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Re: 浅葱の夢見し ( No.244 )
日時: 2013/06/09 20:54
名前: いろはうた (ID: VHEhwa99)

*カエデはつり橋の近くの茂みに身を潜ませていた。

少し遠い所からごうごうと激流が流れ、落ちていく音が聞こえる。

それは、地上から川までの距離が相当あり、落ちたらただですまないことと、

流れがおそろしく速いことを物語っていた。

そして、カエデはそれを聞き続けながらひたすら二人の帰りを待っていた。

もうすぐ半刻になってしまう。

とてもじゃないが、一人でつり橋なんて渡れそうにない。

がざっと目の前の草が揺れた。

考え事をするとどうも気配に疎くなる。

あわてて上を見上げると、安堵の表情をあらわにしたレイヤが立っていた。

「…あ」

かすれた声が漏れ、胸に奇妙な感情が広がる。

寂しい、という言葉が一番しっくりくるだろうか。

これではまるで、レイヤ以外の誰かに見つけてほしかったみたいだ。

「…すまない。

 遅くなった。

 …大事ないか?」

「う、うん。

 大丈夫だから…」

後ろめたい気持ちで立ち上がりながら、レイヤの全身にざっと目を走らせる。

特に大きな外傷はなさそうだ。

だが聞いておくにこしたことはない。

「レイヤこそ、大丈夫?」

「…おれのことはどうでもいい。

 おまえの身の方が大事だ」

そっけなく返答されてしまったが、そこにレイヤの優しさがにじみ出ている気がして

カエデは表情をゆるめた。

「トクマは?」

「…追っ手をまいた後、一応探してはみたが、見つからなかった。

 案ずるな。

 どうせそのうち四鬼ノ宮に戻ってくる」

「そ、そうなの…?」

「…かまうな。

 大丈夫だ。

 とりあえず、戻るぞ」

「う、うん」

手を引かれて歩き出そうとした時、カエデの足がひとりでに止まった。

怪訝そうにレイヤが振り返る。

「…どうした?」

「ふ…伏せて」

「…おい?

 何が———」

「いいから!」

動こうとしないレイヤにじれて、なかば無理やり体当たりするようにして

彼を地面に押し倒す。

ひゅっと自分たちの頭上を何かが掠めとんでいったのを感じた。