コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.18 )
- 日時: 2013/03/31 22:17
- 名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)
*〜半刻後〜
「ふっ」
ヒタギが唇の端だけで笑う。
カエデはなんとかのどの奥から声を絞り出した。
「・・・何かおかしいことでも・・・?」
ひどくむかむかした気分だ。
ヒタギ特有のこの笑みには人をイラつかせる成分が含
まれているようだ。
下から睨みつけても、思わず殴りたくなるほど秀麗な
顔がこちらを向いている。
「いや、なに。
こうして飾り立てると、巫女姫もさらに美しいもの
だな。
影水月に金銀の巫女ありとはこのことか」
「・・・・・・そう」
甘ったるい口説き文句はさらりと受け流す。
まともに受け取ったら頭がおかしくなりそうだから
だ。
そう思っていると、いつの間にかヒタギがすぐ近くに
いた。
そのしなやかですばやい動きについていけず、あごを
とられて
上を向かされても、とっさには反応できなかった。
ヒタギの青い瞳がらんらんと輝いているのが見える。
「だが、口紅の色はいただけないな」
「・・・・・・はい?」
ヒタギが笑みを深くした。
ますます獲物を狙う肉食獣のような瞳の輝きが増す。
「桜のつぼみには、毒々しい紅は似合わない」
濃密な気配がさらに近づく。
鼻をくすぐる風雅な香の匂い。
顔が、唇が、信じられないほど近い。
唇に温かい息がかかり、それが触れ合うすんでのとこ
ろで
カエデはなんとか顔をそらした。
ヒタギは彼女の間に顔をうずめ、小さく笑った。
「せっかくおれ好みの色にしてやろうと思ったのに」
「だっだだだっだ、誰もあなた好みにしろとか、言っ
てないから!!」
どうも耳元でささやかれると弱いらしい。
背筋をぞくぞくしたものが走る。
後方に控えている女官たちに助けを求めるように視線
を送ったが、
何故か一斉にそらされた。
恥じらうように横を向く彼女たちの頬は、ぽっと色ず
いている。
(何なのその ”やだ、ヒタギ様ってば大胆・・・ぽ
っ”みたいな反応は!?)
とりあえず、このおかしすぎる体勢と状況をなんとか
しなくてはいけない。
女官たちは———止めてくれそうにないので自分でな
んとかしなくてはならない。
カエデは腕に力を込め、彼を突き飛ばすようにして距
離を取った。
だというのに、目の前の男は、怒るどころかますます
笑みを深くした。
「そうもつっぱねられると、無理にでも迫りたくな
る」
「いや、あの、迫る前にあなたの兄上様に・・・」
「氷滾だ」
不機嫌そうな声が遮った。
実際に、彼の整った眉と眉の間にしわが刻まれてい
る。
「ヒタギと呼べ。
それ以外は許さん」
「・・・・・・」
さっきまでの上機嫌はどこにいったのだ。
それに、奴隷巫女に名を呼び捨てで呼ばせる権利を与
えて
一体何がしたいのだろう。
「・・・ヒタギ様の——」
「ヒタギだ」
どこかすねたような言い方。
・・・子供か。
この男は。