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Re: 浅葱の夢見し ( No.21 )
日時: 2013/03/31 22:18
名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)

*「・・・兄上様に会いに行くんじゃないの?」

ヒタギは一瞬動きを止めた後、ああ、とつぶやいた。

「そういえばそうだったな。

 おまえがあまりにも美しすぎて忘れていた」

ヒタギの言葉があらゆる意味で衝撃的すぎて、

カエデのあごは、自動的にはずれそうになった。

「だが、兄上との面会の前に、その飾りなどは全て外
せ。

 ものすごく、必要ない。

 すこぶる、必要ない。

 激しく、必要ない」

「・・・・・・そんなに似合わない?」

三度も必要ないと言われるとさすがに傷つく。

きらめく青玉を贅沢に使った首飾りと髪飾り。

影水月にいたころは、このような贅沢な物はハルナぐ
らいしか

使ってはいけなかったので、実はひそかに喜んでいた
のだ。

だが、しょせん、自分は分家の巫女。

このような贅沢できらびやかなものにつりあわないの
だろう。

そう思い、それを外そうとした。

「違う。

 そうではない」

即座にヒタギは否定した。

どういうことだろう、とカエデはヒタギを見た。

「あまりにも似合っていて愛らしいから、外せと言っ
ている。

 そのままでも十分男を惹きつけているのに、これ以


 他の男を誘惑されてたまるか」

「なっ、ななな、な・・・!」

体中の熱が一気に顔に集まる。

口をぱくぱく動かしても意味のない声しか出ない。

青い瞳が、ひたとカエデを見つめた。

「おまえが、着飾るのはおれの腕の中にいるときだけ
でいい。

 それと、おれ以外の男にそのような顔をくれぐれも
みせるな。

 どんな男であっても一瞬で———」

「わっ、わーわーわーっ!!

 もういいからっ!

 もうよくわかったから!」

真っ赤な顔で叫ぶと、ヒタギは不服そうな表情になっ
た。

「なにがいいんだ。

 おれはまだ、言いたいことの半分も・・・」

「もう十分!!

 早く行こう!?

 兄上様もきっと待っていらっしゃるから!」

最後の方は半泣きになってしまった。

もうこれ以上は無理だ。

このままだと精神がおかしくなってしまう。

勘違いをしてしまいそうだ。

———何を?

ヒタギの何かをこらえるような声で、カエデははっと
我に返った。

「・・・だが」

ずずいっと芸術品のように整った顔が迫ってきた。

「おれはまだ名前を呼んでもらっていない。

 ・・・おまえに」

カエデは舌打ちしそうになった。

せっかく話をいい感じでそらしたというのに。

その近すぎる距離をなんとかしようと、じりじりと後
退しても、

ヒタギはしなやかな動きでつめてくる。

ついに壁際まで追い詰められ、ヒタギはカエデを閉じ
込めるようにして、

壁に両腕をついた。

「あ、あの・・・!」

「なんだ」

「皆さんが見て———」

「それがどうした」

さらりと返された言葉に、カエデは、外れかけたあご


あわてて手で支えた。

「それとも、二人きりになりたいという遠回しな提案
か、それは?」

ぞくりとするほど妖艶な笑みを向けられ、鼓動が跳ね
上がった。

カエデは真っ赤な顔で首をぶんぶんと横に振った。

「まあいい。

 早くおれの名を呼べ。

 おまえの声でおれの名を呼んでほしい」

深い青の瞳。

真しか伝えないその色に本気で勘違いしてしまいそう
になる。

———何を?

いけない。

変なことばかり考えている。