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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.118 )
- 日時: 2013/04/12 23:42
- 名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)
*ガサッ
突然近くの茂みが揺れ、我に返った。
そして、目の前にあるのは鼻。
しかも美しい楕円形の鼻。
「・・・ふえ?」
想定外すぎる出来事に、口からひどく間抜けな声が出た。
ぷひぷひという音を立てて、鼻は動いている。
カエデは豚の鼻の形をしたそれを見つめて考えた。
ここは、人がめったに来ないような深い森だ。
だから、普通の人間がこんなところまで豚を連れて散歩なんてありえない。
・・・ということは。
カエデは仕方なく視線を上げた。
こげ茶の豚と目が合う。
いや、豚ではない。
「・・・いのしし?」
そうだ、というように鼻がぷひっと揺れた。
カエデは視線だけで愛刀の位置を確認した。
それは、手の届く距離にはない。
カエデは初めてレイヤの言うことを聞いておけばよかったと後悔した。
もう一度揺れ動く鼻を見つめる。
野生のいのししから逃げるすべなど知らない。
言霊を使えば逃げることなどたやすい。
———言霊は本家を守るときだけ使え
父の声がよみがえり、とっさに唇をかみしめ、声が出ないようにした。
たとえここで死のうとも言霊だけは使ってはならない。
ゆらりと鼻が揺れた。
気のせいかと思ったが、だんだんと横揺れが大きくなってくる。
いよいよ突進してくるのかと体をかたくしたとき、いのししが倒れた。
ばたんっという音とともに落ちる静寂。
見れば腰のあたりに一本の矢が刺さっている。
いのししは一本の矢ごときで倒れたりなどしない。
おそらくは毒矢なのだろう。
(いったい誰が・・・)
「おー!
やったじゃん!!」
聞こえてきた声にカエデは固まった。
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