コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.82 )
- 日時: 2013/11/21 22:29
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
家に帰ったら、悠太が目をこすっていた。かすかに泣いているというか、あれマジで泣いてる?
その家の主、東翔は怪訝そうな顔でしくしくと泣いている悠太へと問いかけた。
「一体何があった」
死神たるもの、簡単に泣いてはいけない。いや、動物が死んでしまうような感動ドラマを見て「泣くな」というほど鬼畜な訳ないのだが。
人が死ぬ場面を見て、しくしく泣いてはいけないという規則は存在する。同情するなら魂狩ってこい。その話は置いといて。
悠太は赤く腫れあがった目元をこすりながら、鼻声で告げる。
「小学生に激辛スプレーを顔面にお見舞いされまして。最初は本当に視界が回復しなかったんです……おかげで相手の名前を見る事ができませんでした」
死神は『目』によって、相手の名前とどれほど生きれるかを見極めるのである。それをもとにしてリストなどが作られる。あれ、どこかで説明したっけ?
とにかく、その目が潰されてしまえば相手の名前など分かる訳がない。防犯スプレーを持たせるほどの小学生って、どれだけ過保護なんだと翔は思った。小さなため息をついて、パチンと指を弾く。
すると、キュンッと音がして悠太の瞳に炎が灯った。柔らかなオレンジ色の炎が悠太の瞳を包み込み、治癒していく。
「これでどうだ?」
「ありがとうございます。あー、これで世界がクリアに見える」
それほど見えなかったのか、どれだけ強力なんだ。そりゃ死神だって痛覚は存在するので、よほどの事がなければダメージなど与えられないのだが。
まさか、椎名昴の野郎が攻めてきたか。自分相手ではなくて、従者を攻撃してくるとは卑怯な。
今すぐ文句を言ってやろう。文句を言うぐらいならタダだ。構わない。そう思って腰を上げた時だった。
何の前触れもなく、古い木のドアが叩き開けられた。
バァン!! と鋭い音がして開いたドアの先に、女の子が立っていた。燃えるような赤い髪をツインテールにして、紫色のリボンで結われている。パッチリとした瞳もアメジストのような美しい紫色で、どこからどう見ても美少女だった。
身につけるものは膝上の短いドレス。まるで夜の蝶である。しかし、腰にぶら下がったいかつい軽機関銃が、艶やかな蝶々のイメージをぶち壊した。
東派にいるのならば、誰でも分かる少女である。
「翔様! このリズ、会いにきちゃいました!」
テヘペロ☆ とでも言わんばかりにぺろりと舌を出す少女——リズ・クライシア。翔の許嫁である。
翔は思い切り顔をしかめた。この娘は何かと鬱陶しい。すぐさま帰ってほしい——というか、貴族の娘であるリズが、どうしてこんなぼろぼろのアパートまでくるのだろか。謎である。
誰かの嫌がらせか、というか親父か? などとここにはいない父親を軽く恨む翔である。が、リズの行動は止まらない。ブーツを脱ぎ捨て畳をずかずかと進んでくると、頭を抱えている翔に抱きついた。
「ぎゃぁぁぁぁあ!! 暑苦しい、離れろ!!」
「いーやーでーす。久しぶりなんだから、いちゃいちゃさせてくださいー」
バタバタと暴れて何とかリズを離れさせようとするが、如何せん力が強い。一体どこからそんな力が出ているのか、と問いかけたくなるぐらいだ。
という訳で、こいつを引き剥がすのは諦めた。もう抱きつかせておこう。大丈夫だ、どうせ椎名昴は攻めてこないさ。
悠太は「リズ!! 破廉恥だろ、翔様から離れろよ!」とリズを離そうと努力してくれているが、出雲は「いいぞもっとやれ」とか言いながら携帯でパシャパシャ写真を撮っている。この女好きがぁぁぁ。
ちなみに余談ではあるが、同居人であるメアリーは押し入れの中で寝ていた。
どうか誰もこないでほしい、と切に願っていたのだが、神は翔を裏切った。ドンッ!! と古い木のドアが叩かれた。
「ちょっと、うるさい!! 私がお昼寝しているのよ!! お肌の美容の大敵よ!!」
酷い言いがかりであるが、どこか声が幼い。
1度リズに「来客の対応をしてくるから、離れろ」と言うと、大人しく引き下がった。そこは聞き分けのいい女である——椎葉すみれには劣るが。あいつはいい女すぎる。必ず嫁にする。
ガチャリとドアノブを捻って開けると、下には6歳ぐらいだろうか——そんな子供が、爆薬とマッチ片手に立っていた。
何このボマー少女?
パッと見た翔の素直な感想だった。
「ヒャッハーッ!! 死ね死神ィィィイイイイ!!」
翔は確かにその少女の名前を見た。
名は、結城小豆。そして傍に控えている小学生が落書きしたような三毛猫のぬいぐるみは、ポチ——もう名前長くて面倒だからポチでいいや。
今まさに少女——小豆が爆薬に火をつけようとした。それが部屋に投げ込まれれば、今度こそタダでは済まない。部屋が吹っ飛んでしまう。その前に爆薬を、いやせめてマッチを分捕ろうとしたその時だ。
「小豆ちゃん?」
ガッシリ、と。第3者の手によって、小豆の襟首が掴まれた。
何かと思えば、そこに立っていたのは憎きヒーローの姿・椎名昴。
「何してんの? お隣さんに迷惑をかけたらダメだって言ったよな?」
「迷惑じゃない!! しかるべき報いだ!!」
「ドヤ顔で言われても。てか、」
スン、と昴が鼻を引くつかせる。そして翔を一瞥し、問いかけた。
「なぁ。誰か失明したとかねぇか? 死神だからすぐに回復するだろうが」
「あ? あぁ、悠太が泣いていたが——それに関係あるのか?」
「小豆ちゃん!! また唐辛子30倍スプレーを使ったでしょ!! 止めようって言ったじゃん。相手を失明させたらどうするんだよ?! 死神さんだって生きてる神様だぞ!!」
ガッコンガッコン、と幼い少女を揺らすヒーロー。これはこれでどうかと思うが。
それから昴は珍しく、「うちの子がご迷惑をおかけしました」と謝ってから帰った。
あとから聞いた話なのだが、あの時昴は疲れていたそうだ。何でも、また紅藤の話に付き合っていたとか。