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Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.85 )
日時: 2013/12/12 22:41
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)

「げ、お前またきたのかよ。250円になります」

「客に向かってその態度は何だ。客は神様だとこの世界では教えられているのだろう? 崇め敬え」

「ハイちょうどいただきます。ちゃんとお金の計算ができるようになったんでちゅねー偉いでちゅねー」

「非情にムカつくが今ここで能力をぶっ放したら今後の仕事に響くから止めておく。頑張れ不良店員、せいぜいクビになるなよ」

「ヒヨワ死神が何をほざく」

「どこかひ弱だ、どの辺がひ弱だ」

 250円のプリンが入った袋を腕から下げ、翔はレジカウンターに乗り出した。
 同じようにして硬貨をレジスターへ入れてから、昴は翔へとメンチを切る。どちらも女顔もしくは童顔である為、睨みあってもさほど怖くない。
 チッと申し合わせたように舌打ちをしてから、昴は「お次のお客様ー」と翔の後ろに並んでいた客を呼ぶ。翔の方は店から出て行こうとした時である。
 ふと翔が足を止め、昴へと問いかけた。

「テメェのところにいるあの幼女、なかなかやるな」

「896円になります。——小豆ちゃんの事? 小豆ちゃんは雨の日にうちにやってきて、そのまま保護した形なんだけどね」

 そういえば悠太の目は平気なの? と昴が1000円札を受け取りお釣りを客に渡しながら訊いた。
 無人のレジカウンターによりかかり、「あぁ」とだけ答える翔。一応ポンコツで敵対しているとしても、関係のない奴が傷つくのはいただけないようだ。悠太の事を気にしていたらしい。

「まー、たまに毒薬を飯ン中に盛られたりするけど」

「……毒殺もできんのか」

「死神が本気でかかってきても死なねえんだし、毒殺もできねえだろ」

 客が誰もいなくなり、昴はグッと大きく伸びをする。
 現在の時刻は深夜の1時。外の世界は闇に包まれ、コンビニが煌々と輝く。店内にいるのは昴と翔だけである。

「つか、お前も厄介なものを抱えたよな」

「誰の事だ? 出雲か?」

「いや、あの赤い髪の子。お前のとこは赤い髪の子が多いな。暁さんも確かそうだろ」

「ほう、暁を知っているか。何故だ」

「飴ちゃんと仲がいいらしいから」

 最近、隣の女の子と仲よくなったのー、と間延びした特徴的なしゃべりをする飴に言われ、昴は「ふーん」と興味なさげなトーンで返したのは記憶に新しい。
 翔も翔で、「あぁそう言っていたな」と暁の事を思い出す。そういえば、彼女も隣の住民と仲よくなったのよと言っていた。女だから共通する部分があったのだろう。

「……お前も大変だな。壁薄いから婚約者とイチャイチャしてんの聞こえてきたけど。ご愁傷様」

「テメェに心配されるなんて世も末だな。——毒を盛られる点に関しては同情する」

「…………なんか、ごめん」

「いや、……こっちも悪かった」

 ハァ、と重々しいため息が2人の口から漏れた。

***** ***** *****

 一方そのころ、結城小豆はとある少女との邂逅を果たした。
 燃えるような赤い髪をツインテールにし、紫色のドレスを着た少女。まるで夜の蝶である——どこか浮世離れした少女、リズだ。
 近くに生えている雑草を摘んでこようと思ったら、ちょうど出てきたリズと会ってしまったのだ。昼間の印象が強い2人は、すぐに険悪なムードになってしまう。

「……何よ」

「いーえー。さっさとどこかに行ってくれないかなって思っています、この年増☆」

 地を這うような低い声で問いかけてきたリズに対し、小豆はにっこりとした笑みを浮かべて明るい口調で言い放った。
 リズは死神である。翔の婚約者なのだから、彼女も死神なのは当たり前だ。年増というのも当たり前だ。
 ビキッとリズの額に青筋が浮かぶが、小豆はそれに追い打ちをかける。

「ていうか、服のセンスがなさすぎです。どこのキャバ嬢ですか。ビッチ♪」

「黙って聞いていればいけしゃあしゃあと!! もう怒ったわ!!」

 腰にぶら下げた小さな機関銃を構えると、フルオート射撃で小豆に襲いかかった。
 人間とは思えない素晴らしい反射神経と運動神経を活かして、リズのフルオート射撃をよける小豆。そして作りかけだった蛍光色の緑の液体を、リズのドレスへ向かってぶっかける。
 リズのドレスは、シュゥゥゥゥと煙を上げながら、溶けた。

「!!」

 裾の溶けてしまったリズは、慌てて裾を押さえる。真っ白な太ももがちらちらと見えてしまっていた。
 小豆はにやにやとした表情を浮かべて、様々な色をした液体の入った試験管を構える。栓を口で引き抜いて、吐き捨てる。
 見た目6歳のくせに実年齢は16歳という天才マッドサイエンティスト——結城小豆。
 世界を滅ぼす死神の婚約者、その正体は夜の蝶——リズ・クライシア。
 2人の少女は向かい合い、笑い、嗤い、武器を構え、衝突した。



 昴と翔の仕事の終了時刻が重なる事はたびたびある。今日もそうだった。
 いつものように喧嘩腰で言い合いをし、部屋に帰ろうとした時、2人は真実に気づいた。
 屋根がない。
 屋根がない!!
 もう1度言おう、屋根がないのだ!!!
 昴と翔は互いの顔を見合わせ、そして察した。トタンの屋根は溶けた跡とか、銃か何かで射抜かれた穴がある。

「——小豆!!」

「リズ!!」

 2人の怒号が、真夜中の白鷺市に響き渡ったという。