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Re: 浅葱の夢見し ( No.226 )
日時: 2013/05/25 23:07
名前: いろはうた (ID: a4Z8mItP)

*ぱちぱちと乾いた音が鳴った。

少し離れたところに立っているトクマが手を打ち鳴らしたのだ。

「おまえ、やっぱすごいじゃん!!」

「…え?」

「そうだよな、みんな!!」

そう呼びかけられた村人たちは、一拍のちに大きな歓声を上げた。

「な、なにが、なんなの…?」

舞を舞っただけでこれほど喜ばれると、戸惑ってしまう。

カエデにとって初めてのことだった。

影水月にいたころ、この程度、巫女としてできて当たり前だったのだ。

思わず口がゆるんでしまう。

ただの舞でもあろうと、少しでも村人たちの心に響いたなら、

神にも祈りが届くような気がした。

「ありがとうな」

近寄ってきたトクマに笑顔で首を振った。

お礼を言うのは自分の方だ。

自分にもできることがあると、気づかせてくれた。

そう思い、口を開こうとしたとき、感じた。

冷たい気配。

肌を刺す殺気のような霊力。

思わずびくりと体が震える。

「お?

 どうした?」

トクマの言葉が耳をすり抜ける。

カエデは激しい視線を感じた方を見てみた。

だが、あたりは人ごみがすごすぎてよくわからない。

「おい?」

カエデは、はっと我に返った。

あわてて首を横に振った。

今はもう、霊力は感じない。

トクマは何も感じなかったのだろうかと思い、カエデはそのあとすぐに理解した。

トクマは感じなかったのではない。

感じられないのだ。

霊力を一切持たないから。

さっきのは気のせいだろうと心の中で自分に首を振った。

そうでもしないと、体がひとりでに震えてしまいそうになる。

それほどまでに先ほどの気配は恐ろしかった。