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Re: 浅葱の夢見し ( No.211 )
日時: 2013/05/07 16:18
名前: いろはうた (ID: a4Z8mItP)

*「筋はよい。

  軌道は外れていない。

  あとは手の内(左手の弓の握り方)の問題」

「は、はあ……」

じゃなくて!!

カエデは急いで弓と残りの矢をもとの場所に戻した。

「なんで、またいらしたんですか!?

 しかもこんな時間にこんな場所で!?」

カエデは勢い良く振り返った。

だが、思っていたよりもシキの顔が近かったので大きくのけぞった。

その反応が面白いのかまた顔が近づく。

「二射目はよいのか?」

「もういいです!

 それよりも質問に答えてください!」

すると、けだるげな笑みに、一筋の色気がさした。

「そなた、故意に問うておるのか?

 このおれから、どのような言ノ葉を欲する?」

「だから、質問に———」

「そなたに会いに来た」

「…へ?」

思いがけない言葉に、口からまぬけな声が出た。

何故か、その壮絶な色気を宿す瞳に冗談やからかいの色を見いだせない。

「幾夜もそなたの夢を見た。

 だが現(うつつ)に戻ればそなたはおれのそばにおらぬ。

 まこと理不尽なこと」

「いや、当たり前な気が…ん」

カエデの言葉を遮るように冷たい指が彼女の唇の上に置かれた。

そのままゆっくりと唇をまさぐるようにそれは触れてくる。

口づけのように甘い指と動き。

その感触に鼓動がどくりと動く。

「かほどなまでにそなたに会いたいと、声をききたいと思うてここまで来た。

 それをわからぬと?

 理解できぬと?」

シキが整った片眉を上げた。

指が名残惜しげに離れる。

「その、なんでかなって…」

シキは第三とはいえ皇子は皇子だ。

四鬼ノ宮までたやすく来ていいような身分ではないし、

散歩がてらに来られるような距離でもない。

「本当に?」

たった一度会ったきりの巫女に会いたいがために、こうしてはるばるやって来てくれたのだろうか。