コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.205 )
- 日時: 2013/05/05 21:04
- 名前: いろはうた (ID: a4Z8mItP)
*カエデは弓と、矢を二本とった。
それを腰のあたりでかまえ、的に向かって一礼する。
すっすっと二歩前に進み、もう半歩左足を踏み出すと、体の向きを変え、
右足をひきつけその後一気に開く。
そして弓に矢をつがえ、的を見る。
———弓はな、当てようと思って当てるんじゃねえ。
弓を頭上にかかげてかまえると、懐かしい声が頭の中でこだまする。
———型どおり、きれいに何も考えずに矢を放つ。
顔が歪むのを、唇をかみしめることでなんとかやりすごした。
それをごまかすように、弦を引き絞る。
———そうすりゃ、おもしれえぐらいに矢が当たるってもんだ。
…ホムラ兄様。
矢先が震え、うまく狙いが的に合わない。
心の揺れはこんなにもたやすく弓に伝わるものなのか。
雑念が入る。
やはり、弓術は自分に向いていない、とカエデは力なく笑った。
「もう少し右腕をひねると良い。
あと、左肩が上がっておる」
けだるげで甘い声。
体がこわばる。
長い指がカエデの右手首をつかみ、わずかに内側にひねらせた。
声を上げる間もなく今度は左肩を大きな手が上から優しく押さえつけた。
「肩甲骨から弓を押せ」
耳元でささやきかけられ、背中をぞわりと何かが走った。
「違う。
そうではない。
ここから押せ」
「ひやあっ!?」
指がどこか甘さを含んで肩甲骨をなぞった。
背後で彼——シキが小さく笑う。
「そなた…この程度で音を上げるか?
くくっ
…感じやすいことよ。
矢先が揺れておる」
「な、なにを!?」
「左手、下押しをかけろ」
大きな手がじかに触れてきて、包み込むようにカエデの左手に添えられた。
それだけで鼓動がうるさくなり頬があつくなる。
「てっ!?
てっ!?」
「手?
こちらも支えろと?」
否定する前に、長い指が右手首に触れ、共に弦を引いてくれる。
すると、あれほど揺れていた矢先が、うそのようにぴたりと定まった。
「もう少し狙いを上げろ。
…よし。
—————放て」
ひゅっ
がっ
目では追えぬ速度で矢が宙を走り、的の端の方に当たり、鈍い音をたてた。
カエデは微妙な顔で弓をおろした。
あれでは当たったのか外れたのかわからない。