コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.52 )
- 日時: 2013/03/21 22:38
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
男の悲鳴じみた声と、少年2人の怒声が空を劈いた。
最後に校庭へやってきた雫が見たものは、今まさに昨日の銀行強盗をした男へ「大嫌いだ!」と叫んでいたヒーローと死神だった。
頭を抱えたくなった。
「……え、何この状況」
雫はひそかにそう考える。
彼らが戦ってくれるのは非常にありがたい。まったくもってありがたい。これで自分は戦わないで済む。
しかし、彼女にも譲れない一線というものがあったのだ。
それは銃を乱射するという行為。先に説明した通り、銃火器を『心』の道具として見ている雫にとって、神聖な銃火器で人間を物理的に殺す光景を好かないのだ。
だからこそ、彼には個人的に鉄拳制裁を加えてやろうと思ったのだが、今まさに邪魔が入っている。
「……邪魔するなら、うちも嫌いになるわ」
パーカーの中から——「そのサイズは明らかに無理があるだろww」と笑いたくなるような馬鹿でかいライフルを引っ張り出した。それを構えてスコープを覗き、引き金に指をかける。
邪魔する奴なら——巻き込んで、精神を崩壊させてやる。
神聖なものを汚すなら——貫いて、泣かせてみせる。
「青い月の悲鳴!!」
雫は引き金を引いた。
ガァン! という銃声が轟き、青い弾丸が尾を引いて3人へ飛んでいく。
が、ここで思わぬアクシデントが発生した。
「あ、靴ひもやべ」(昴)
「ひっくしょい! ちくしょう!」(翔)
「あ、100円見つけた」(男)
「え」
なんと。雫が撃った弾丸は、3人の頭上を通り抜けてはるか向こうの木を穿ったのである。
本人達は無意識なのであろうが、こちらはかなり狙って撃ったはずなのに。それを靴ひもやらくしゃみやら100円やらでよけられてしまうとは、雫の矜持が許さない。
こうなりゃライフルは止めだ。近距離に適したピストルで行こう。
雫は舌打ちと共に自己決断を下し、長大なライフルをしまった(どうやってかは、秘密)。それから6つシリンダーがついた、雫のお気に入りであるピストルを2丁構える。
「……あいつらまとめて……ッ!」
銃口を向け、目分量で狙いを定めて引き金を引く。ガァンガァン! と立て続けに2発。今度は赤い弾だ。
雫の攻撃に気づいたヒーローと死神と銀行強盗は、そろって回避行動をとった。何だと。
「おいそこ! 何でこっちに向かって撃とうとしているんだよ、馬鹿か!」
「こっちはテメェを助けてやろうという善意行動からだな!」
「そんなの必要ない!!」
雫は鋭い怒声を、ヒーローと死神に浴びせた。
「うちにだって、月の国の姫君としてのプライドがあるの! 銃火器は月の国にとって神聖な『心』の道具——それなのに、人間は物理的に人を殺す道具として扱っている。そんなの許せない!」
彼女の悲鳴じみた台詞に、昴と翔は口をつぐんだ。
プライドなど、彼女だけではなく彼らにもある。それは同じ事だ。宇宙人であるからこそ、変なプライドを持っていても仕方がないのだろう。
「……フン」
そこで、翔がつまらなそうに鼻を鳴らした。
「確かに銃火器で人を殺す事は好かん。というか、人が死ぬ事すら俺は好かない。天寿を全うし、己が天命を果たしたのならばそれはいいが、未練タラタラで自殺されて困るのはこっちだ」
それは、死神である彼だからこそ言える事。
長い年月で銃火器で人が自殺する場面など、いくらでも見た。少なからず、翔と雫も同じような接点を持っているのだろう。
「……あー、まぁ確かにな」
昴も茶色い髪を掻きながら、頷いた。
「俺もヒーローやってきて……銀行強盗で助けられずに撃たれて死んだ奴を何人も見たし。ありゃ許せない、人の命を何だと思っているんだってツッコみたくなるわ」
それは、ヒーローである彼だから言える事。
人を救う仕事をしているヒーローだからこそ、銃火器によって幾人もの人が殺される場面を見てきたのだろう。少なからず、昴と雫も同じような接点を持っている。
この場にいるヒーローと死神と姫君は、同じ接点を持っている。
だからこそ、お互いを嫌う——傾向がある。
「……で、お前らは一体何を考えている訳?」
にやりと笑った昴は、2人へ問いかけた。
「ふん。テメェも同じ事を考えているのだろう? 分かっているぞ」
「お前が話を理解するなんてな、明日は雨か?」
「雷でしょ」
「……地獄に送られたいのか」
くすくすと馬鹿にしたような笑みを浮かべる昴。
低い声を発して2人を睨みつける翔。
呆れたように肩をすくめる雫。
3人は別の能力を持っていた。そして3人とも互いを忌み嫌っていた。
だが、今この時だけは——1つになった。
「と言う訳で、満場一致でお前の処刑が決まりました。かの有名な幸福の安心を推奨する委員会の如く、お前には自由じゃないけど自由処刑を選んでもらいます」
びっしりと、3人で指を差してこう宣言した。
「「「お前の銃殺が決まりました」」」