コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.95 )
- 日時: 2014/03/06 22:39
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Qvi/1zTB)
昴が住んでいるアパートの前に不審者を発見した。
本日はコンビニのバイトで、同じバイトをしている石動誓と共に業務をこなしてきたのだ。
で、そのコンビニのバイトでお客さん(50代ぐらいのおっさん)から聞いた話がこちら。
「——最近、不審者が白鷺市をうろついているらしいねぇ」
昴はその時、「へぇそうなんですか」なんて言って聞き流したが、ヒーローだから不審者を見過ごす訳にはいかない。
しかし問題。昴はヒーローをしているが、その給料は90パーセントが修繕費として消えていく。生活費を稼ぐ為にはバイトをしなくてはならない。
何が言いたいか? パトロールなんてしている暇なぞないのだ。あの頭がアンパンで作られたヒーローじゃあるまいし。しょっちゅうパトロール行ける暇なんてどこにある。金をくれ。
そんな訳で。
ヒーローであるが町の治安は何かどうでもよくなってきているポンコツ(笑)ヒーロー()の椎名昴は、深夜の自宅前にて不審者と遭遇したのだった。
「……えぇ」
バイトでくたくたな時に限ってこんな奴が出てくるの、とか愚痴っても仕方がない。出てくるものは出てくるのだ。出てきたいお年頃なのだ。
相手の不審者は180前後の男っぽい。帽子を被っていてさらに俯いているからか、表情は見えない。ちなみに今の季節は6月であるが、この季節に厚手のロングコートとかおかしい。自殺行為である。
非常に面倒くさい。できれば関わりたくない。可能な限りで逃げ出したい。
だが、ここで無視する訳にはいかないのである。仕方がないので昴は拳を握った。
「覚悟しろよ、不審者。こっちは疲れてんだ。瞬きの間で宇宙旅行にご招待してやるよ」
めんどくせ、とため息交じりに吐き捨て、それでも拳は第3宇宙速度で繰り出された。
ズドォ!! とものすごい轟音を辺りに響かせて、不審者の鳩尾に拳が叩き込まれる。だが、
「て、ごたえ、が」
——ない。
何か、布でも掴んでいるような感じがしたのだ。暖簾に腕押しとはまさにこのことか、と一瞬思った。
同時に、目の前の不審者が跡形もなく消滅してしまう。フッとその姿が消えてしまったのだ。
ポカンと呆気にとられて、その場に立ち尽くす昴。一体何があったのか。不審者を殴ったはずが、手ごたえがなくて、そして消えてしまうなんて。前代未聞である。
「……えぇぇぇぇ……」
あれ何だったの、と昴はポツリとつぶやくのだった。
***** ***** *****
次の日は日曜で、バイトは新聞配達と解体工事の2つ。さっそく早起きをして新聞配達のバイトを済まそうと、昴はいそいそと着替えていた。
早めに起きていた飴には「食パンを焼いて食え」と命令して、スニーカーをつっかける。
「ねー、昴ー」
と、出て行こうとしたその時、飴がもそもそと食パンに砂糖をガンガンかけながら問いかけた。
「なんか肩についてるよー?」
「肩に?」
パッパッと適当に払ってみても、何もついていない。見間違いではないのか。
まあ、もしかしたら落ちているのかもしれないので気にしないことにした。飴に「ありがとう」とお礼を言って、薄い木製のドアを開ける。
施錠をして階段を下りようとしたところで、お隣のドアもギィィィと開いた。毎朝の掃除をしている悠太かと思ったが、相手は家主であり最大の敵であり犬猿の仲である死神・東翔である。
ふぁぁ、とのんきに欠伸をした翔は、昴の存在に気づくとギョッとした表情を浮かべた。ただでさえ大きな瞳をさらに見開き、手にしていた愛用の赤い大鎌を取り落す。
「おい、相棒落としてんぞ」
「お、おぉ……」
生返事である。変な奴だ。
昴は怪訝そうに眉をひそめると、「じゃーなアホタレ」と悪態をついて、バイトへ向かった。
一方、残された東翔の方は、ゆっくりと屈んで赤い鎌を拾う。軽く汚れを払って、昴が走り去った方向をただじっと見つめた。
翔は死神である。人の死期を読んで迎えに行き、天国行きか地獄行きを判別するのである。ちなみにその死神の裁判の対象となっているのは生者だけではなく、死者も入っているのだ。
「あれ? 翔様、一体どうしました?」
きょとんと首を傾げ、いつものように竹箒を装備した悠太が翔に続いて出てきた。日課である掃き掃除を行う為である。
翔は「……おい」と悠太を呼び止めた。
「何か、おかしな気配を感じないか? この辺に、残滓というか」
「残滓ですか? あー、まあ言われてみれば、という感じですかね。何か寒気というか、吐き気というか。気持ち悪い奴がそこら辺にいますかね?」
出雲でも叩き起こして駆除させます? と悠太は翔に問いかけた。
その問いに関して出した答えは、「必要ない」という4文字。原因は分かっている。先ほど走り去った、あのポンコツヒーローだ。
先にも話した通り、死神は死者の裁判も行う。現世に漂い続ける幽霊の裁判も行う。つまり、翔たち死神には強力な霊視能力が備わっているのである。普通の人ではまず見えないというものが見えたりする。
あのポンコツヒーローには霊視能力がないのか、気づいていない様子だった。
肩に、真っ黒な手が乗っていた。
面倒くさいものに取り憑かれたと翔は肩をすくめた。
救ってやる義理はないが、あの幽霊のせいでせっかくの相手を自分の手で殺せなくなってしまうのは惜しい。早めに駆除してやろう。