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Re: 浅葱の夢見し ( No.11 )
日時: 2013/03/31 21:52
名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)

*本当はもっと早く


 気づけたはずだった。


 でも


 離れたくなくて


 認めたくなくて





*彼女はゆるやかに目を開けた。

視界に映るのは簡素な造りの天井。

体を覆う柔らかい布団を感じる。

「姫様!

 目を覚まされたのですか!」

頭だけを動かして見れば、目を潤ませている

乳母の姿があった。

そのうるんだ眼の下にくっきりとした隈がある。

「・・・私は・・・?」

出した声が思ったよりもかすれていて、少し驚きなが


小さくせきこんだ。

「ああ、もう!

 無理しちゃだめですよ!

 姫様は三日三晩寝込んでいたんですから!!」

「・・・そんなに・・・?」

たしかに頭はぼんやりするし、体もだるい。

乳母はやれやれというように首を振った。

「もう、本当に!

 三日前に布でぐるぐる巻きになった姫様を見つけた
時は、

 心の臓が止まるかと思いましたよ!

 でも、あれだけの布で体が温まっていなかったら、

 お命が危のうございましたよ!!」

「・・・・・・」

自分が布でぐるぐる巻きになって、芋虫のような姿
で、

境内に転がっている様子を想像してみた。

乳母の話を聞いていると、その状態のカエデを見てし
まったのは、

彼女だけのようだ。

父やホムラに見つかっていたら、どうなっていたこと
か。

「ねえ、私の看病ずっとしていてくれていたんでしょ
う?

 その、ありがとう」

「とんでもございません!

 ただ姫様に何事もなくてなによりでございます」

何事もなかったわけではないのだが・・・。

カエデは緩く息をついた。

「もう、大丈夫よ。

 三日も寝ていたし、さすがに起きないと・・・」

そう言って手をついて起きようとしたが、

体にうまく力が入らず、少しふらついた。

「姫様!

 まだ病み上がりなんですから、ご無理はいけませ
ん!」

「関係ないわ。

 これ以上寝ていても体がなまるだけだし」

「もう少し安静に——」

「・・・姉上なら」

カエデは視線を落とした。

「ハルナ様ならこの程度のことで、寝込んだりなどし
ないわ」

乳母の顔がこわばった。

肩をおさえる手が離れる。

カエデは無言で布団から抜け出すと、手早くいつもの
千早と袴を身にまとった。

「父上のところに行ってくる。

 ・・・しばらく神楽などに顔を出せなかった

 詫びをしないといけないから」

乳母はただ静かに頭を下げた。

「いってらっしゃいませ」

遠ざかる小さな足音を聞きながら、彼女はため息をつ
いた。

カエデが自分自身をハルナと比べるようなことを言い
出し始めたのは、

カエデが正式に分家の巫女になってからだ。

カエデには彼女なりの良いところがあるのに、

どうして姉と比べるのだろうか。

いや、答えはわかっている。

乳母は本家と分家の身分制度を少し恨んだ。