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Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.47 )
日時: 2013/02/21 22:42
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
参照: そろそろネタください

 その日。死神の東家には来客があった。
 来客というか、いつもさすらっていたあの少女が帰ってきたというか。来客じゃない、一応東派に所属する少女だ。
 メアリー・クジョウイン。漢字の名前があるのだが、翔は面倒なのでメアリーと呼び捨てにしている。ちなみにそのお供として、加堂玲音がついていたはずだ。
 もっとも、メアリーは玲音の事をお供と思っていないだろう。彼が一方的にメアリーの事が好きなのだ。LIKEじゃないんです、LOVEの方なんです。

「……何だ。お帰りとでも言った方がいいのか」

「……じゃあただいまと返すわ」

 黒い三つ編みを左右に揺らしながら、メアリーが翔へ返した。ゆらゆらと体を揺らしている際は、翔は彼女を敬遠する。
 さもなくば殺されるのだ。メアリーはその人をどう殺すか妄想するのが好きなのだ。
 考えを悟られたのか、メアリーは苦汁をなめたような表情を浮かべてそっぽを向く。翔は諦めたらしい。というか全員諦めてほしい。

「あらー、お帰りなさい翔君! 今日もかんわいいいい!!」

「ふがふが! や、止めろ暁! 暑い暑苦しい!!」

 母性の海に強制的に引きずり込まれた翔は、暁の胸から顔を上げた。こいつはいつもいつも……! と常々思うのだが、まぁ言っても聞かないだろう。
 翔は乱れた髪を整え、部屋の隅に胡坐をかいた。部屋の隅が1番落ち着く。

「やぁねー、翔君。今日も狭いところにいるの? 王子様なのに」

「黙れ。俺は狭いところが好きだ。落ち着く」

 最近のマイブームは狭いところという翔である。狭いところが楽しくて仕方がなくなってしまった翔は、押し入れで寝るようになった。
 悠太は最初は渋っていたが、断固として譲らないでいたら向こうが諦めた。さすが家臣、話が早い。

「……ところで、どうしてまたジャンが宙づりにされているのだ。また何かやらかしたのか?」

 小さな窓の向こうに、1人クリスマスカラー野郎が宙づりにされていた。窓越しから何かをつぶやいているようだが、おそらく「ここから下ろせ」だろう。
 面白いので放っておく事にしておくと、出雲が説明してくれた。

「何でも、メアリーに手を出した為、玲音が怒ってしまったんですよ」

「……あぁ、なるほどな」

 ヤンデレ通り越してもはや変態じゃねぇの? と翔は心の中で思ったが口には出さなかった。おそらく出雲には届いているだろう。
 すると、ひょっこりと窓の隅に見知った顔が現れた。
 茶髪の童顔少年——名を椎名昴。白鷺市のポンコツヒーローである。

「……」

 昴は翔の部屋の中へ目を向けて、それから吊られているジャンを見やった。隣とはベランダがつながっているので、簡単に侵入できる仕組みである。ちなみに壁も薄いので、何が起きているのかは筒抜けだ。
 コンコン、と窓ガラスが2度ほどノックされる。窓ガラスを割って侵入してこないところを見ると、きちんと常識はあるようだ。少なくともこの炎の死神よりか。——あ、やべ。睨まれた。
 出雲ががらりと窓を開けると、昴が怪訝そうな顔で問いかける。

「これ、一体どういう状況? ジャンさんがまた何かやらかしたの? ポチからは『またパンツでも盗まれてんやないのー?』というコメントをもらったんだが」

「残念ながら、今回ばかりは私情です。パンツは盗まれていませんよ。……何か用ですか?」

「いや、うるさいからさ。『私がここに吊られている事によって誰かが悲しむ事がございますよー誰か助けてくださいー』という声が聞こえてならないんだけどさ。気絶させるなら気絶させるでお願いします。うちの小豆ちゃんが起きちゃうでしょ」

 16歳なんだけど、見た目が6歳なんだから! という辛辣なコメントをいただいた。
 翔は盛大に舌打ちをする。こんな奴に注意されるとは、自分も落ちたものだと。
 その舌打ちを聞き逃さなかった昴は、大きく身を仰け反らせて——ペッ! と唾を翔の額に噴きかけた。
 唾すらも第3宇宙速度で吐き出され、ゴシャッ! という音を響かせて翔の眉間に見事命中する。「ぐぉ」と悲鳴を上げてしまったのは言うまでもない。
 ずきずきと痛みなおかつ粘性のある唾を出雲の服で拭ってから、翔は昴へと怒鳴り声を上げた。

「やんのか下等な人間が!! 跪け、この場で処刑してくれる!!」

「やれるものならやってみろよ、この少女容姿! 知ってたか? 髪の毛長い男は将来禿げる可能性が高い!!」

「いつの話だ? おい、いつの話だ?? 1600年と言う長い歴史を歩んできたが、1度も禿げる事はねぇぞ?」

「じゃあお前の脳内は変態なのか? 髪の毛が早く伸びる奴って変態って言われているよな!」

「黙れ。男子たる者性欲に関心を持たずして如何にする? 子孫を残すという本能を解き放て、それから女から変な目で見られるがいい。強姦ヒーローめ!!」

「にゃんだとーっ!! 健全なヒーローはそんな変態になんかなりませんーっ!!」

 ギャーギャーと言い合う中で、未だ吊るされているジャンは一言。


「あの、私はいつ下ろしてもらえるのでしょうか?」


 そのまま放置。お疲れ様でした。