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Re: 浅葱の夢見し ( No.139 )
日時: 2013/04/17 00:15
名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)

*「理由はわからない。

  まあ、宮司の一族に生まれて霊力がなかったんだ。

  たまにはそういう例外的な人間も生まれてくるだろう」

「は、はあ・・・」

「ねえ、君だったら、どうする?」

「何をです?」

ヒレンが不思議な色をした瞳をスッと細めた。

その時の仕草がヒタギとよく似ている。

「君が、もしヒタギと同じ立場としたら・・・どうする?」

(もし、霊力を一切持たずに生まれてきたら・・・?)

カエデにはまったく想像できない。

ハルナには劣るとはいえ、現時点で影水月でハルナの次に霊力が多いのはカエデだ。

霊力的な面に関して困ったことはない。

「・・・わかりません。

 けど・・・」

カエデは正直な気持ちを吐き出すために、視線をそらした。

「・・・私は、耐えられないと思います」

当主の弟のくせに霊力を一切持たぬゆえ冷たい目で見られる日々。

たぐいまれなる霊力をその身に宿し人々に尊敬と憧れの目で見られる兄。

まったく相手にされない自分。

今想像してみたのは、ヒタギが体験したもののほんの僅かなものだろう。

それでも、自分は耐えられない。

カエデははっきりと悟った。

「ヒタギはね、落ち込むのでもなく自暴自棄になるのでもなく、

 忍びの集団を作ったんだ」

「え?」

ヒレンの表情が楽しそうなものになった。

「術や、祈祷ができないのならば、それをするものを力で守るってね。

 ここにはヒタギのように霊力を持たぬ者も多い。

 そういう者達の居場所と生きがいをあいつは作ってくれた」

「レイヤとトクマもですか?」

「ああ。

 二人とも私の遠い親族だけど、ヒタギと同じく全く霊力がない。

 そのかわり、あいつらに剣と弓で勝てる者なんてこの四鬼ノ宮にはいない。

 そうやって、ヒタギは影ながら私を支えてくれている。

 ・・・唯一無二のなくてはならない存在。

 私の大切な弟だよ」

「そう、だったんですか・・・」

ヒタギはただの色気垂れ流し男ではなかった。

ヒレンの笑みを見て、カエデの脳裏にハルナの顔が浮かんで消えた。

自分たち姉妹もそういう関係でありたいと、カエデは強く思った。




———会いたいわ、姉上。ホムラ兄様。

—————————ヒタギ。

早く、帰ってきてよ。