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Re: ドタバタ行進曲【B組編】顔ぼしゅーさん、開催中! ( No.367 )
日時: 2013/01/27 07:10
名前: さくら ◆G87qGs20TY (ID: Cyszi9Sv)
参照: http://uranai.nosv.org/u.php/novel/sakura0919/

八話目

恐る恐る、空き教室の扉に手を伸ばした。
中を確認すると、すでに湯斗は居て教室の教卓に座っていた。

目線の先は、窓の外にあってどんな表情をしているかは分からなかったけど
『来てくれた』事に喜びを感じた。



少ししか開けていなかった扉を開けると、扉チックな『ガラガラ』という音がした。
湯斗はその音に振り返り、私を見た。


「あ、湯斗………」
「え、あ、うん……」


私はつい顔をうつむかせてしまって、湯斗の顔を見る事は出来なかった。
———……湯斗はどんな顔をしているんだろう。

「……」
「……」


嫌な沈黙が続く。
穴があったら逃げたいほど、恥ずかしい。


そういえば芽呂が『穴があったら入りたい』という言葉に対して、
「穴に入ったら一生出れないのに、『入りたい』だなんて。この人も変わってるおー」
と言ってた気がする。
残念な事に、私は芽呂だけには『変わってる』とは言われたくないので穴があったら入りたいと言った自分に「前言撤回、前言撤回」と唱えた。


———……いやいや、今はそんなことを言ってる暇はない。
とにかくチョコをあげなくちゃ……。

でもッ、恥ずかしいよ……。


この時の私は、恥ずかしすぎて頭がどうにかしていたに違いない。
とっさの行動が後から悩みの種となってしまう事になった。

「……はいっ、これ。きょ、今日はバレンタインだし昨日皆で作ったんだっっ。良かったら食べて??」
と言って、さらりと渡してしまったのだ。
しかも『これは義理チョコですよ』と言うかのように軽い台詞と笑顔で。


あーぁ、渡しちゃったよ、と心の中でつぶやいた。


湯斗は私が手渡した、袋に手を伸ばして私を見た。
「……あ、ありがとう。……こ、これって本命? 義理?」


————……来た。こんなにストレートに聞くやつ、他に居るか?
それでも、頭が変な事になっちゃってた私にはどうする事も出来なくて、ただ「義理だよ」と言ってしまった。


———……何やってんだ、私。
これじゃ、『これからも友達としてよろしく』って言ってる様なものじゃない。

途方に暮れた私は、もうそれ以上言葉が出なくて黙り込んでしまった。

「……」
「……」

嫌な沈黙が再び訪れる。

私はどうする事も出来ない。ちろっと湯斗の方を見た。


湯斗は来た時と同じように、窓の外を見ていた。
……何を見てるの、湯斗?

私もつい、窓の外に目線を移して湯斗の目線の先を探す。
校庭が見えた。
……校庭には……クレアを追いかけるB組の皆。

ま、さか……。

クレアが暴走してるんだ。——私は瞬時に闇クレアを思い出した。


「……行くよ、優ちゃん」

湯斗は、私に笑いかけて窓の外を指差した。


その笑顔が、さっきまでの後悔を吹き飛ばしてくれたみたいで、私も大きく頷いた。





二人で走る廊下。誰もいなかった。

徐々に『俺』モードに変身していく、湯斗。


「とりあえず俺がクレアを止めるからさ、優は何かお菓子でも確保っしておいて」
「……分かった。湯斗、気をつけてね」
「うぃ」


クレアハンターらしい会話が走っている間も繰り広げられる。
湯斗の手には、いつもの木刀。

私は、その廊下の突き当たりにあるB組の教室へと曲がった。
湯斗は進行方向を逆に……つまり校庭へと進んだ。



私は、ロッカーにある自分の鞄から例の『超ロングテイスト・ペロペロキャンディー』を取り出した。
もしもの時に、って思って入れておいたのだ。
そのまま、教室の窓から校庭へとショートカット。

目の前では湯斗がクレアを止めて、木刀で前を制していた。


———……よし、今だ。

私は、『超ロングテイスト・ペロペロキャンディー』をクレア側に投げた。



見事にクレアはその異名を持つキャンディーに飛びつき、おとなしくなったとさ。


B組の皆は疲れきっている様子だった。
「さ、さすがクレアハンター……」とか言いながら荒い息を整えている。

(念のために説明しておきますが、海野君はこのとき稽古(部活)で不在だった)


ふと瑠璃愛と目線をあわせる。
『どうだったの?』
『それがさぁ、』
目で会話しつつ、肩をすくめる。瑠璃愛も同じように肩をすくめた。



「優、」
ふと湯斗が私の名前を呼んだ。まだ『俺』バージョンのまんまだ。

「あのチョコ、ほんとに『義理チョコ』なの?」


———……うわぁ、皆の前で言いましたね湯斗さん……。

後ろにいた瑠璃愛が私の背中を押す、
分かりましたよ、言いますよ。


「……ほ、ほんとは『本命』……。わ、私、湯斗の事が好きです」

下を向いてしまったけど、さっきの後悔は完全に吹っ飛んだ。
それでも湯斗の顔は直視出来ない。

……目の前の湯斗はどんな顔をしているんだろう。



「俺も、好き」



————……後ろの野次馬達(B組の皆)の歓声が大きくなった瞬間だった。