コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.25 )
- 日時: 2013/03/31 22:22
- 名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)
*手首をつかむ手に痛みを感じるほど、力がこもっている。
そして、その表情には何も浮かんでいない。
———怖いくらいに。
「ね、ねえ!」
「なんだ」
一応返事が返ってきたことには、とりあえず安心し
た。
だが、いつもより口調がそっけない。
「ど、・・・どうして、怒っているの・・・?」
おそるおそるたずねると、一瞬の間があった。
二人が廊下の角を曲がる足音だけがその場に響く。
やがて、ヒタギはぼそっと口を開いた。
「・・・別に、怒ってなどいない」
彼の唇がきれいなへの字になっているのが、薄暗い中
でも見えた。
確かに、これは怒っているというよりは・・・
(すねている・・・?)
「じゃあ・・・」
突然ヒタギの猛然と動いていた足がぴたりと止まっ
た。
足の長さが違うので半分走るようについて行っていた
カエデは勢いあまってつんのめりそうになる。
「じゃあなんだ。
おまえは、兄上と二人っきりで食事をとりたいの
か?」
何故かひやりとしている目に見おろされ、あわてて首
をふるふると横に振った。
そのようなこと、奴隷巫女の分際で、恐れ多すぎる。
まずだいだい、どうして話にヒレンがでてくるのだろ
うか。
(あ・・・でも・・・もし、ヒレン様と食事をご一緒
させてもらったら・・・)
ヒレンは優しそうな人だし、四鬼ノ宮について教えて
くれるかもしれない。
こちらを見つめる青い瞳に、もう一度首を横に振っ
た。
「やっぱり、お食事ご一緒させてほし———」
「何故だ」
氷点下以下の声が遮った。
一瞬身をすくませると、カエデは困惑して、ヒタギの
顔を見上げた。
やはり、四鬼の宮の当主と食事をするには、相応の理
由が
必要なのだろうか。
「その・・・いろいろとお話を聞きたいなっ
て・・・」
「話なら、おれがいくらでもしてやる。
これで兄上と食事をする必要などないな」
「え、あの・・・」
「よしないな。
これからは、食事はおれと共にとれ。
いや、おれ以外のやつと、食事など許さん!!」
激しい口調で言い放ったヒタギをカエデは呆然と見つ
めた。
その彼女の手首を握りなおすと、先ほどよりも、やや
ゆっくり
ヒタギは歩き始めた。
言いたいことを言えて、一人ですっきりしたようだ。
握る力もやさしい。
カエデが痛みを感じないように、だけど振りほどけな
いほどの力で
包み込むように握ってくる。
決めつけられたことに文句を言おうとしたが、
言葉はのどもとで消えてしまった。
この男は、女の口説き方だけでなく、黙らせ方まで知
っているらしい。
一瞬とも、永遠とも思える間、廊下を歩くと、ようや
くもとの
カエデが眠っていた部屋にたどり着いた。
部屋まで送ってくれたことに、礼を言おうとカエデは
足を止めた。
だが、なぜかヒタギはふすまを開けると、カエデの手
を握ったまま、
部屋の中にずかずか入って行く。
すでに敷かれていた布団はない。