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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 浅葱の夢見し ( No.315 )
- 日時: 2013/07/08 22:20
- 名前: いろはうた (ID: VHEhwa99)
*「ひた————ひゃっ」
触れようとした手に逆につかまれてカエデは小さく悲鳴をあげた。
強く引っ張られ、ぐらついた細い体は青年の腕にすっぽりおさまった。
「…遅い」
とてつもなく不機嫌そうな声が直に耳に届いた。
「なっ、何が!?」
「……目覚めるのが遅すぎる。
おれが…おれがどれだけ心配したか」
ヒタギがさらに腕に力をこめた。
息苦しくなってカエデは小さく身じろぎした。
そこで、カエデはヒタギの腕がわずかに震えていることに気づいた。
「おまえを…失ってしまいうのかと思うと…怖くて仕方がなかった」
声と、揺れる吐息が額にかかった。
体を押し付けているのでヒタギの表情がよく見えない。
カエデはされるがままになっていたが、やがて体の力を抜いて、ゆっくりと目を閉じた。
確かに感じる温もり。
水のような声。
鮮やかなそのすべてが幻ではないと何よりもはっきりと示している。
ヒタギの存在を体の全部で感じる。
「だから、気を失ったふりをした。
おれがどのような気持ちになったかを知ってもらうために」
「…うん。
うん」
頬を勝手に雫が伝った。
ヒタギの子供のような言動すら愛しかった。
「…ヒタギ」
「なんだ」
「…ありがとう」
ヒタギは黙って抱きしめる力を強くした。
普段なら、恥ずかしすぎてヒタギを全力で突き飛ばすところだったが、
カエデはヒタギの胸に頬をすりよせるようにして、彼に寄り添った。
今は、ただ、こうしていたかった。
———たとえ、この腕が本当は姉のもので、自分のものでなくても。
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