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Re: 浅葱の夢見し ( No.236 )
日時: 2013/06/07 23:14
名前: いろはうた (ID: VHEhwa99)

*「…おい」

低い声が降りかかり、カエデは反射的に顔を上げた。

感情の読み取りにくい深い緑の瞳と視線がぶつかり、あわてて目をそらした。

ヒタギの親戚だという彼の瞳はどこかヒタギのと似ている。

その心の奥底まで見抜くような視線に、カエデは長くは耐えられない。

「…何があった?」

「な、なにも」

後ろめたさのあまり、落ち着きなく視線をさまよわせる。

迷惑をかけてはならない。

心配などさせてはいけない。

そう強く自分に言い聞かせる。

沈黙が場に落ちる。

この気まずい空気を振り払うように、カエデは周囲に視線を走らせた。

辺りは人ごみでいっぱいだ。

もう完全に先ほどの冷たい霊力と気配は感じられない。

カエデがほっと息を吐くのと同時に、レイヤもため息をついた。

「…トクマ。

 飴細工を一つ、どこの屋台のでもいいから買ってきてくれ」

「はあ!?

 おまえ、甘いもの買うとき、絶対人に譲らないのに急になんだよ!?」

…使い走りにされているよりも、トクマはそちらの方に驚いたらしい。

「…おれのではない。

 こいつのだ。

 …本来ならばおれがこの目で厳選した選りすぐりの飴を買うべきだが、

たまにはお前に任せる」

「なんかすっげーひっかかるんだけど…。

 しかも、顔がものすごく嫌そうだな、おい。

 …まあいいや。

 んじゃ、行ってくる」

そう言うなり、トクマは数秒で人ごみの中に紛れて消えてしまった。

再び落ちる沈黙。

「…それで」

とびきり冷え切った声にカエデは体をこわばらせた。

カエデがあとずさる前にあごに指がかかり、無理やり上を向かされ

レイヤに視線を合わされる。

(…こ、怖っ!!!)

レイヤはうっすらと微笑を口元に貼り付けていた。

通常時はおそろしく感情の読み取りにくい青年なので、その微笑みは不気味すぎた。

しかも、目は全く笑っていない。