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Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.86 )
日時: 2013/12/26 22:38
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)

 とりあえず小豆とリズを正座させて、昴と翔と悠太が仁王立ちで2人の前に立つ。
 翔は一応婚約者であり、昴は小豆の保護者代わり、悠太もリズの保護者代わりの立場にいるので怒っているのである。
 だって家に帰ったら家がなかったのだから。何とかメアリーに守ってもらったので大丈夫だった椎名派・東派である。
 ちなみに崩壊したアパートは、翔が責任を持って直した。(死神だけなのだ、こんな修復術を持っているのは)

「喧嘩はいいよ。喧嘩するほど仲がいいって言うしね。でもな、家を壊せなんて誰も言ってないんだよ? おい、クソ死神の婚約者。お前はこの女顔よりも脳みそが足りてねえのか?」

「な、何よ!! 脳みそが足りてないって!!」

 リズが正座から立ち上がり、機関銃を昴へと突きつけた。
 しかし、相手は翔ですらも倒せない(ポンコツ)ヒーロー椎名昴である。がっしりと赤い頭を掴んだと思ったら、そのまま万力の如く締めつける。

「いたいたいたいたいたいたい!! お、女の子にそんな事をするの!? モテないわよ!?」

「神様にモテたところで何の得が? 特に死神。死期でも見逃してもらえんのか?」

「見逃す訳ないだろう。馬鹿か?」

 昴の発言に死神として見逃す事ができなかったのか、翔がすかさずツッコミを入れた。
 怒りはリズに変わって小豆へと移行する。
 小豆は明後日の方向へ視線を投げていたが、昴に無理やり向けられる。

「あーずーきー? 薬を作るのはいいけど、家を壊すなんて事は聞いてないよ? どうするのこれ?」

「怪獣が襲来してきたって事で!!」

「そんな問題で片づけられないからな!」

「でもでも昴!」

 小豆もバッと立ち上がると、リズを指さした。正確には、リズの太ももの辺り。
 フフンと胸を張って、堂々とした口調で言い放つ。

「この年増のドレスの裾を溶かしてやった。どうじゃ!! 美すぃ太ももがチラ見えだぜ!!」

「人んちの服に何してんの。でもありがとうございます、男としての本能からお礼を申し上げます」

 ガッシリと昴と小豆で固い握手を交わした。リズの方は顔を真っ赤にしてドレスの裾を押さえていた。
 悠太と翔は重いため息をついた。やはり人間だったか……。
 とにかく! とビシッと小豆の脳天にチョップを入れて、昴は小豆をリズと向い合せた。

「謝んなさい。こっちにも非があるんだから」

「へーい。ごめんなさい」

 小豆はペコリと謝った。
 しかし、リズはフイと視線をそらして謝ろうともしない。これは困った。
 翔が「リズ、謝れ」と促しても、彼女はぶーと頬を膨らませたまま無言を貫く。これに悠太がキレた。

「リズ! 謝らなきゃダメだろ。少なくとも、お前にも非があるだろ! 向こうは謝ったぞ!」

「私、年増って言われたのよ!? ビッチも! 女としてのプライドが傷ついたわ!!」

 リズは己を怒鳴りつけた悠太へ怒鳴り返す。それがどうも許せなかったらしい。
 悠太が何かを言う前に、翔が悠太を押しのける。そしてリズの頬へ平手をかました。

「しょ、う、」

「確かに向こうにも非があるかもしれない」

 その言葉は、昴に発するような声ではなく。かといって、普段からしゃべるような声ではない。
 翔は誰に対しても、それでこそ昴に対しても、凛とした声で堂々と真っ向からものを言う死神である。相手がどんな奴であれ、絶対に態度を変えない。俺様で傲岸不遜だったとしても、決して相手を見降したりするような奴ではない。
 それなのに。
 今の翔のその声は、冷え冷えとしていて——まるで氷結地獄(コキュートス)のような、そんなもので。

「だが、貴様も死神の力を使って相手を攻撃した事もまた事実。椎名昴ならまだしも、相手は儚い人間だ。下手をしたら、命の終わりがきていないのに、死ぬ事になったぞ」

「…………っ」

「——謝れ」

 そこにいたのは、まぎれもなく死神だった。神としての雰囲気を漂わせた翔がそこに立っていた。
 リズの瞳に、うっすらと涙が浮かぶ。キュッと唇を引き結ぶと、金切り声で怒鳴った。

「馬鹿ぁ!! もう知らない!! みんな大嫌いだ、大嫌いだ!!」

 泣きながら叫んだリズは、フッとその姿を消す。
 悠太が「あ、」と言って消えたリズを追いかけようとしたが、翔がそれを制した。

「灸を据えてやれ。少なからず、彼奴にも非がある」

「で、すが……」

「そのうち帰ってくるだろう」

 部屋に帰ろうとした翔の耳に届いたのは、「あーぁ」という昴の声。
 昴は誰に対しても、それでこそ翔に対しても、まっすぐに見つめるようなヒーローだ。相手が誰であれ、真っ向から立ち向かっていって、分け隔てなく接する奴だ。
 その昴の真っ直ぐな瞳は、翔を映していた。

「ま、確かにこっちにも非があるけどさ?」

 小豆を抱きかかえると、昴は凛とした声で言い放つ。


「女の子を泣かせたらアカンよ」