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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.305 )
- 日時: 2013/07/04 19:58
- 名前: いろはうた (ID: VHEhwa99)
*優しくしないで
あなたの大切な人は
私じゃなくて『あの人』だと
嫌というほどわかっているのに
——————期待してしまうから
*カエデは滝の音で目が覚めた。
寝れた服がぴたりと肌にはり付いて冷たい。
それでようやく生きているのだと実感できた。
あの高さから落ちてどうしているのだろうと思ったとき、
ふと脳裏に黒髪の青年の横顔がよぎった。
「——ッ」
勢いよく身を起こせば滝つぼから少し離れた川岸にいるのがわかる。
求めた青年の姿は意外にも自分のすぐ横に横たわっていた。
うすぼんやりと見える彼の端正な横顔はぴくりとも動かなかった。
胸に冷たいものが落ちる。
嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ。
どうか。
どうか間違いであってほしい。
「…ひ、たぎ…」
かすれる声で呼んだが、応える声がない。
震える手で彼の衣の橋を握ってひっぱった。
「ねえ…ヒタギってば…」
肌に直接触れなかったのは、その温度を知るのが怖かったからだ。
もし温もりが感じられなかったら、と思うと怖い。
でも、確かめなければならない。
「…起きてよ、ヒタギ…目、開けてよ…」
恐る恐るその投げ出された大きな手に触れるために手を伸ばした。
たまらなく怖い。
指先がどうしようもなく震えた。
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