コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.53 )
- 日時: 2013/03/28 22:49
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
そこから彼らの行動は迅速だった。目にもとまらぬ速さだった。
まず昴が背後に回って男を羽交い絞め。怪力ヒーローの拘束から逃れられる人物はこの世に——まぁいるっちゃいるけど、抜け出せたらただの怪物である。
続いて翔が自分達を傍観している一般人の存在を消す。これから銃殺——というか雫の銃による精神攻撃が始まるのに、目の前で見られていたらもうただの処刑現場にしかならないので、眠らせる事にした。
最後に雫がライフルを構えて男へ向かって撃った。赤い弾丸が尾を引いて男の胸へと吸い込まれ、男は発狂しだす。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああもうダメlkandkcanfkjhkかfjklだんvk;shfeoifnsdjnaskjdfkajhfa」
最後は声にならない悲鳴を上げて、地面へと沈んでいった。
全てが終わり、沈黙が訪れた校庭で、人外3人が同時に言葉を吐いた。
「「「で、この状況は一体誰が片づけるんだ?」」」
***** ***** *****
大事を取って今日は休校となった。
ぞろぞろと帰る中に混じって昴と翔と雫は、校庭の隅っこに体育座りをして下校していく生徒を見送っている。なんていうか、このまま監視しておいた方がいいという事で。
ちなみに銃を振り回した男は、この中で1番常識人である昴が警察に連絡して引き渡した。その際に少しだけ事情聴取をされたが、「銃を振り回せれたから気絶させた。文句があるなら殺す」と言っておいた。
「……まったく、君らと行動しているとろくな事がない気がするよ」
雫が唇を尖らせながら、ぼそりと毒を吐く。
む、と睨みつけてきたのは翔だった。負けじと雫に言い返す。
「では行動しなければいい話だ。そもそも、テメェが銀行強盗に恨まれるような事をするからだろう」
「え、それならそこのポンコツ君にも言ってくれない? 昨日一緒に襲われた仲だよ?」
「え、何で俺にまで矛先を向けてくる訳?」
お前ら2人で言い合いでもしてろよ、と昴は胸中でツッコんだ。
それからなんだかむなしくなってきたので、3人はハァ、とため息をついた。ため息をついてもどうにもならないと思うが。
「もう、一体何なの? 地球に来てからろくな事がない」
「奇遇だな、俺もだ」
「お前らが来てから、俺の生活は一転したけどな」
何だと、と3人で睨みあう。バチバチと火花が散り、一触即発状態になってしまう。
しかし、ここでプッと雫が吹き出した。
「あはははは! まったくさぁ、君らといると本当に飽きないわ。ろくな事がないけど、まぁ楽しいってレベルだし。月の国に帰ったらそれこそろくな事がないからね」
「姫君も大変なこったな」
「そだよ。考えてもみな? 結婚相手が不細工で好きな事ができなくて『お前は女の子なんだから』とか言って趣味じゃないフリフリのドレスを着させられているところ」
でも、案外似合いそうな気もするけどな。昴は心の中でそう思った。思っただけだった。
雫は笑いながら立ち上がると、大きく伸びをする。
「さて、生徒諸君も無事に下校したみたいだし。うちも帰るわ。お疲れ、ヒーローと死神君」
ひらりと手を振った雫は、学校を囲うフェンスを飛び越えてどこかへ去った。
その場に残されたのは、昴と翔——犬猿の仲である2人だった。
気まずい空気が流れる中で、口火を切ったのは昴の方である。
「……お前はさ、地獄だか何だかの王子なんじゃねぇの?」
「何故そのような事を言う?」
翔は即そう切り返した。怒りなどではなく、単に不思議そうな感じだった。
昴は体育座りから胡坐へ姿勢を崩すと、空を見上げながら、
「お前って俺様口調でわがままで瀬戸悠太とかにも上から目線だから」
「殺してやろうか」
不思議に思って損した。こいつはこういう人間だったか、と翔は小さく口の中で吐き捨てる。
昴はふぁ、とのんびりと欠伸をした。
いつも翔の前では敵意をむき出し攻撃してくるが、現在はもう面倒なのかはたまたそういう事が頭にないのか、普通の椎名昴らしく行動できていた。
「どういう目的であれ、俺はお前が大嫌いだし、お前の事は俺がぶっ飛ばすって決めている。これだけは絶対に揺るがないし」
「ふん、分かっているわ。俺もテメェと同じ考えだ」
そーかい、と棒読みで頷いて、昴は立ち上がった。雫と同様大きく伸びをしてから、校門へ足を向ける。
あ、と何かに気づき、昴は翔の方へ振り返った。
翔は何があったと言わんばかりに首を傾げていた。そりゃそうである、天敵がいきなりこちらを振り向いてきたのだから。
「今日は気分がいいから、俺の過去でも話してやるよ」
「いらん」
「まー、そー言わずに」
こいつ、おかしな酒でも飲んだか? と疑い始める翔。ヒーローは一体何がしたい。
昴はへらりと、翔にはあまり見せない笑みを浮かべると、
「俺、10歳以前の記憶がないんだよな。おかしな話だろ。気づいたら白鷺市でヒーローまがいな事をしていたよ」
じゃーな、と昴は翔へ手を振って、その場から去って行った。
その言葉を聞いて、翔は思考をストップさせる。
10歳以前の記憶がない。
今、奴は16か17歳だ。6、7年前の記憶がない——という事になる。人間それぐらいの記憶ならあるはずなのに。
「ま、興味ないがな」
翔はそう言って、空間移動術で家の前まで設定した。
面倒くさいので眠ってしまおう。悠太に何を言われるか分からないが。