コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.63 )
- 日時: 2013/05/16 22:05
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
こういう時の為に男子の服を持ってきておいてよかったと、昴は心底思った。
制服から普通の男子の服へと着替えて、ヘッドフォンを装着する。準備は完了した。勢いよく外へ飛び出すと、宿敵と目が合った。
東翔。いつもと同じように黒いコートを着て、赤い鎌を肩に担いでいる。
「お? 何でお前がこんなところにいるんだよ」
「テメェこそ、何故こんな水たまりに遊びに来ている」
会うなりなんなり、物騒な空気が流れ出す。まさに一触即発。さすが白鷺市のポンコツと女顔——違う、ヒーローと死神。
チッと昴は思い切り舌打ちをして、鮫の出た海の方へ駆けていく。何故か翔までついてきた。
「ついてくるなよ!」
後ろを振り向かずに、昴は翔へ怒鳴った。
翔はフンと鼻を鳴らして、
「ふざけるな。テメェと進行方向が同じだからそっちに向かっているだけだ。別について行っている訳じゃない。妄想も大概にしろ」
「あとでぶっ飛ばしてやる。絶対にぶっ飛ばしてやる」
こいつは本当に生意気だと思った。
昴はもう放っておく事にした。その方が賢明だと考えた。こいつに構っているだけ無駄である。
すると、横から青い閃光が飛び出してきた。何かと思えば、神速で駆けていく山本雫だった。その手には機関銃が握られている。
「おま、」
「昴! 鮫っておいしい?!」
出会い頭にそんな事を言われれば、誰だって混乱するだろう。
昴も後ろを走っていた翔も混乱した。何でいきなりおいしいかどうか訊いてくるのだろう? この娘はやはり訳が分からない。
「……ふかひれとかキャビアとかあるから分からないけど……食ったら肌がきれいになるのは間違いないな」
「……君と死神君には必要なさそうだね。肌きれいだし」
「おい、どういう事だ。俺はもう少し鍛えたいと思っているのに、筋肉の方がついてきてくれないのだ。仕事の時も術を使わず徒歩で移動しているというのに……」
「そういう事情はあとで聞いてやるから、今は急ぐぞ。山本雫が鮫の方へ特攻しに行った」
ぐちぐちとブラックオーラ全開で打ちひしがれる翔を引っ叩いて現実世界へ引き戻し、昴はダッシュで雫のもとへ向かった。
さすがビルをぶっ壊せるぐらいのヒーロー。コンクリートの地面をひび割れさせて、砂浜を爆走し、なんと水中に浮いた。そんな事ができるとは思わなかった。
「……あれ?」
本人も分かっていない。何で水上に立っていられるのだろう?
その姿を見た翔と雫は、声をそろえて
「「仙人か」」
「千人もいねえよ、1人だよ!!」
「そっちじゃない、馬鹿か。脳みそまで筋肉なのか。その筋肉を少しは寄越せ」
翔は実に恨めしげに言う。そんな事を言われても、筋肉は与えられる訳がない。
昴の足元にはいつの間にか鮫が泳いでいた。とがった牙をこちらに向け、今にも足に食いついてきそうだ。だが、そんなちゃちな牙で噛みついたところで、
「俺に効く訳ねえだろ!!!」
鮫に向かってかかと落としを叩きつけた。ドンッ!! という鈍い音がして、鮫が沈んでいく。
しかし、鮫は鮫でガッツがあり、怪力ヒーローである昴へと向かっていった。この鮫……できる!!
その時、奇跡——というか悲劇が舞い降りた。
「どけ、この猿」
「あだっ!?」
昴の側頭部に鎌の柄が叩きつけられた。刃じゃなかっただけ喜ばしいのだが、普通の人間ならば頭が吹っ飛ぶ勢いで殴られた。
こんな事をするのは、奴を置いて他はいない。殴られた側頭部をさすりながら、昴は殴ってきたであろう張本人を睨みつけた。
「何をするんだよ、この女顔死神! 泳げなかったら沈んでいたところだぞ!」
海に叩き落とされた為、昴は立ち泳ぎで翔へ抗議する。
翔は鎌を浮かせたまま、しれっとした顔で、
「そんな事になったら安心しろ。地獄へ叩き落としてやる」
「安心できる要素はどこだ! お前も入れ、この馬鹿!」
「うわ、止めろ馬鹿引っ張るなコートを引っ張るな猿! 放せ!!」
ぐいぐいとコートを引っ張る昴に対して、翔は昴を振り払おうと必死だった。
そんな2人へ、鮫は徐々に近づいていく。スピードをつけて、口を大きく開けて————
「「だからお前は大嫌いなんだよ!!」」
爆発が水面上で起きた。
昴が翔の鎌を掴んで翔を蹴り上げた。蹴り上げられた翔は、全力の炎の術を昴へ向かって叩きつけた。そのせいで水は一瞬で水蒸気へと変わって、辺りを白く染める。
視界が悪くなっても、昴の勢いは止まらない。視界の端をよぎった影を掴んで拳を振り上げる。しかし、相手は昴へ向けて鋭い蹴りを放ってきた。
「この場で沈めてドザエモンにしてやる!! 覚悟しろ!!」
掴んだ相手を砂浜に叩きつけてマウントポジションを取る。水蒸気の為に分からないが、とにかくこのなめらかな肌は奴に違いない。
と、ここで聞き覚えのある声がした。
「……おい、テメェ。誰に向かって喧嘩を売ってんだ?」
「……ハァ?」
あれ? 何で後ろに天敵である翔がいるんだ?
ていうか、じゃあマウントポジションを取っている相手は誰だ?
ジャコリと額に向けて銃口が向けられた。いつの間に装備したのか、彼女の手にはピストルが握られていた。
山本雫。かぐや姫。
そして彼女のすべすべの生足を、昴は掴んでいた。
「……あ」
やべえ、これ死んだか。
昴はそう察した。
少女の悲鳴と、昴の謝罪の声が蒼穹へ溶けて消えた。
今回は置いてけぼりにされた翔は、静かに鮫を焼いて神崎学園の生徒達にふるまっていた。