コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.59 )
- 日時: 2013/05/02 22:18
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
神崎学園には、年に1度、合宿というものが存在する。
海の宿泊施設で合宿をするという豪華なものだ。1日海で泳ぎ放題、遊び放題な日である。合宿という名の旅行である。
きらきらと輝くエメラルドグリーンの海を目の当たりにして、少女は悲鳴じみた歓声を上げた。
「海ぃぃぃ————————!!!」
茶色の髪の毛が美しいスポーツ系少女・椎葉すみれ。
その隣には大和撫子を体現したかのような文系少女・瀬野翔子が「すみれ、はしゃぎすぎだよ」と笑っていた。
神崎学園2大美少女を見て、男子生徒どもは鼻の下を伸ばす。何故? 彼女たちの水着姿が見れるかもしれないからだ。これだけ美しいのだから、水着姿はきっと美しいと思っているのだろう
が、現実はそんなに甘くはない。
「……でも、海入れないんだよね……」
「……奇遇だね、私も」
しょんぼりとした口調で、すみれと翔子は言う。
彼女たち2人は『月の妖精さんが舞い降りた日』という事で、海に入れないのである。当たり前である。本性は男なのだから。
「……翔子とすみれは……入れないの?」
「そうなのよ。雫ちゃんも分かるでしょ? 『月の妖精さんが舞い降りた日』なんだよ!」
そんな2人を見て雫がぽつりと残念そうな顔をする。
雫に『月の妖精さんが舞い降りた日』を説明したのは、石動鈴だった。彼女なら女の子なのだから分かるだろう。というかこれを見ている女子の皆さんなら分かるだろう。
「……あれはつらい」
鈴に同意するように頷いたのは、従姉である誓だった。
鈴は誓に抱きつき「つらいよねー」と言う。
正直言うと、雫は月からやってきたかぐや姫なのだが……当本人は「そんなのいたっけ……?」とつぶやいていた。
そして一方、全てを聞いていたすみれと翔子——否、昴と翔は同時に胸中で首を傾げた。
((『月の妖精が舞い降りた日』って————何?))
男子には一生分からないイベントである。
***** ***** *****
という訳で、さっそく水遊びである。
たくさんの美男美女が遊んでいる中で、すみれと翔子は日陰で座って青い海を眺めていた。
「翔子ちゃんもかぶっちゃうなんてね」
「……実は、昨日」
「そっかー」
すみれは苦笑いを浮かべて、視線を海に戻す。
穏やかに波が寄せてくる波打ち際で戯れる女子。泳ぎの勝負をする男子。それぞれ本当に楽しそうである。
すみれと翔子も、実際の性別ならば海で遊ぶ事も楽しめただろう。だがしかし、そんな事はできない。
((絶対にすみれ/翔子ちゃんには……自分の姿をバラしちゃダメだ))
好きだからこそ、友達が男だったら嫌だろうと思った配慮からである。
すると、「2人とも」と声がかかった。
そちらの方へ目を向けると、
空が落ちてきた。
否、空に似た髪の色を持つ少女がそこにいた。
すらりと細く長い手足に白い肌。小柄な体が身につけているのは紺色のビキニに長いパレオ。長い青の髪はポニーテールにまとめられている。
そんな絶世の美少女が、少しだけ顔を赤くして立っていた。
「……雫?」
「う、うぅ……あんまり見ないで……恥ずかしい」
そうだった、彼女は視線恐怖症だった。
すみれは「大丈夫だよ、似合っているよ」と満面の笑みで褒める。素直な感想だ。翔子もそれに同意する。
「うぅ、鈴にフード取られた……死にたい」
「大丈夫だってば。可愛いから」
「そうだよ、自信を持って」
それでも泣きじゃくる雫をなだめていると、海の方から悲鳴が聞こえてきた。
何事だろうと思ったら、ばしゃばしゃと生徒が出てくるではないか。そして悲鳴を上げてこちらへ逃げてくる。
海に鮫が泳いでいた。
しかも人食い鮫と来た。
「……あらま」
「大変ですね」
「……ふぇ」
3人のする事は決まっていた。