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Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.87 )
日時: 2014/01/02 22:44
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)

昴「あけーましてー、おめでとうございますー」
翔「今年もどうぞー、よろしくお願いしますー」
昴「痛いな、足を踏むなこの馬鹿」
翔「何をテメェ。そっちこそ、髪を手で押さえつけるな痛い」
昴「だったらもう少し離れろよ」
翔「それができん。体が動かん」
昴「……何お前。足でもしびれたの?」
翔「そんな訳がないだ————イタタタタタタタタタ!! 足を触るな馬鹿者がぁぁぁ!!」
昴「へぇ、足がしびれたんだへぇ……」
翔「な、何だその悪そうな笑みは! 止めろこのポンコツが!!」
昴「熱っ!? 何、ナニィ!? 炎が通り過ぎてったけど!?」

雫「2014年もヒーローと死神をどうかよろしくお願いしますー」


————————本編始まります↓


 リズはシクシクと涙を落としながら、真っ暗な道を歩いていた。
 何で翔に怒られなくてはならないのだろう。少なくとも、あの少女のせいだ。結城小豆と名乗る、あの少女のせいだ。
 しかし、心のどこかで分かっていた。自分も悪いのだ。
 相手の少女は人間だ。死神ではない。自分の流れ弾が当たってしまえば、彼女は死んでしまう。無闇に人を殺す事を、翔は許さない。いや、死神は許してくれない。

 でも、恋焦がれている人に怒鳴られるのは、我慢ならなかった。

「ふぅ……っ、う、く……」

 アメジストの瞳から流れる涙は透明で、リズの後ろに落ちていく。
 彼が——翔が追いかけてきてくれるかもという期待をしていたのだが、彼は追いかけてきてくれていなかった。声さえも聞こえない。完全に嫌われてしまったのだ。
 ダメだ。これでは、ダメだ。彼に嫌われたくない。
 グイ、と乱暴に涙を拭い、リズはくるりと踵を返した。
 翔に謝ろう。そしてあの少女にも謝罪しなくてはならない。

「————え」

 リズの視線の先にいたのは————


***** ***** *****


「テメェに何が分かる。これは俺たちの問題だ。テメェが首を突っ込んでくるな」

 昴の「女を泣かせたらアカン」という言葉を聞いて、翔は昴を睨みつけた。
 翔の言う通りである。昴が出る幕ではない。

「首を突っ込むなって言うか、なんていうか。女の子に優しくしないとモテないってあの子も言ってたじゃん」

「知るか。あれは躾だ」

「へー、躾。確かに躾だけど、婚約者なんでしょ? 婚約破棄されてもいいの?」

「構わん。そもそも、あいつにとっては望んでいない結婚だろう。俺と結婚したところで何になる?」

 恋愛結婚でもないのに、と翔はぼそりとつぶやいた。
 昴にはそう思えなかった。彼女は、確かに翔の事を愛していた。そういう瞳で見ていたのだ。よく分かる。
 だって、殴られた時のあの瞳の揺らぎよう。愛する人に嫌われてしまった、という気持ちが込められていたのかもしれない。昴の見間違いかもしれないが。

「そもそも、俺は地獄を統一する気はない。さらさらない。煉獄に1600年も幽閉した奴らの言う事など、誰が聞いてやるものか」

「それでも、リズちゃんがお前を好きじゃないっていう確証は?」

「……」

「人じゃなくても、相手の気持ちをないがしろにしちゃアカンよ」

 ほら、先に家に入ってな、と小豆を降ろして昴は家に帰るように促した。
 小豆はちらりと昴と翔を交互に見て————緑色の瓶を投げつけた。
 2人の間で爆発した緑色の瓶。昴は後ろに跳び退り、翔は思わず赤い鎌を構えた。どうやら花火のような作用を持つようである。

「小豆、お前なぁ!!」

「知らないもん! 陰気くさい顔をしている奴が悪いんじゃん。ねぇ、ポチ?」

 上から降りてきた小学生が描いたような三毛猫を抱きかかえ、小豆はベーッと舌を出した。

「さっさと迎えに行け! じゃないとポチの攻撃をお見舞いしてやるぞ!」

「やってやるがナー」

「その猫しゃべるのか」

「猫ちゃうデー!! ワテは地底人ヤー!!」

 知らんがな。
 小豆の腕に抱えられたポチは、ドリル型のしっぽをぶんぶん振り回して、己が地底人である事を抗議している。これは雫と同じ類か。どうでもいいが。
 昴は「さっさと入れ!!」と小豆とポチに怒鳴りつけた。2人はしぶしぶ階段を上り始める。

「小さい子にも言われてんじゃねえか。さっさと行ってこいよ、俺も探してやっから」

「……テメェは馬鹿なのか? 敵を手伝うヒーローがいてたまるか」

「女の子を泣かしたクソ野郎には言われたくないなー。ほら、さっさと歩け。謝罪の言葉を考えておけよ」

 バシッと割と本気で翔の頭を引っ叩いた昴。
 翔は叩かれた頭をさすりながら先に行く昴の背中を睨みつけ、その背中に向かってドロップキックを放った。見事に前につんのめった。
 2人の間に火花が散る。

「せっかく人が手伝ってやろうと思ってたのによ! 人の優しさを無下にするなんてどういう教育されてきたんですか!?」

「悪いが俺は親に教育など施されていない。1600年も煉獄に幽閉されてきたからな!!」

「あーそうかい! さびしい人生だな! いやお前神様だったか! この野郎殺す!」

「殺してみろこの馬鹿野郎!!」

 ギャーッ!! と言い合いを始めたその瞬間。
 紺碧の空を引き裂くかのように、悲鳴が響き渡った。
 弾かれたように顔を上げる昴と翔。東派の家から出雲と悠太が飛び出してくる。

「何、何だったんすか?」

「……出雲。涎」

「今まで寝てた」

 薄い唇から垂れた涎をぬぐって、出雲は身なりを正す。密かにこいつ大丈夫かなって思った昴だった。
 その声に、みんなは聞き覚えがあった。
 リズだ。

「————おいおい、あれって何?」

 夜の中を蠢く巨大な影。
 ぎょろりとした赤い瞳。そして耳元まで裂けた口。

「——巨人!?」

 肯定するように、その巨大な影は一声鳴いた。