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Re: 泣き虫ヴィーナス!−兄弟喧嘩は他所でやれ!!−キャラ募集中! ( No.14 )
日時: 2013/01/01 13:52
名前: 粉雪百合 (ID: wAE.Fy2c)

5話『第一回戦!』



羽「というか本当にどうするつもりだったのだ、充。」

充「何が?」

 呆然としている俺をよそに、白スーツの男、羽羅乃が充に詰め寄る
 しかし、充は彼の方をちらりとも見ずに、コーヒー色のシミを見つめて「落ちるかなぁ・・・」なんて呟いている
 返した返事もなかなか上の空といった感じだ

羽「貴様、ふざけているのか・・・!」

 さすがに羽羅乃もご立腹のよう
 こめかみに青筋を浮かべ、右手を顔の横へと・・・って、なんか掌の上に火の玉みたいなのが・・・!?

美「ひ、ゃあ!?う、羽羅乃っ!?やめてっっ!!」

 そこに金髪少女が飛び込んできて、彼の手を下ろした
 火の玉みたいなのは虚空に消えたけれど、青筋は浮かべたまま、未だ充の方を睨んでいる

充「あんまり怒らないでよ、羽羅乃。美衣名が怯えるじゃないか」

羽「貴様のせいだろうが・・・!!」

 うっすらと微笑さえ浮かべている充と、顔を真っ赤にしている羽羅乃の睨み合いが続く
 と、不意に美衣名の腕を引く者がいた
 赤い髪の真亜豆だ

真「美衣名、こっちにおいで。あんなのの喧嘩に巻き込まれたら、怪我じゃすまないからね」

 すっ、とそのまま自分の後ろへ彼女を誘うと、入れ替わるように前へ進み出た

真「やめろよ、羽羅乃。どうせ充のことだ。戦う前に人数を減らすつもりだったんだろう。オレたちを方々に散らしたのは、集まりにくくするためじゃないのか」

充「いや、ホントにそんなんじゃなくて、落としちゃっただけなんだけど。後は・・・・・・茶目っ気?」

真「・・・・・・ヤってよし。」

美「マーズ!?」

 なんかおかしなことになってきた
 さらに殺気を漂わせる赤髪が増えて、部屋の真ん中で三竦みの状態である
 比較的冷静な目で見ていた巨漢、星度がここで口を開く

星「やめとけ、他人の家だぞ」

 うぉお、この大きいの、今ものすごくいいこと言った!
 こんな当たり前のこといってくれるヤツが、この場にいたのか!!

充「あー、いいよ、ここ審判君の家だから」

大「オイコラ!!よくねぇよ!?ぜんっぜんよくねぇよ!!!あと、更に遠ざかるんじゃない、美衣名!!」

美「ひっ!?」

 もう部屋の端っこまで逃げられてしまった。問題はそこじゃないんだけど
 飄々と言ってのけてくれる充は、星度のほうを見たまま続けて言う

充「でも、星度は意図して落としたよ。だって一番僕に勝っちゃいそうだし」

羽「私たちは眼中に無しか!!」

 今ので完全にキレてしまったらしい
 羽羅乃は充の胸倉をつかむと、ベランダの鉄柵に押し付ける
 にやり、と、充の表情が歪む

充「何?やるの?」

羽「売られた喧嘩、買わぬわけには行かないだろう・・・?」

 みしみしと鉄柵の嫌な音が響く
 美衣名は部屋の隅で声を忘れて立ち尽くしている
 一触即発。
 そんな状況で、一言、ニット帽男が妙案を発した


商「僕ら地球に喧嘩しに来たんだよ?何でちまちま小競り合いしてるの?」


 彼らにとっての、妙案を。

羽「よく言った、商希!」

大「褒めるな!やめろぉおぉおぉおおおお!!!」

 だぁん!!と言う破壊音と共に、ベランダの鉄柵が粉々になった

大「・・・っ!!」

 怒りやら驚きやらで、今度の叫び声は声になっていなかった
 何だ、今、羽羅乃とかいうヤツ、殴った・・・のか?

 おそらく充の顔面を狙って放たれた左ストレートは、充の恐るべき身のこなしによって避けられ、背後の鉄柵にヒットして砕け散った
 一体どういう衝撃が走ったのか、鉄柵は見る影もなく吹き飛び、ベランダそのものもヒビが入ってミシミシと音を立てている。長くはもたないぞ、アレ

美「きゃあ!!危ないっ!!」

 美衣名の叫びに動きを止めると、赤い残像がベランダに向かって伸びていた
 それが真亜豆だと気づくのと、ベランダが破壊されるのはほぼ同時のことだった

美「いやぁぁぁああぁああああ!!」

 しかしそこに3人の姿はない
 慌てて駆け下り、崩れたベランダの下を覗き込む
 だが、そこにも彼らの姿はない
 不意に、隣に海の匂いが現れた

星「・・・上・・・。」

 まさか、と上へ視線を動かすと、案外近い場所に彼らは浮いていた
 まるで空気を踏みしめるかのように、彼らは空に立っていた
 訂正。闘っていた
 赤い髪を翻して身の丈ほどもあるメイスのような巨剣を振り回す真亜豆と、火の玉もどきを自在に操りその赤を追う羽羅乃。さらにその双方の攻撃を鮮やかにかわす充
 っていうか尋常じゃなく暑いんだけど。あの火の玉ミニ太陽か!

星「まずいな・・・。真亜豆が剣を抜いてしまった」

大「どういうことだ?」

星「アイツは一度剣を抜いたら最後、手が付けられないほどの暴れ馬に変貌するんです。ああなったら一度気絶させて剣から手を離さないと戻らない・・・。意識がある間は剣を握り続けるので」

 なんだそりゃ、と隣に目を向けると、彼は背中に背負っていたと思われる長い包みを解いていた
 中から現れたのは無骨な色合いの三叉の矛
 まさしくネプチューンが持つにふさわしい獲物に俺は嫌な予感がする

大「・・・何するつもりか聞いていいか?」

 彼は神様の中でも比較的常識人だと踏んでいるで、敢えて尋ねる
 いや、1人ぐらい話の通じる奴が欲しい
 そんな俺の思いを知ってか知らずか、星度は現れたときから変わらない無表情で応えた

星「これ以上、人に危害が及ばないように止めてきます。方法は荒っぽいが・・・喧嘩をしに来たんだ。奴らもそれぐらい覚悟しているはず」

 一瞬、ほっとして胸を撫で下ろす
 が、ソレが案外普通の答えであることと、また違った不安に気づいて俺の顔は確実に曇った

大「ちょっと待て。お前、それって結局けんk——」

星「行ってきます」

 控えめなくせに俺の声が完全に無視された
 海の戦士は一瞬で俺の横から戦場へと跳んで行った
 すげぇ跳躍力。じゃなくて普通に飛べるのかよお前ら

商「さて、そろそろ場も温まった頃だし、僕も行こうかな。どうする、農土?美味しいモノいっぱい喰えるよ?」

農「じゃあいくー」

 のんきな声が後ろから聞こえたかと思うと、両側から残った神様達がすり抜けていった
 ばらばらと土の付いた野菜が転がる

 はっとして上を見上げると、人数は6人に膨れ上がっていて、攻撃もカオスの域に達している
 真亜豆や星度、充の動きなんかは言葉で追っかけることなどもう不可能で、商希に至っては視界から消えてしまっている。飛び回る太陽と、はじけ跳ぶ水玉。そして・・・

大「・・・あれ、何?」

 奇妙なのは農土の動きだ
 こちらに背を向けているせいで何をしているのかさっぱり分からない。が、飛んできたミニ太陽が消えうせたり、真亜豆の斬撃が届かなかったりと、奇妙この上ない

ガ「食べてるんですよ」

 振り返ると充に置いていかれたらしいガニメデが美衣名に寄り添っていた
 叫び声のわりにさっきから飛び出してこないと思ったらコイツがなだめていたのか

大「食べるって・・・何を?」

ガ「全部です。この世の全てを食べられる、それが農土さんの特技(?)なんです。だから、羽羅乃さんの生み出した天体も、真亜豆さんの斬撃も、僕の体ですらも食べられるんです」

 唖然として彼を見上げると、ガリガリと真亜豆の生み出した火の玉に噛り付いている姿が見えた。うわぁ・・・見なきゃよかった
 ・・・・・・しかし旨そうに喰うな・・・;;

美「・・・めて」

大&ガ「え?」

 突然、美衣名がゆらりと立ち上がった
 さっきまで声を殺して泣いていた・・・ように見えたのだが・・・?
 彼女は俺の横へやってくると、一歩、外に踏み出した

美「・・・いい加減に・・・」 

 ぼそりと零した言葉は、異様な雰囲気を醸し出していた
 その声を聞いた瞬間、がっ、とガニメデが俺の肩をつかんで美衣名の後ろへ弾き飛ばした

大「なにすっ・・・!!」

ガ「伏せてください!!」

 は?と俺は吹き飛ばされて転がった状態で首だけを上げた瞬間、



美「喧嘩やめてぇぇぇぇええぇぇぇえええええぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」



 全ての音が消えた
 全ての色が消えた

 次の瞬間、俺の目に映ったのは、




















 木一本立っていない、地平線だった。