コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.22 )
- 日時: 2013/03/31 22:19
- 名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)
*カエデは青い目を見ないようにするために、ヒタギの形の良い唇を見つめた。
(もし、私がこの人のことを呼び捨てで呼んだら・・・)
奴隷巫女の分際でなんと恐れ多いことを・・・!と周
囲の人々の怒りを買い、
カエデの四鬼ノ宮で地位はさらに低くなるに違いな
い。
別にカエデは、自分自身がどうなってもかまわないの
だが、
今はハルナの身代わり。
ハルナの誇り高き名をこれ以上地に落としたくはな
い。
(どうすれば・・・!?)
「何故おれの口元ばかりを見ているんだ?」
至近距離で実に楽しげにヒタギが笑う。
「それほどまでに熱く見つめられると、
口づけてほしいのかと思ってしまうのだが」
「く、っく、くちっ!?」
自分の顔がこれ以上ないほど赤くなっているのは、十
分自覚している。
ようやく気付いた。
きっと、ヒタギはカエデをからかって、その反応を見
て楽しんでいるのだ。
女慣れしている男のやりそうなことだ。
あいにく、カエデは男性に対しての免疫があまりない
ので、
どうしても過剰反応してしまう。
悔しい。
だが、今すぐなんとかしないと、またよからぬことを
されそうだ。
事実、ヒタギの両目はらんらんと輝いたままだ。
カエデが唇をかみしめると同時に、長い指が伸びてき
て、
カエデのあごをとり、視線を合わせてきた。
「そろそろおれの理性ももたない。
早く、呼んでくれ」
「・・・・・・は?」
今何か変な単語がさらりと放たれた気がする。
「いやだから、今から呼ぼうと…」
目を泳がせるとヒタギが言った。
「巫女姫」
がらりと変わった声の調子にカエデは瞳を揺らした。
何故だろう。
ヒタギにそう呼ばれると、胸がざわざわする。
「おれの名を呼ぶのなら、おれの目を見て、呼べ」
見たくない。
あなたの瞳は真しかうつさないから、
私が今、どんなに揺らいでいるか、伝わってしまう。
けれども。
「・・・巫女姫」
その水のような声に導かれて、カエデは視線を上げ
た。
夜空の色をした瞳が、まっすぐに青の瞳を見つめる。
「・・・ひ・・・たぎ」
緊張で声がかすれ、震える。
ヒタギが目を細めた。
彼の息がカエデの額を撫でる。
「・・・もう一度、呼んでくれ」
わずかにかすれた呟きを聞いて、カエデはもう一度唇
を開いた。
「ひたぎ」
「・・・もう一度だ」
深き意味を奥に秘めし、言霊を宿す名。
「氷滾」
あ。
と、そう思った。
うっすらと左の頬が熱を帯びている。
わずかにではあるが言霊の力を使ってしまった。
左頬にうかびあがっているであろう印を見られないう
ちに
素早く手で隠した。
色が変わっている自分の瞳を見られないように、
彼の青い瞳から目をそらした。
そしてすぐに戻した。
頬の熱が、早くひいたのだ。
「いいものだな」
「え?」
ヒタギは心底嬉しそうに微笑んでいた。
その笑みに、不覚にもどきりとしてしまう。
「やはり、いいものだ。
おまえに名を呼んでもらうのは」
そう言うと、いきなりヒタギはカエデを横抱きにし
た。
突然の動作に、抵抗することも忘れた。
「ちょっ、な、なにするの!?」
「おまえに名を呼んでもらえたから、
今すぐ兄上に会いに行くだけだ。
ずいぶん時間をくったからな」
「誰のせいよ!?誰の!?」
カエデを軽々と抱えたまますたすたと部屋を出るヒタ
ギに、
頬を染めたままの女官たちが頭を下げて見送った。