほど。バイトか、などと考える翔。久々に冷やかしに行ってやろうかと思ったが、次の瞬間にその考えは吹っ飛んだ。

「ま、お宅の問題よりかボスがいなくてもいいですけどねー。パンツ盗まれるなんてご愁傷様ですー」

「テメェ!! どこでそんな情報を仕入れてきた!!」

「壁が薄いから怒鳴り声なんか聞こえるんだよー? 聞こえないとでも思ったのー? お隣さんだって事を忘れないようにねー」

 にやにやしながら去ろうとする飴へ、炎の球を投げつけた翔。
 それを抜群の反射神経でよけた飴は、可愛らしくメイクが施された瞳を目いっぱいに細めてガンを飛ばす。

「事実を言っただけじゃないー。どうしてそんなに短気なのかなー? 可愛い顔が台無しだぞー」

「うるせぇ、まずはテメェから殺してやる!! おら死ね! 今すぐ死んで来い!! 地獄へ送ってやるから!」

「あははははははー!! そんだけじゃ私は死なないよー! 一昨日来やがれー!」

 ケタケタと笑いながら戦う飴と、むきになって炎の鎌を振りまくる翔。
 その変な戦いを眺めながら、悠太はメアリーに見張られているジャンに一言。

「翔ちゃん——じゃねぇや、翔様のパンツ返してもらえません? 可哀想だから」

「あぁいいよ。男物のパンツはさすがにいらないからね」

「ボクサーパンツは最近誰でも穿く……女も」

「よく知ってるね、メアリー……まぁいいや」

 その時、
 外の騒音が突然止んだ。
 何事かと思い、悠太とメアリーとジャンがドアを開けて外を見ると、

「「「あ」」」

 そこには意外な人物が立っていた。
 茶色い髪に額に青筋を立てて、主であるはずの翔と仲間であるはずの飴を抱えたこの街のポンコツヒーロー。チャームポイントはヘッドフォン。
 椎名昴。

「よぉ、瀬戸悠太。今度から家の前で騒ぐなとこの馬鹿に伝えてくれ。家に帰れないからな」

 にっこりとした笑顔だったが、どこかすごんだ雰囲気だった。
 悠太は引きつった笑顔で、「あぁ、うん。分かった……」と頷くしかなかった。