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Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.67 )
日時: 2013/06/20 22:40
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)

 しばらくすみれと雫と共にババ抜きを楽しみ、夕食を摂った後は部屋に備えつけられているシャワーを浴びた。
 まぁ、翔子——否、翔は夜中に用事があるのだが。
 全員が寝静まった事を確認してから、翔子はこっそりと部屋を出た。案外ぐっすりで助かったと心から思っている。好きな少女——すみれには、自分の存在など知ってほしくない。

「————何をしているんですか、翔さん?」

「……出雲か」

 口調を戻し、翔はいつものコートにニット帽の男の姿へと戻る。
 現れたのは神崎学園の養護教諭、杯出雲だ。ナイフ好きな悪魔ともいう。

「テメェこそ、こんな夜遅くに何をしている? 他の教師から睨まれても知らんぞ」

「それはこっちの台詞ですよ。折角好きな人と同室になれたのに、一緒に寝る事すら叶わないんですか」

「嫌味か?」

 ぎろりと出雲を睨みつけ、悪魔でさえも焼き焦がす事ができる炎を鎌にまとわせる翔。死神にふさわしい姿だった。
 出雲はヘラリと笑い、「冗談ですよ」と言う。冗談には聞こえなかったが。
 極小の舌打ちをして鎌をしまい、出雲に背を向けて歩き出す。何も言わずに、出雲は翔についてきた。

「今日の予定は?」

「判決だけです。本社に行かずとも、この場で」

「ならいい。さっさと終わらせて寝る。判決はタダでさえ面倒な仕事だ」

 人目のつかない施設の屋上へ行き、翔は鎌を構える。
 判決とは、回収した魂を天国もしくは地獄へ送る事である。その死神の独断と偏見によるものではなく、善意と悪意の割合で決める。
 魂についての情報は全てリスト化され、個々の死神のもとへ送られるのだ。
 ちなみに言っておくが、翔は日本全土を主に担当しており、自分の手に負えない仕事は部下に任せていたりする。

「……今日の判決は、29件か。意外と多いな」

「これでも49日を終えた魂を集めたんですけどね。ほらほら、早くやりましょうよ」

「チッ」

 今度は大きく舌打ちをした翔は、リストを見ながら鎌を振る。
 およそ1700年、ずっと魂の回収・判決を仕事としてきた。天国か地獄かの判決など、数値を見れば分かるようになった。翔が頭いいのはこの為だ。

「おぉ、手早いですね。眠気が勝っていると早いんですか」

「手が滑った、とか言って炎を投げつけてやろうか?」

 出雲が余計な口出しをしてくるので、1度作業を中断して再び炎をちらつかせる。今度は本気で投げてやろうかと思った。
 ヘラリと笑った出雲は「だから冗談ですって」と言った。本当に投げつけて燃やしてやる、今度はそうしてやる。
 そうして、翔は全て魂の判決を終える。地獄に行く魂もいたが、大半は天国へ送る事となった。最後の魂を夜空へ送った時、ポーンとピアノの音が響く。そして胸に手を当て、首を垂れる。
 俺様・わがまま・傍若無人である翔が首を垂れること自体が珍しい。だが、死神はいつもそうだ。判決を終える時の翔は、いつもそうだ。

 送った魂に、最大の敬意を払う。
 そして、来世の幸せな人生を願う。

「————真面目だな」

「!!」

 翔は目を見開いて、後ろを振り返った。
 屋上には出雲と自分しかいなかったはずなのに。どうして、何で?

 何で、天敵である茶髪の童顔ヒーローがここにいる?

「何でこんなところにいるって顔をしてるんだけど、答えた方がいい? 出てったのが見えたから」

「…………つけてきたのか」

「気になったっていうのもあるけど、何より空が青白く光れば誰だって気になるぜ」

 夜空を指さしながら、ヒーロー・椎名昴は言う。
 そういえば、魂の判決の時はいつも天井が青白く光るような……
 出雲へ怒鳴りつけようと思ったが、出雲はすでにいなかった。あの野郎、逃げやがった!!

「…………で? テメェは何の用だ。喧嘩を売っているようなら買うが」

「喧嘩売ってほしかったか? 素直に褒めただけなんだけど? その、さっきの姿はめちゃくちゃ真面目だなって思ったんだけど」

「当たり前だ。真面目にやらんと、次にこの世に生まれる時に報われない時がある」

「ふーん」

 よく分かんね、と昴はつぶやく。それから屋上のフェンスに腰かけた。彼ならこの高さから落ちても死なないだろう。
 翔は昴がよく分からなかった。何でこんなところにいるのか謎だった。それに、翔を見かけたら見境なく攻撃してくる昴が、今はどうしてこんなに大人しい。

「勘違いするなよ。夜だから体力を消耗したくないだけだ。大体今何時だと思ってやがる。11時だぞ、普通なら寝てるわ」

「だったら俺なんかに構わず寝ればいいだろう。何故俺についてきた」

「気になったっていう理由じゃダメなのか? ——あ、もしかして俺の事を信じてないか。だよな、いつもお前を見かけたら真っ先に襲いにかかるし」

 ケラケラと軽い調子で笑う昴。まぁ、自覚しているならそれはそれでいいかもしれないけど。
 翔はフンと鼻を鳴らして、鎌をしまった。この際、襲われようが襲われまいがどうでもよかった。

「————貴様は、10歳以前の記憶がないと言っていたな?」

「あぁ」

「……記憶が見たいか? 探してみれば、10歳以前の記憶も見つかるだろう」

「興味はないな。記憶なんてすぐに消えてなくなっちゃうものだろう?」

 こんな調子で会話できたのは初めてかもしれない。
 いつも突っかかってくるポンコツヒーローでも人間だ。自分と同じ死神ではないのだ。いつかは死んでしまう、儚い存在。でも、自分と対等に戦える唯一の存在。
 話してみると、案外いい奴なのかもしれない。

「……俺も、10歳以前の記憶は残っていない。ずっと幽閉されていたのだ」

「……ハァ?」

「現代についての知識がないのはそのせいだ。1度外に出れたのはいいが、再び幽閉されて——最近出れたという状況だ」

 幽閉された時の記憶は残っていない。
 死神としての仕事は記憶に残っているものの、それ以外の知識は全くと言っていいほどない。
 従者である悠太や出雲に学んだりしたが、あまり分かっていなかったりする。実際、昴と出会ってなんやかんやで学んでいたような気もする。

「……フン。俺はもう寝る。テメェも寝た方がいい——身長止まるぞ」

「もう遅ぇよ!!」

 第3宇宙速度で小石が飛んできたのを、反射的によけた。
 やはり、このヒーローは気に食わない。