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Re: 浅葱の夢見し ( No.212 )
日時: 2013/05/11 22:18
名前: いろはうた (ID: a4Z8mItP)

*「このおれの言ノ葉、信ずることができぬと?」

「そういうわけじゃないんですけど…」

紫の瞳に対するカエデの言葉はどうして弱々しくなってしまう。

「どうすれば伝わる?

 我が言ノ葉で足りぬのならば、その身に直接教えるのも悪くな———」

「全力で辞退させていただきます!

 言葉だけ受け取っておきます!!」

顔を真っ赤にして手をじたばたさせても、シキは不愉快そうな表情を見せない。

むしろ笑みを深くして近づいてくる。

「そなた…かわいいこと」

「っな…!?」

自分の感情を制御できない。

口を意味もなく開閉した。

声が出ない。

シキの言葉の端々ににじむ腰砕けになりそうな色気で、力が抜けて

その場にへたりこんでしまいそうになる。

「かっ、かしこみ申し上げます!!」

とりあえずこの垂れ流しの色気をなんとかしなくてはなるまい。

場の空気を変えなければ。

「ええとどのようにして御君は———」

「シキだ」

眉間にしわ。

カエデは顔をひきつらせた。

このやりとりに似たことをしたことがある。

それで、学んだのは素直に従った方がいい、ということだ。

「…し、シキ様は、どうやって中まで入ってきたのですか…?」

武の宮とうたわれる四鬼ノ宮。

警備や守りは堅いはず。

「少々術を用いた。

 深くはきいてくれるな」

「……」

正しくない方法でここにいらっしゃるようだ。

辺りに落ちる静寂。

笑みを消したシキを見上げる。

彼の言葉をそのまま受け取ると、ただ純粋にカエデに会いに来ただけとなる。

四鬼ノ宮の者には知らせなくていいのだろうか。

カエデは一瞬迷ったがやめた。

紫の瞳からは悪意は感じられない。

害はなさないだろう。

そう思った自分にカエデは驚いた。

いつからこんな風に、四鬼ノ宮を案じるようになっていたのだろう。

ここは敵方の神社であるはずなのに。