コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ミカエル図書館の館長は中二病でした。 ( No.10 )
- 日時: 2013/04/04 15:20
- 名前: 香里ー奈 (ID: 5cmk8ohj)
「はぁっ……おい、どこまで走るんだ!?」
「知らない! 逃げる!」
———どこまでも走り続けそうだな……
ちらりと後ろを振り返るが、もう瑠佐奈の言う「スライム」は
見えない。
「おい、瑠佐奈……。もうスライムいなくなったぞ」
「え!? 嘘!!」
瑠佐奈もこちらを振り返る。
どぎまぎしているかのような表情だが、やがて溜息とともに安堵した
顔つきになった。
「はぁ……死ぬかと思った」
「死ぬかと思った、って……もしあれがスライムだとしても、死ぬ訳
じゃないだろ」
「……貴様、何を言っている?」
なぜか瑠佐奈の口調が先ほどまでとか思い切り違った。
「……へ?」
「スライムというのはなぁ、たとえ弱くても魔王の配下なんだよ!!
冷酷な魔王がスライムを変な薬で強化してしまう可能性もありえる
だろう!? そんなことも知らないお前は、勇者失格だ!!」
———いつから俺が勇者になったんだよ……。
「……で、さっきのはなんなんだよ」
「……知らない」
またいつもの瑠佐奈に戻り、俯いてしまった。
何度も「なんなんだよあいつ……」と口角を上ながらも呟いている。
「……」
「……」
沈黙が続く。
拓磨は耐えられなくなり、口を開いた。
「なあ、瑠佐奈。こんな所でこんな質問もなんだが……お前、なんで
図書館館長になったんだ?」
またも沈黙。
しかし瑠佐奈は俯きながらも、ぽつりぽつりと語りだした。
「実はこの図書館、すっごい昔から建ってるの。私のお祖母ちゃんの時代くらいね。お祖母ちゃん、昔言ってた。この図書館には何ともわからないおかしな生物がいるって。少なくとも、その頃の私は微塵も信じてなかった。その頃から私はサンタなんは信じてなかったもん。でもね、小学四年生ぐらいの時に、そのお祖母ちゃんの言葉を思い出したの。ちょっと興味が沸いてきたから、行ってみよっかなって……」
瑠佐奈の話は、まだまだ続く。
拓磨は黙って、その話をずっと聞いていた。
「そして、何もないこの図書館に足を踏み入れた。その瞬間は今でも覚えてる。……凄い鮮明なんだ。なんかこう、ぶわっとくるものを感じて……。……それからは覚えてない。覚えてるのは、血の広がる荒れた荒野と、そこに倒れる血まみれで倒れる私にそっくりなドレスの女の人だけ。……多分、夢なんだろうけど」
滑稽な話に聞こえるが、瑠佐奈の話すことには真実味があった。
「そんなことがあってから、私はここで図書館を開くことにした。……その夢もたびたび見るけど、最近はあんまり見なくなった。まあ見ても血なまぐさくなる光景だし、思い出したくはないんだけどね!」
ふふん、と鼻を鳴らす瑠佐奈。
少しだけ、ほんの少しだけだが、強がっているように見えた。
拓磨は心の奥底でずっと思っていたことを、言うことにした。普段は恥ずかしく言えないが、今なら言える気がする。
「あ、あのさぁ、瑠佐奈」
「? 何?」
「何か困ったことがあるなら、俺に言ってくれていいんだぞ?」
瑠佐奈の顔に、疑問符が浮かぶ。
拓磨の中では、これは一種の告白なのだが、それに気づかない瑠佐奈はきょとんとした顔で首を傾げていた。
「えっと……それってどういう……」
「あああああ! 今はわからなくていい! そのうち教えるから!」
またも首を傾げる。
正直言っていいかわからないが、その動作も可愛い。
「まあいいや。どうせあのスライムももういないだろうし、帰ろ」
「あ、ああ……そうだな」
戸惑いながらも、拓磨は瑠佐奈の後に続いた。