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Re: 浅葱の夢見し ( No.102 )
日時: 2013/04/06 13:34
名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)

*「っていうか、早くここから出て行ってください!

  屋敷のこんな奥の方にいるのを忍びの方々に見つかったら

  何されるかわかりませんよ!」

「おれに手を出すような無礼者はここにはおらぬだろう。

 心配などいらぬ」

そう言うと、シキは藤の花に手を伸ばした。

ぱきっ、という乾いた音をたてて、それを手折るとシキは廊下に立っているカエデを振り返った。

「ここに来い」

また命令口調だ。

「な、何であなたのいうことなんか・・・」

「いいから来い」

何故かその声に逆らうことができなくて、カエデはしぶしぶ廊下から

中庭に降りた。

こうして同じ高さのところに立つと、シキがすらりと背が高いのがよくわかる。

カエデがシキの隣に来るなり、彼はいきなり彼女の手をつかんだ。

「な、何するんですか!」

「手を握っただけだ。

 少し警戒心が足りないのではないのか?

 おれも男だ。

 さて・・・何をすると思う?」

けだるげな空気が霧散し、シキの唇は深く笑みの形に刻まれた。

シキの冷たくて長い指が深く絡んでくる。

「かっ、からかわないでください!」

「何もからかってなどいない。

 おれは、本気でこうしたいと思っているだけだ」

そう言うと、シキはカエデの方に手を伸ばしてきた。

思わずぎゅっと目をつぶる。

しゃら

自分の髪が風もないのに揺れた。

そっと目を開けるとシキの手が離れていくところだった。

「きれいだ。

 よく、似合っておる」

「・・・え?」

耳の上あたりの髪に、何かが絡まっているような感じがする。

目の端に薄紫が映った。

「これは・・・?」

「このおれを感心させた褒美だ。

 くれてやる」

「く、くれてやるって・・・」

カエデはぐっとこぶしを握りしめた。

「これ、四鬼ノ宮の花ですよ!

 なにがくれてやるですかなにが!」

「関係ない。

 想像通り、美しい」

藤の花が、だろうか。

それとも———

顔が熱くなる。

それと同時に、急に手を握られているのが恥ずかしくなった。

「あの!

 手!

 手を放してください!」

「いやだと言ったら、どうする?」

「はあ!?

 何言って———って、きゃっ」

握られた手を強く引っ張られて、カエデはシキの胸に

倒れこんだ。

シキは、カエデの首元のあたりに顔をうずめた。

「ああ、いい匂いがする」

「ちょ、なななななにしてるんですか!!」

「いっそ、このままわが屋敷にさらって帰ろうか。

 そなたが傍にいれば、おれも全く退屈しない」

そういって笑うと、シキはさらに顔を近づけてきた。