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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.29 )
- 日時: 2013/03/31 22:24
- 名前: いろはうた (ID: vpptpcF/)
*(何をきこう・・・?)
こうして考えてみると、四鬼ノ宮のことも知りたいが、
なによりも自分を連れ去ったこの青年についてほとん
ど何も知らないことに気づく。
不意に、強く思った。
彼のことを知りたいと。
よくわからない衝動。
それに動かされ、カエデは口を動かした。
「あのね、ヒタギは・・・ヒレン様になりたいって思
ったことはないの?」
言った後に少し後悔した。
四鬼ノ宮のことについて聞かず、何を聞いているのだ
ろう。
でも、知りたいと思った。
なりたいけどなれない。
そういう思いを、苦しみを、味わったことがあるだろ
うか。
「ない」
すぱんと返事が返ってきた。
「え?」
「兄上は兄上、おれはおれだ。
おれにしかできないこともある。
兄上を影より支えるのがおれの役目」
あきらめたような感じは一切なく、ただ淡々とした口
調だった。
ヒタギは、受け入れているのだ。
次男として生まれ、光には決してなれない影としての
自分を。
初めて会ったとき、彼と自分は似ていると思った。
でも今は違う。
彼の方が、ずっと強い。
自分とは、比べ物にならないくらい。
「・・・おまえは?」
一瞬、どういう意味か分からず首をかしげる。
「おまえはそう思ったこと、あるのか?
他の誰かのようになりたいと」
まさか問い返されると思っていなかったカエデは少し
だけ目を見開いた。
そして、すぐに目を伏せると、汁物の椀を持つ手に、
わずかに力を込めた。
「・・・・・・あるわ」
過去に数えきれないほど。
そして、今も。
しおらしくなったことを打ち消すように、椀の中身を
口にした。
穏やかな味が口の中に広がる。
少しぬるくなっている。
だが、猫舌のカエデにはちょうど良かった。
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