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Re: 浅葱の夢見し ( No.225 )
日時: 2013/05/25 16:18
名前: いろはうた (ID: a4Z8mItP)

*いろはにほへと ちりぬるを


わかよたれそ つねならむ


うゐのおくやま けふこえて


あさきゆめみし ゑひもせす




細く笛の音が宙に漂う。

かろやかに、かろやかに、風のように、舞う。

左袖がなびく。

長く濃い灰色の髪が、夢のように舞広がった。

傾きつつある日差しを浴びて、まばゆく、銀の糸のようにそれは輝く。

右足首にくくりつけた鈴が、動くたびに涼しげな音をたてる。

誇り高く空を見上げれば、浮かぶ雲は茜色に染まりつつある。


ああ


かなしや


この世界、かなしや


汝、青く、しなやかでありし者


汝の手により、冷たき月はかたをも変える


汝の悲しみの瞳は、この世のかなしきことわりをあらわすものなり


たがために


たがために汝の涙は捧げられるか




色はにほへど 散りぬるを


我が世たれぞ 常ならむ


有為の奥山  今日越えて


浅き夢見じ  酔ひもせず



鈴の音がりゃん、とその場に小さく響き、カエデは静かに動きを止める。

薄紅に染められた風が、わずかに余韻を残して消えた。

しん、とその場がしずまりかえる。

音がこの世から消えてしまったかのような錯覚。

おそるおそる舞を見ていてくれているはずの村人たちの方を、

顔を上げて見てみた。

ぽかん、としていた。

皆、一様に、あんぐりと口を開けて、目を見開き、微動だにしなかった。

この前、四鬼ノ宮で披露した時と同じ反応にカエデは戸惑った。

おろおろと視線を動かしても、誰も何も言ってくれない。