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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.117 )
- 日時: 2013/04/11 23:00
- 名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)
*「わざわざ、ごめんなさい」
「とんでもありません。
これが私の役目でございます。
では、ごゆっくりなさってください」
女官は荷物を置くと、一礼し、もと来た道を歩き始めた。
レイヤと休みに行った川をとても気に入ったので、今日、もう一度来てみたのだ。
さすがに、レイヤの目の前で沐浴をするわけにはいかないので、
こうして日を改めて来たのだ。
一人で行くのは危ないと、親切な女官がカエデの荷物を抱えてついてきてくれ、
さらには人があまり来ないような川の上流の方に案内してくれたのだ。
小さくなっていく彼女の背中に感謝の念を送ってから、手早く袴と千早を脱ぎ、
流れに足をひたした。
その冷たさに身を震わせながらも、さらに歩を進める。
このあたりの流れは速くないし、深さにだけ気を配っていれば
問題はないだろう。
カエデは手に持っていた布を流れにひたし、それで体をふき始めた。
頬を撫でる風の感触が心地よくて、誘われるように空を見上げる。
木々の隙間から、羽衣のような雲と、薄い水色の空が見えた。
今、ハルナやホムラもこうして同じ空を見上げているのだろうか。
「・・・会いたいな」
会ってはいけない。
———会いたくない。
様々な感情が絡まりあっていく。
カエデは気持ちを振り払うように、のろのろと川からあがった。
もう、ありえないのだ。
ハルナともホムラとも、もう生きて会うことはないだろう。
彼らは過去の人だ。
思い出してはいけない。
もう一度会えるなんて、ありえない。
許されない。
絶対に。
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