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Re: 【準・恋愛小説】ラムダ君と有意義な生活 ( No.3 )
日時: 2012/11/05 00:19
名前: 粉雪百合 (ID: gJM7cnIU)

 昔に竹取を読破していた私にとって、この授業はさして面白くなかった
 前後と右(左は壁)で寝息が聞こえる中、私はまたしても白い紙にシャーペンを滑らせた
 自分の描く世界に、ひたすら没頭する
 主人公に、脇役に、ひたすらなりきる
 だからこの時、——

λ「・・・」
     、 、 、 、 、 、 、
 ——後ろのラムダ君が起きたことに、気付かなかったのだ。


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 授業終了のチャイムと共に、私は現実に帰ってくる
 のそのそと周りの寝起きたちも立ち上がる

先「礼、」

生「ありがとうございました」

 そして、教室はがやがやと雑音を立て始める

 まだまだ睡魔が勝る生徒たちは再び机に突っ伏していく
 そんな中、私は気付かれないうちに机の中へと原稿を戻した

λ「おい、」

θ「えっ!?」

 後ろから、小声で彼が話しかけてきた
 一応周りを確認するが、間違いなく私に向かって掛けられた言葉だ

θ「な、なんですか・・・?」

 いつものように笑顔を取り繕うと、私はラムダ君を振り返る

λ「これ、」

 ぴらん、と彼は一枚のプリントを見せた
 そこにあったのは、滑らかな文字で埋め尽くされた古文ではなく、拙いイラストの羅列——つまり私の漫画の原稿であった

θ「・・・ぇえっ!!?」

λ「古文のプリントと、間違えて回したんじゃね?」

 慌てて確認すると、一枚、原稿と古文のプリントが摩り替わっていた

θ「わゎ、ごめんなさい!」

 私は本来渡すべきであった竹取物語をラムダ君に差し出す
 その紙は彼の手に回収され、素直に原稿がもどってくると思いきや・・・

λ「これ、Ynetの『双花螺旋譚』だよな」

 びく、と肩が揺れた
 私は周りの視線を意識しながら、事が露見する前にその爆弾を回収する手立てを考えていたところの、コレである
 Ynetというのは、私がアップした動画サイトの名だ
 前々から、こいつ結構なヲタクだなー とは思っていたが、まさかこんなマイナーな漫画を知っているほどとは・・・
 固まったまま沈黙を貫く私に、ラムダ君は淡々と言葉を流す

λ「まさかシータ嬢が描いてるとは思わなかったなぁ・・・ヤバイな」

θ「?」

 なんか様子が変だ

λ「え?何?今俺、マジな漫画家の前にいるんだろ?同じクラスだろ?つか原稿見ちゃったし!」

θ「あ、あのぅ・・・」

λ「うん?」

θ「原稿、返してください・・・」

 おー、悪い悪い。とラムダ君は妙なテンションのまま爆弾を私に返す
 もう、こうなったらしょうがない

θ「その、ラムダ君」

λ「何?佐藤シータ先生」
  ペンネーム
θ「 その名前 で呼ばないで下さい・・・。その、このこと、内緒にしてもらえませんか?」

λ「どして?」

θ「それ、ここでも描かないと間に合わないんです。騒がれると続きが描けないので・・・」

 きょとんとするラムダ君に私はもっともらしい言い訳で対抗する
 ラムダ君はいつもの少し怖い真面目な顔に戻ると、無言で私を見つめてきた

λ「いいよ。黙っててあげる。」

θ「ホントですか!?」

λ「ただし、条件が二つだけ。」

 二つもあるのかよ。

λ「一つ目は、原稿描いてるところ見せて欲しいっていうお願い。もう一個は——















 敬語をやめること。」




 ・・・・・・・・・え?



θ「それって、どういう・・・?」

 思わず聞き返す
 今の流れで『敬語』?

λ「そ。早い話——


















               俺と友達になってみない?」